ウイルヘルム山登頂記(13):ピュンデ湖畔のベースキャンプ(1)
密林と泥濘の登山道
2007年2月10日(土)~17日(日)
第4日目 2007年2月13日(月)
■ベティ小屋の朝
ベティ小屋(標高2630m)で第3日目の夜を過ごす。夜中に寒くて目が覚める。もともと寝相が悪い私は,知らず知らずのうちに毛布を蹴飛ばしたらしい。12時30分にトイレへ行く。外気はそれ程寒くはないが,雨の音か,それとも川の音か,漆黒の闇の中から聞こえてくる。
「ここはPNGの密林の中なのだ・・・」
という感慨を新たに覚える。
そっとベッドに戻った私は,暫くの間,寝付かれないまま,ジッとしている。すると,数人の方々が入れ替わり立ち替わりトイレに立つ。中にはヘッドランプの光を寝ている人の顔に当てていく不心得者もいる・・・・が,その内に再び眠ってしまう。
4時30分,再びトイレに立つ。外気はまあまあ暖かい。気になるザアザアと聞こえてくる水の音は,どうやら雨ではなく,川の音らしい。雨は降っていないようである。
6時30分に起床。型通りに洗面。通じも普通のあり,心の中で「いいぞ!」と叫ぶ。
■軽快な朝食
朝食まで,まだ時間がある。暫くの間,私は小屋の廻りを散策する。夜半に降った雨のために,地面が濡れている。私達が乗ってきた2台の緑色の車が,びしょ濡れになったまま駐車している。どこからともなく現れた数人の現地人が,私に笑顔で「おはよう」と挨拶する。
7時06分から朝食である。
大きなお皿にトースト,ゆで卵2個,煮豆,ジャム,バターなどを乗せる。コーヒーや紅茶を賞味しながら美味しい朝食を摂る。コーヒーカップを乗せるコースターが苺の形をしている。素晴らしくセンスの良いデザインである。
■いよいよ歩き出し
8時16分,私達は,いよいよピュンデ湖畔のベースキャンプ(標高3,550m)へ向けて出発する。
ベティ小屋のすぐ前にある階段を数10段登ると,右手に粗末な小屋が建っている。多分,ベティ小屋の関係者が住んでいるのだろう。この辺りから,進行方向左手から右手に緩やかなスロープになっている。ここからなだらかな上り勾配のトラバース道になる。小屋の辺りから暫くの間,進行方向右側に長い,長い柵が続く。私達は柵に沿って坂道を登り続ける。高度が増すにつれて,次第に右側の視界が開ける。
<右からチーフガイドのトビアス,ケイ,アルフレッド>
■広大なベティさんの土地
8時22分頃,柵から草深いスロープを300~400メートルほど下ったところに大きな2階屋が建っている。庭には大きなパラボラアンテナがある。
「あれはベティさんの家ですよ・・・」
とチーフガイドのトビアス(Tobias Gagma)とサブガイドのジョン(John Kunmn)が説明する。
<ベティさんの豪邸>
ベティさんの所有する土地は,とても広大である。遙か向こうに見える尾根まで全部ベティさんの土地だという。この広大な密林を僅か3,000キナ(約15万円)で購入して,切り開きベティ小屋などの施設を作ったとのことである。
8時38分に漸くベティさんの土地の端に到着する。いよいよ本格的な登山になる。ジャングルの中に踏み跡のような道が続く。スティーブンが先頭を行く。右手には刃渡り50センチほどの刀を持っている。ときどき倒木があって行く手を阻む。するとトビアスが,刀を振り回して,倒木をなぎ倒す。
■いよいよ密林へ
8時52分,標高2745メートル地点の空き地で小休止する。ここで,私達より後から小屋を出発したオーストリア人2人に追い越される。9時00分に再び歩き出す。ぐちゃぐちゃの泥濘道が連続する。泥に足を取られてとても歩きにくい。私達のすぐ後に数名の現地人が迫ってくる。私達の荷物を持ったポーター達である。全員裸足のまま,大きな荷物を担いで,凄い勢いで登っていく。私達はたちまちの内に追い越される。殆どのポーターは小柄でスマートな体形をしている。若い女性が,私のスタッフバッグを持っている。スタッフバッグの肩ひもをおでこに引っかけて,バッグを背中に乗せたまま,グイグイと登っていく。
<私達のポーター:とても力持ち>
曇っていた天気も,いつの間にか晴れてくる。日が射し込むようになると一気に暖かくなる。
9時34分,標高2,865メートルの第2休憩場で休憩を取る。休憩を取りながら,彼らと雑談をする。彼らの話だと,ハイランド地方には鳥以外の動物は居ないという。蛇も蚊も居ない。小さな蝿は居るが,噛みついたりしないという。
