第四十八章 亡知(知を亡くす)
学を為せば日に益す。
道を為せば日に損ず。
之を損じて又之を損じ、以て無為に至る。
無為にして為さざること無し。
天下を取むるには常に無事を以てす。
其の事有るに及んでは以て天下を取むるに足らず。
この章は、道を修めている者は、目立ったことをなして、人に示したいという心がなくなるものであるが、そのようになれば、できないということは、ないようになるということを説く。
第四十三章に、
不言の教、無為の益は、天下之に及ぶこと希なり
とあるように、道を行う者は、自らの手柄となるようなこと、自らの利益となるようなことは、なさないのであるから、自らを利することを先に考える世俗の人から見れば、道を行う者は、損をした上にも損をしているようである。
このように、自らを利することをなさないようになれば、自我を離れた域に達するわけであって、何をなしても抵抗を受けることなく、成就できるのである。
天下に、事有る時の民衆の心は、生命や、財産の危険におびやかされ、自由を失っているので、平常とははなはだ異なっているのである。その様な状態はいつまでも続くものではなく、特殊の事情が変れば、民衆の心も変って行くわけである。従って、事有る時の民心は、一時的のものであるから、事無き時に、自然に得た時の民心に比べると、取るに足らないのである。