糖尿病と塔ノ岳(2)
お節介な人
(単独山行)
2007年5月22日(火) 晴
■花立山荘を目指して
糖尿病だという藤沢の男性と四方山話をしながら,ユックリ,ノンビリと歩き続けて,8時54分に,堀山を通過する。
晴れていれば,この辺りの稜線から富士山が良く見えることや,右手に見える山が三ノ塔で,大山は影になっていることなどを説明する。もう少し登って,花立山荘を過ぎてから,岩稜地帯を登り詰めると,富士山と南アルプスの絶景が見えるはずだが,今日は曇っていて残念・・・などと説明をする。
丁度そのとき,先ほど追い越した中年女性が追いついてくる。私が,
「どうぞお先へ・・・」
と道を譲るが,
「いえ,結構です」
と言って,私達のすぐ後についてくる。
堀山の案内板に「塔ノ岳1時間30分,大倉55分」と書いてある。
「私の感じでは,塔ノ岳1時間30分はまあ何とかなりますが,下りの大倉まで55分はかなりきついですよ・・・」
と私の実感を話す。
堀山を通過してから,登山道は緩やかな下りになる。行く手の木々の間から,花立山荘のある山が透けて見え始める。山腹から上は雲に覆われていて見えない。私は始めて塔ノ岳に登るという同行の男性に,
「木の間から山が見えるでしょう。あの山の山頂が花立山荘ですよ・・・がんばりましょう・・・」
と勇気づける。
<尊仏山頂からの眺め>
■厄介な女性
そのとき,後にいた女性が,
「違いますよ・・・花立山荘のある山は,さらに奥の山ですよ。あれは小草平です。」
と鋭い調子で訂正する。私は,一瞬,頭の中が混乱する。
「えっ・・・小草平は,直ぐ先の堀山の家近くでしょう?」
と質問する。
「ちがいますよ・・・小草平は戸沢分岐の上にある平ですよ。私達仲間は,皆,そう言っていますよ・・・」
と答えた女性は,○○山荘の××さんもそう言っていたと言い張る。
「そうですか・・・私の持っている昭文社の地図では,小草平は堀山の家の近くになっていますよ・・・・それに,戸沢分岐の上に広い平があるのも知っていますが,あそこは尾根の勾配が緩やかになっただけで花立山荘のある山の麓でしょう・・・でも,地図が絶対に正しいとも言えませんので,どっちが小草平でも私は構いませんよ・・・」
私は,これでも元は一端の研究者であった。
「誰かが言っているから正しい」とか,「どこどこに書いてあったから正しい」という言い方にはどうしても引っかかる。誰にも思い違いはあるし,書籍や文献にも間違いがある。もう少し綿密に調査しないと本当のことは分からないであろう。私は,これ以上,不毛な会話はしたくなかった。
するとこの女性は,更に,
「遭難したときのことを考えて,ハッキリさせましょう・・・・もうすぐ堀山の家なのでそこで地図で確かめましょう・・・」
と言い張る。
私は頂上まで1ピッチで行きたかったし,これ以上論争をするのは煩わしいので,「では,直ぐに確かめましょう」と言って,リュックから昭文社の地図を取りだして彼女に見せる。地図を確かめた女性は,
「確かにここが小草平になっていますね」
と絶句する。私にはどちらが小草平でも一向に構わないことだし,昭文社の記事が絶対に正しいとも思っていない・・・ただ,議論するのなら,もう少し論理的であってほしいと思うだけである。
■さすがに私もカチンとくる
この辺りから急坂になる。私は藤沢の男性とこの女性にお別れして,自分の速度で登り続けることにする。
「では,お先に失礼します・・・」
といって先を急ごうとする。そのとき,彼女が,
「競争して私に勝っても何も出ませんよ・・・」
と捨て台詞を私に浴びせる。これにはさすがの私もカチンと来た。
「あなたと競争するつもりなど毛頭ありませんよ・・・私は自分の登山能力を高めるために自分の速度で登っているだけです」
と窘める。さすがに,この女性も,
「ごめんなさい・・」
と私に謝る。
「多分,彼女は私達の話に加わりたかったのだろう。ただ,加わり方がヘタだっただけ・・・要するに孤独なのだろう」と好意的に解釈しておく。
■二人に別れて先を急ぐ
お二人に付き合っている間に,私のこの区間の平均所要時間に比較して,6分ロスしたようである。このロスを山頂到着までに何分取り戻せるかが,私の興味になる。9時02分に堀山の家を通過する。そのまま息が切れない程度の速度で登り続ける。スントの高度計で登攀速度を見ていると,およそ650~750メートル/時の速度で登れば,それほど息切れがしないことが分かる。
花立山荘手前の階段も,今日は比較的余裕を持って登ることができた。9時35分に花立山荘を通過する。この辺りは50メートルほど先も見えないほどの深い霧に覆われている。眺望が全く利かない代わりに,涼しくて心地よい。
霧の中を,9時45分に金冷しを通過する。その後は,何時もの調子で登り続けて,10時02分に塔ノ岳山頂に到着する。途中で道草をしていた割には,まあまあ早かったなと思う。