9時44分に第2休憩場を出発する。再び密林の中をひたすら登り続ける。
10時26分に第3休憩場(3,050m)に到着する。10分ほど休憩を取る。ここは広場になっている。チーフクッカー(Chief cooker)のアルフレッド(Alfred)が,ここから私達の仲間に加わる。
相変わらず密林の中の登り坂が続く。
10時56分頃,大きな倒木が行く手を塞いでいる。早速,チーフガイドのトビアスが大きな刀を振り回して道を切り開く。10時59分に再び歩き出す。
<行く手を遮る倒木を切り開くトビアス>
■ポンポコ岩とテンブクブクュー滝
11時08分に展望の良い見晴台に到着する。周辺に草原が広がっている。左手の尾根の麓に高さ20~30メートルの岩が屹立している。ガイドが,
「あれがポンポコ岩だよ・・・だからここの地名はポンポコ・・・」
と教えてくれる。ちなみに「大きな岩」のことをポンポコというそうである。広々とした広場はとても気持ちがよい。
<ポンポコ岩の前で>
11時13分,ポンポコを出発する。暫く登り坂を登ると,右手の尾根との間に広大な湿原が現れる。なんともいえない美しい風景である。私達は湿原の縁に沿って,登り坂を登り続ける。ゆっくりと高度を上げていくと,やがて前方に大きな滝が見え始める。ガイドが,
「・・あの滝上に,われわれが宿泊するロッジがあるよ・・・」
と言いながら私達を励ます。
11時54分,標高3,190メートル地点で小休止。
「あの滝は何て言うの・・・」
と私がガイドに聞く。
「・・・あの滝,テンブクブクューっていう名前だよ・・・」
と答える。
「・・・なぁ~んだ・・・ポンポコ滝じゃないの・・・」
と私が混ぜ返す。
「ちがうよ・・ちがうよ・・」
と言いながら,ガイドが腹を抱えて笑い出す。
■ピュンデ湖畔のベースキャンプに到着
やがて滝の脇の道を登り切る。12時33分に第4休憩所(3280m)に到着する。ビッシリと苔が生えそろった素晴らしい広場である。12時39分に再び歩き出す。少し登ると,ベースキャンプの小屋が見え始める。最後の坂道を上り詰める。そして,13時10分にピュンデ湖畔のベースキャンプ(3,550m)に到着する。
(つづく)
密林と泥濘の登山道
2007年2月10日(土)~17日(日)
第4日目 2007年2月13日(月)
■ベティ小屋の朝
ベティ小屋(標高2630m)で第3日目の夜を過ごす。夜中に寒くて目が覚める。もともと寝相が悪い私は,知らず知らずのうちに毛布を蹴飛ばしたらしい。12時30分にトイレへ行く。外気はそれ程寒くはないが,雨の音か,それとも川の音か,漆黒の闇の中から聞こえてくる。
「ここはPNGの密林の中なのだ・・・」
という感慨を新たに覚える。
そっとベッドに戻った私は,暫くの間,寝付かれないまま,ジッとしている。すると,数人の方々が入れ替わり立ち替わりトイレに立つ。中にはヘッドランプの光を寝ている人の顔に当てていく不心得者もいる・・・・が,その内に再び眠ってしまう。
4時30分,再びトイレに立つ。外気はまあまあ暖かい。気になるザアザアと聞こえてくる水の音は,どうやら雨ではなく,川の音らしい。雨は降っていないようである。
6時30分に起床。型通りに洗面。通じも普通のあり,心の中で「いいぞ!」と叫ぶ。
■軽快な朝食
朝食まで,まだ時間がある。暫くの間,私は小屋の廻りを散策する。夜半に降った雨のために,地面が濡れている。私達が乗ってきた2台の緑色の車が,びしょ濡れになったまま駐車している。どこからともなく現れた数人の現地人が,私に笑顔で「おはよう」と挨拶する。
7時06分から朝食である。
大きなお皿にトースト,ゆで卵2個,煮豆,ジャム,バターなどを乗せる。コーヒーや紅茶を賞味しながら美味しい朝食を摂る。コーヒーカップを乗せるコースターが苺の形をしている。素晴らしくセンスの良いデザインである。
■いよいよ歩き出し
8時16分,私達は,いよいよピュンデ湖畔のベースキャンプ(標高3,550m)へ向けて出発する。
ベティ小屋のすぐ前にある階段を数10段登ると,右手に粗末な小屋が建っている。多分,ベティ小屋の関係者が住んでいるのだろう。この辺りから,進行方向左手から右手に緩やかなスロープになっている。ここからなだらかな上り勾配のトラバース道になる。小屋の辺りから暫くの間,進行方向右側に長い,長い柵が続く。私達は柵に沿って坂道を登り続ける。高度が増すにつれて,次第に右側の視界が開ける。
