中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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ペルー訪問記(54):第16日目:ピスコ山登頂(1)

2008年11月03日 15時46分40秒 | ペルー:ブランカ山脈ピスコ山登頂

                     <ピスコ山山頂に到着>

       ペルー訪問記(54):第16日目:ピスコ山登頂(1)
         2008年7月16日(木)

<コルを目指して出発>

■冴え渡る月夜

 ここの幕営場の標高は4,850メートルという高所である.大方の人達は,程度の差こそあれ,応分の高度障害を受けてもおかしくないところである.これまで,少ないながら,私も世界各国で,標高4,500メートル以上の所で,テント生活をしたことがあるが,正直な所,私は高度に余り強くなさそうである.その証拠に,標高3,000メートル以下の所では,断然,私の方が山歩きに強いのに,標高が4,500メートルを超える辺りでは,その方よりも,ずっと弱くなってしまう.そんな方が私の廻りに何人か居られる.また,逆に低地では私の方が弱いのに,標高が4,500メートルを超える辺りからは,私の方が強くなる人もいる.まあ,総じて言えば,私は頭が痛くなるとか,吐き気がするというような高山病特有の症状は出ないものの,食欲不振,体力減退といった高地特有の症状が出てくる. さて,果たしてピスコ山に無事登れるかという心配があってか,寝袋に入ってからも,あまり熟眠できないまま,ウトウトと時間を過ごす.
 その内に,トイレに行きたくなって,目が覚める.12時55分である.もう眠っている時間はない.そのまま起床して,トイレに行くために,テントの外へ出る.寒い.外は満月である.煌々と月の光が冴え渡っている.幕営場周辺の高山が青白く深々と聳えている.私は岩陰に隠れて用を足す.「大」は柔らかい.やっぱり,高度障害を受けている.

                  <深夜の朝食(1:15頃)>

■モレーンキャンプを出発
 1時頃,食事テントで朝食を摂る.全く食欲がない.半ば無理をして,やっとの思いで,一握りほどのご飯を流し込む.
 1時28分,私達は3チームのザイルパーティに分かれて,モレーンキャンプを出発する.チーフガイドにはトーマスさんとKOさん,セコンドガイドにはSさんとflower-hill,サードガイドにはKAさんと三井さんである.
 辺りは,煌々と輝く満月の月明かりで,ヘッドランプは要らないほどである.
 私は心中で,兎に角,慎重に,自分の体調を絶えずチェックしながら登ろうと心に決める.
 とはいえ,およその見当は付くものの,何処をどう登っているのかは,全くガイド任せである.暫くの間は,花崗岩の礫と岩が重なるゴロゴロとした坂道を,ひたすら登り続ける.歩き始めた場所が,すでに富士山の山頂より,ずっと高い所である.一寸でも過激な動きをすれば,直ぐに息苦しくなるのは必定である.私はリマで中川ガイドから伺った注意を思い出しながら,兎に角,慎重に,慎重に,と思い続ける.

■氷河の縁に到着
 私は,平素から山登りのときは,かなりこまめにラップタイムを記録しているが,今日は,登り続けることだけで精一杯で,とてもラップタイムなど取る気にならない.ただ,ひたすらにガイドの後を追うだけである.それでも,登山学校で習った通りに,腹式呼吸を続け,ときどき大きく深呼吸をするように心掛けながら,一歩,一歩,登り続ける.登りながら,以前,モンブランやユングフラウを登ったときのことを思い出す.あのときも今日と同じような気分で登っていたなと懐かしくなる.
 どのくらい登ったろうか,正確な時間は記録していないが,2時52分頃,私達は氷河の縁に到着する.ここで,アイゼンを装着する.勿論,前歯付きの12本爪アイゼンである.重登山靴に鉄製のアイゼンを装着すると,片足だけで3キログラムほどの重さになってしまう.難儀なことだなと思いながら,アイゼンをシッカリと靴に固定する.
 ここからは,ザイルパーティごとにショートロープで結び合って登ることになる.