山頂は風もなく穏やかである。数人の登山客が三々五々,気持ちよさそうに休憩を取っている。霧の上に出たのか,近場の山々が良く見えるが,肝心の富士山や南アルプスは雲の中である。
■ご機嫌の「ミー君」
大倉を出発したのが7時39分だったので,大倉から塔ノ岳までの所要時間は2時間21分であった。途中,道草でロスした6分を差し引くと,実質2時間15分ということになる。欲を言えばきりがないが,この暑い時期の記録としては「まあ,まあ」という所だろう。これからも精進して,体力の向上を図りたいと心に誓う。
山頂からの景色を観賞してから,尊仏山荘に立ち寄る。山荘の温度計を見ると,10時現在の山頂の気温は+14.4℃である。暖かい。先客が3人居る。その内の1人の男性はお馴染みである。この男性は無類のネコ好きである。膝に「ミー君」を乗せて首筋を撫でている。気持がよいのかミー君もこの男性にベッタリである。私は,
「写真を撮らせて下さい・・・」
と断ってから,ミー君と男性の写真を数枚撮る。男性が,
「ネコが好きなんですか・・・」
と私に聞く。
「ええ・・・ネコ好きです。ミー君の写真も沢山撮りました」
これを切っ掛けにして,暫くの間雑談に耽る。
<風格が出てきた尊仏山荘のミー君>
■シロヤシオはまだ
「・・・ところで,シロヤシオはまだ咲かないですか」
と別の客が小屋番に聞く。
「この下の水源地の方から登ってきた人の話だと,麓では咲いていたようですよ・・・でも山頂付近はまだですね・・」
「先週,NHKのテレビで西丹沢のシロヤシオを放送したらしいですね。それからは,西丹沢は大変な人出で,とても混雑しているようですよ・・・」
と小屋番が続ける。
「ところで,どこかへ登りましたか・・」
と私に聞く。
「先週,南アルプスの寸又三山の朝日岳,沢口山へ行って来ました」
「雪は残っていませんでしたか・・・ここから南アルプスを見ると真っ白ですよ」
「深南部の方の山は標高が低いので雪はなかったです・・・」
■丹沢山東光院登山安全札など
尊仏山荘の小屋番から,「持って行きなさい」と勧められて,いくつかの品を頂戴する。
===============================
1.「丹沢山東光院と案安全塔ノ岳登頂記念心願成就狗留尊仏御守護」札
2.「第8回山岳映画の夕べ(横浜)」入場券
主催:山岳映画サロン・横浜山岳協会
日時:2007年6月12日(火)
場所:神奈川公会堂
開場:17:50
上映:18:20~21:00
協賛:アルパインツアーサービス コージツ
電話03-3503-1911
3.「山岳映画サロンの夕べ」
主催:山岳映画サロン
日時:2007年6月4日(月)
場所:豊島公会堂
開場:17:45
上映:18:15~21:00
協賛:アルパインツアーサービス/太郎平小屋/薬師沢小屋/高天原山荘
電話 03-3503-1911
4.第50回記念夏山相談所(資料)
日時:2007年5月23日(水)~28日(月)
場所:上野松坂屋南館7階催事場
5.岩崎元郎氏トークショー(資料)
日時:2007年5月25日(金)
場所:上野松坂屋南館7階催事場
===============================
<尊仏山荘から頂いたもの(一部)>
■ノンビリと下山
10時26分に尊仏山荘から下山を開始する。金冷しを少し下ったところで,先ほどの藤沢の男性とすれ違う。私は,
「どうぞ気を付けて・・・また合いましょう」
と挨拶する。彼は,
「いろいろ教えて頂き有り難う・・・カモシカで靴を買います」
と返事をする。粘着テープで貼り付けた靴底はどうやらもっているようである。
花立山荘付近の登山道は濃い霧の中である。幻想的な霧が魅力的である。後で是非絵に纏めたいと思い始める。
<霧深い登山道>
途中,沢山の登山客とすれ違う。
新緑の森の中を,安全第一を心掛けながら,淡々と下る。そして,12時28分に大倉バス停に到着する。下りの所要時間は2時間03分と平凡。でも,
「ああ,今日も無事に塔ノ岳を往復できたな・・」
とホッとすると同時に,言いしれぬ満足感が身体に漲ってくる。この満足感があるからこそ,私は繰り返し塔ノ岳を登るのだろう。
[ラップタイム]
7:39 大倉歩き出し
↓
7:58 観音茶屋
↓
8:12 見晴茶屋
↓
8:43 駒止茶屋
↓ ※藤沢の男性に同行。6分ロス。
9:35 花立山荘
↓
10:02 塔ノ岳山頂着(+14.1℃)
10:25 〃 発
↓
12;28 大倉バス停着
■登攀・下降高度 1,201m
■登攀所要時間 2時間21分(2.35h)
※途中の6分のロス時間を差し引くと実質2時間15分。
■平均登攀速度 1,201m/2.35h=511.1m/h
■下降所要時間 2時間03分(2.05h)
■平均下降速度 1,201m/2.05h=585.9m/h
(おわり)
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