<右からチーフガイドのトビアス,ケイ,アルフレッド>
■広大なベティさんの土地
8時22分頃,柵から草深いスロープを300~400メートルほど下ったところに大きな2階屋が建っている。庭には大きなパラボラアンテナがある。
「あれはベティさんの家ですよ・・・」
とチーフガイドのトビアス(Tobias Gagma)とサブガイドのジョン(John Kunmn)が説明する。
<ベティさんの豪邸>
ベティさんの所有する土地は,とても広大である。遙か向こうに見える尾根まで全部ベティさんの土地だという。この広大な密林を僅か3,000キナ(約15万円)で購入して,切り開きベティ小屋などの施設を作ったとのことである。
8時38分に漸くベティさんの土地の端に到着する。いよいよ本格的な登山になる。ジャングルの中に踏み跡のような道が続く。スティーブンが先頭を行く。右手には刃渡り50センチほどの刀を持っている。ときどき倒木があって行く手を阻む。するとトビアスが,刀を振り回して,倒木をなぎ倒す。
■いよいよ密林へ
8時52分,標高2745メートル地点の空き地で小休止する。ここで,私達より後から小屋を出発したオーストリア人2人に追い越される。9時00分に再び歩き出す。ぐちゃぐちゃの泥濘道が連続する。泥に足を取られてとても歩きにくい。私達のすぐ後に数名の現地人が迫ってくる。私達の荷物を持ったポーター達である。全員裸足のまま,大きな荷物を担いで,凄い勢いで登っていく。私達はたちまちの内に追い越される。殆どのポーターは小柄でスマートな体形をしている。若い女性が,私のスタッフバッグを持っている。スタッフバッグの肩ひもをおでこに引っかけて,バッグを背中に乗せたまま,グイグイと登っていく。
<私達のポーター:とても力持ち>
曇っていた天気も,いつの間にか晴れてくる。日が射し込むようになると一気に暖かくなる。
9時34分,標高2,865メートルの第2休憩場で休憩を取る。休憩を取りながら,彼らと雑談をする。彼らの話だと,ハイランド地方には鳥以外の動物は居ないという。蛇も蚊も居ない。小さな蝿は居るが,噛みついたりしないという。
9時44分に第2休憩場を出発する。再び密林の中をひたすら登り続ける。
10時26分に第3休憩場(3,050m)に到着する。10分ほど休憩を取る。ここは広場になっている。チーフクッカー(Chief cooker)のアルフレッド(Alfred)が,ここから私達の仲間に加わる。
相変わらず密林の中の登り坂が続く。
10時56分頃,大きな倒木が行く手を塞いでいる。早速,チーフガイドのトビアスが大きな刀を振り回して道を切り開く。10時59分に再び歩き出す。
<行く手を遮る倒木を切り開くトビアス>
■ポンポコ岩とテンブクブクュー滝
11時08分に展望の良い見晴台に到着する。周辺に草原が広がっている。左手の尾根の麓に高さ20~30メートルの岩が屹立している。ガイドが,
「あれがポンポコ岩だよ・・・だからここの地名はポンポコ・・・」
と教えてくれる。ちなみに「大きな岩」のことをポンポコというそうである。広々とした広場はとても気持ちがよい。
<ポンポコ岩の前で>
11時13分,ポンポコを出発する。暫く登り坂を登ると,右手の尾根との間に広大な湿原が現れる。なんともいえない美しい風景である。私達は湿原の縁に沿って,登り坂を登り続ける。ゆっくりと高度を上げていくと,やがて前方に大きな滝が見え始める。ガイドが,
「・・あの滝上に,われわれが宿泊するロッジがあるよ・・・」
と言いながら私達を励ます。
11時54分,標高3,190メートル地点で小休止。
「あの滝は何て言うの・・・」
と私がガイドに聞く。
「・・・あの滝,テンブクブクューっていう名前だよ・・・」
と答える。
「・・・なぁ~んだ・・・ポンポコ滝じゃないの・・・」
と私が混ぜ返す。
「ちがうよ・・ちがうよ・・」
と言いながら,ガイドが腹を抱えて笑い出す。
■ピュンデ湖畔のベースキャンプに到着
やがて滝の脇の道を登り切る。12時33分に第4休憩所(3280m)に到着する。ビッシリと苔が生えそろった素晴らしい広場である。12時39分に再び歩き出す。少し登ると,ベースキャンプの小屋が見え始める。最後の坂道を上り詰める。そして,13時10分にピュンデ湖畔のベースキャンプ(3,550m)に到着する。
(つづく)