■残念ながらトーマスさんリタイア
 3時10分頃,氷河の縁から歩き出す.先頭がトーマスさんとKOさんのパーティ,2番手がSさんと私のパーティ,3番手がベテランのKAさんと三井さんのパーティである.
 氷河歩きはきつい.それにやや急な登り坂になる.
 歩き出してから,15分ほど経った所で,トーマスさんの様子がおかしくなる.大分,疲労しているようである.そういえば,モンブランにご一緒したときも,トーマスさんは途中でリタイアしたなと,昔のことを思い出す.
 「せめて,コルのところまで登ってみませんか.素晴らしい眺望ですよ・・・もっとも,どうするかは最終的にはご本人の判断ですが・・・」
と三井さんがコメントする.
 三井さんのコメントを受けて,もう暫くの間,登り続けるが,ものの5分と経たない内に,トーマスさんの足取りが乱れ始める.ここで残念ながら,トーマスさんはリタイアとなる.そこで,一番若手のガイドが,トーマスさんを連れて下山することになる.その結果,KOさんは3番手のパーティに合流して,2編成のパーティになって登山を続けることになる.

■リュックを置いていけ
 トーマスさんのリタイアは,私にとってショックである,トーマスさんとは,モンブランやルアペフ・タラナキ山へ一緒に登った従前からの山仲間である.残った方々は,今回の旅で知り合ったばかり,まだ親密というほどの関係ではない.そんなことから,トーマスさんが下山されると,私は大変寂しい気分になってしまう.
 私は何としても途中で落後したくなかった.これまでの高所登山の経験から,絶対に落後しないようにするためには,自分の思っている体力の70パーセントぐらいの力で登り続けることだと思って,慎重に足を運ぶ.

              <真っ暗な中,氷河の上で休憩(5:03頃)>

■コルに到着
 氷河の上のジグザグ道を登り詰めて,5時03分,稜線上のコル(標高5,350m)に到着する.まだ夜は明けきっていない.ここで小休止.
 5時10分に,コルを歩き出す.ここから,ほぼ稜線に沿って,ピスコ山山頂を目指して登り続ける.結構,急な登り坂が続く.私は途中でバテて,皆に迷惑を掛けたくなかったので,慎重に一歩,一歩登り続ける.
 暫く歩き続けると,三井さんから,
 「flower-hillさん.そこにリュックを置いて行きなさい.ガイドが担いでいきます」
と私に声が掛かる.
 自分では,体力に十分余力があると思っていたので,正直な所,大変ビックリする.
 「大丈夫です,十分余力がありますよ・・・」
と申し出るが,
 「あまりに歩きが遅すぎるので,(リュックを)置いていってください」
とのことである.それならば,有り難くお言葉に従おうと思う.

<氷河の稜線を登る>

■小さな上り下りとジグザグな登山道

 事前に調べた範囲でも,ピスコ山山頂まで,多少の緩急はあるものの,急坂が連続するとばかり思っていたが,実際のルートには,結構,大きく左右に蛇行しているだけでなく,急峻な登り坂のすぐ後に下り坂があるなど,随分と変化に富んでいる.
 ひたすらガイドの後を喘ぎながら登り続ける.
 何時頃かハッキリしないが,前方の小さなコルを超えて続く下り坂が見えている.その坂の先は,小さなコルの反対側に消えている.そして,コルの裏側から,急坂の稜線に続いている.その稜線の遙か上の方を,1対1のザイルパーティを組んだ人が登っているのが小さく見えている.
 「うわ~ぁ・・・あんな高い所までのぼらなければならないんだ・・!」
私は,内心で恐れをなしている.
 もう無我夢中で登るしかないなと改めて思う.私はなるべく足元だけを見ながら,一歩登り,また一歩登るを続けることにする.

                   <夜が明け始める(6:46頃)>
         ※余りに寒いので,カメラのレンズの蓋が凍り付いて完全には開かない.

■夜が明ける
 6時45分頃,完全に夜が明け始める.
 先ほど,高い所だなと見上げた場所を,今,私も登っている.空が青く光り始めるが,気温はますます下がっているようである.兎に角,寒い.指先がバッチリと装備しているのに冷たくてビンビンしている.アンダー手袋,毛糸の手袋,オーバーミトンと重装備しているのに・・・
 辺りの雄大な景色を,写真に撮ろうと思うが,余りに寒いので,カメラのレンズを保護している蓋が凍り付いて,完全には開かない.仕方がないので,カメラを体温の届く衣服の中に仕舞い直す.
 ここでヘッドランプを頭から外して,リュックに仕舞う.

            <氷河の斜面から見たワンドイの勇姿(6:50頃)>
               ※カメラを暖めてから撮影し直した.

■リュックを置いて身軽になる
 7時53分,氷河の斜面で休憩を取る.後を振り返ると,朝日を浴びたワンドイ連山が聳えているのが,良く見える.ただ残念なことに,休憩場所は日陰になっているので,兎に角,寒い.
 三井さんの指示で,この休憩場所に,私達のリュックを置いていくことになる.そして,大切なものはガイドと三井さんのリュックに入れて貰う.結局,ベテランのKAさん以外の方々は,ここから空身のまま山頂を目指すことになる.

                <氷河の斜面で小休止(7:53頃)>
         ※後に見えているのはワンドイ山群.左端に自分の手が写ってしまった.

<ピスコ山山頂へ>

■立ちはだかる氷壁

 比較的なだらかな雪道が連続する.もう何も考えずに,ひたすらガイドの後を歩き続ける.
 どれほどの時間上り続けたのだろうか,目の前に大きなスノーキャップが立ちはだかっている.落差は20メートルほどだろうか.見た目の斜度は垂直に近いが,KAさんによると,せいぜい50度程度だという.
 チーフガイドが,
 「この氷壁を登れば,山頂まで5分だよ・・・」
と私達を勇気づける.
 氷壁に取り付く.
 これまで,登山学校で習った知識と技術があれば,十分,登ることは可能だが,それにしても標高5,000メートルを超える所での氷壁登りは身体に堪える.
 ガイドが確保してくれるロープを頼りに,ピッケルの刃を付け根まで思い切り打ち込んで,アイゼンの前爪を頼りにして,一歩ずつ氷壁を登っていく.恐怖心は全くないが,息切れがして四苦八苦する.氷壁を登り切るのに,どれほどの時間が掛かったか,良く分からないが,登り切った所で,随分と体力を消耗しているなと気が付く.
    
                              <山頂近くの氷壁(8:45頃)>
                          ※KOさん提供の写真を引用
                           トップから2人目(真ん中)が不肖flower-hill.

■ピスコ山山頂に到着
 氷壁を登り切ると,急になだらかな雪原になる.そして,8時52分,遂にピスコ山山頂(標高5,752m)に到着する.山頂の広さは200平方メートルほどもあるだろうか.
 私は山頂の広場に,ヘタヘタと座り込む.暫くの間は,立ち上がる気力もなく,座り込んだまま,登頂記念の写真を撮って貰う.
 とはいえ,今回のピスコ山登頂は,過去に経験したモンブランやユングフラウ登頂に比較すると,意外に呆気なかったなという印象も否めない.確かにピスコ山にも難関な氷壁があるが,モンブランやユングフラウのときに経験したヤセ尾根はなかったし,全体の標高は高いとはいえ,登頂に要する標高差はモンブランに比較すると少ない.
 閑話休題.

 ピスコ山の山頂からは,360度の展望が開けている.5,000~6,000メートル級の高山が,ピスコ山を取り囲んでいる.何時もの私ならば,ここからの眺望を,簡単にスケッチをするのだが,今日はその気力も残っていない.ただ,360度の眺望をカメラに収めるのが精一杯である.
 今日のこれまでを振り返ると,1時22分に,モレーンキャンプを歩き出して,山頂に8時52分に到着した.登頂所要時間は,実に7時間24分も掛かったことになる.これは私が慎重すぎて全体の足をひっぱったからに違いない.すべてが私の責任である.
 この場を借りて,全員の足を引っ張ったことに,遺憾の意を表したい.
 今回の記述も長くなりすぎた.残念ながら,山頂からの眺望は,次回,紹介することにしよう.
                          (つづく)
前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/9051b021d30f03d51f401d940c02fb8f
次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/f3549ac99358abbb662290cc0f9c133c
このシリーズの最初の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/6fee0e316085f32cce0c47a424821346

2008年11月4日
 転換ミスを訂正

[記事訂正のご連絡]

 前回の記事『ペルー訪問記(53)』の中で,下記の誤りがあると読者の方からご指摘を受けました.近々,誤り箇所を訂正致します.(2008年11月4日訂正済み)
  (誤)                  (正)
 ワンドロイ                ワンドイ
 南峰,北峰,西峰が見える         南峰,北峰,東峰が見える

 



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