診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

糖尿病って何が悪い?

2023年02月24日 | 医療、健康

連日、軽症から重症まで多数の糖尿病患者さんの診療にあたっている。近年の厚労省の調査では、糖尿病の有病者および予備群の総計は約 2,000 万人と推計されており、人口の 6 人に一人の割合になる。40 歳を過ぎると糖尿病は増え始め、50 歳代では 25 %、60 歳代および 70 歳代で 40 % 程度の人が糖尿病の罹患ないしは予備軍に相当する。では、何故糖尿病は悪いのか? 自分が薬を服用したり、インスリンを注射していても十分理解できていない人が多い。どれだけ事の重大性を説明しても甘く考えている患者さんは多い。以下に合併症について簡単に記載しておくと

  1. 細菌感染時に白血球の働きを鈍くし、感染症が重症化しやすい。
  2. 全身の動脈を詰まらせる動脈硬化を進行させ、心筋梗塞、脳梗塞、網膜症、閉塞性動脈硬化症 (下肢血管閉塞)、腎症 (透析に至る) をはじめとする、内臓への血流障害を来す。
  3. 末梢神経細胞への血流障害による神経障害が起こり、温痛覚が鈍くなったり、手先、足先 (裏) の違和感を来す。
  4. 体内で毎日出現して来るがん細胞の除去機能が破綻し、がんの発生率が上昇(正常人の約 2 倍)する。
  5. 歯茎への血流障害による歯周病が起こりやすくなる。

まだまだあるが、要するに血管という血管が詰まってくる病気であり、誰が名付けたのか知らないが、尿に糖が出るなどという可愛らしい病気でなく、いわゆる 『 全身性動脈硬化症 』 なのである。長年循環器内科をしていると、狭心症、心筋梗塞の患者さんに出会うことは多く、カテーテル治療を行っても 1~2 年以内に再発を繰り返したり、脳梗塞が新たに発症したりといくつもの合併症が次々に発症しだしてくる悲惨な症例に出会うことは珍しくない。3 ㎜ 前後の冠動脈はカテーテル治療ができるが、1 ㎜ にも満たない血管は、動脈硬化が進行すれば元に戻すことは不可能なのである。怖さを知る私からしてみれば、糖尿病の治療をしているにも関わらず、『 ついつい食べ過ぎてしまいました 』 とか 『 甘いものは好きなので我慢できません 』 などと反省もなく他人事のように言われる方がおられるが、笑っておられるのも今だけですよ!


トリプトファン事件

2022年12月31日 | 医療、健康

健康食品、サプリメント( 健康補助食品 )の摂取は副作用もなく安全であると誤解されている場合が多く、過剰摂取には注意を要することを前回お話した。1989 年(平成元年)に健康食品による衝撃的な事件が起こった。睡眠と日内リズムに関連するセロトニンとメラトニンに体内で代謝される必須アミノ酸であるトリプトファンの健康被害事件である。トリプトファンは、睡眠導入のサプリとして米国では爆発的に売れた。しかし、これを摂取することで約 1,500 ほどの人がアレルギー反応に深く関与する白血球の一種の好酸球の増多と、非常に酷い筋肉痛を伴う新しい病気を発生し、『 好酸球増多筋痛症候群 』 と名付けられた。日本の昭和電工が大量に売り上げており、間もなく製造中止になった。製造工程(遺伝子組み換え)でごく微量の不純物が混入したことが原因と当初は考えられていたが、他社の製品でも被害者が少なからず出ていることなどよりこの考えは後に否定的となり、恐らく快眠を希望するあまりに過剰摂取したことが原因ではないかと考えられている。なんと死亡者が 38 名も出てしまったのである。この事件により、健康食品・サプリメントに対して過剰摂取には注意を要すること、真偽は不明であるものの遺伝子組み換えの食品を制限することなど注目された。現在、ダイエットを目的に本来の食事を制限し、栄養分としてサプリメントを何種類も大量に摂取して栄養分が補われたなどと紹介しているテレビ番組や芸能人が多いようだが、あくまでサプリメントは補助目的の健康食品であることを再認識すべきである。副作用は薬だけにあるのでなく、その服用方法を間違えれば、健康食品にも起こり得るのである。さらに付け加えると、一般食品にもあり得るということである。美味しいからと、ひたすら欲望のまま食事やアルコール、おやつを摂りすぎたり、友人に誘われたからとちょこちょこランチと称して外食したりする人が多いのには驚きである。これ皆、一般食品の過剰摂取で糖尿病、高脂血症、肝機能障害などを発症しますよね。これこそ正に一般食品の副作用なのですが、気付いていない人が多すぎます。いい大人なんだから、自己制御し、もっと自分に厳しくならないとといつも診察しながら思っています(笑)。


健康食品 ・・・ 科学的根拠が要らない

2022年12月29日 | 医療、健康

健康食品、サプリメント( 健康補助食品 )の市場が本邦では年間  兆円に届こうとしている。そもそも食品は一般食品と保健機能食品( 特定保健用食品( トクホ )や機能表示食品 )に区別される。保健機能食品はある程度、科学的根拠を示さないと承認されないが、この科学的根拠も非常に怪しいものである。一方、市場の多くを支配している健康食品やサプリメントは一般食品に属するため、科学的根拠は要らない。その半面、効果・効能をパッケージなどに表記することができない。『 ○○〇に効く! 』 などと表記してしまえば違法になる。いわゆる口コミで伝えていくしかない。一例を紹介すると、夜間の頻尿に効果があるのではと言われている 『 ノコギリヤシ 』 というサプリメントが数社から販売されている。一般食品とみなされるので効果・効能を表記することはできない。K製薬の商品では 『 水分をとると夜に何度も・・という中高年男性に 』 と記してある。D社の商品では 『 ◇ キレ・近さに悩んでいる  ◇ 夜中に何度も・・・ ◇ 安心して出かけたい 』 と記載されている。この文面だけ読めば何のこと? というわけだが、ノコギリヤシをネットで調べれば科学的根拠がないにも関わらず、男性頻尿に効果があるといったことはあちこちに載っている。まあ、インチキ的な法整備である。健康食品やサプリメントは科学的根拠不要で販売元がパッケージに記載さえしなければ、好きなことを言っても自由なのである。また、これらの摂取は副作用もなく安全であると誤解されている場合が多い。しかしながら、過剰摂取には注意を要する。歳を取ると骨が弱くなるという理由でカルシウムを積極的に摂ろうと、乳製品を過剰摂取した上に、カルシウムのサプリまで購入して服用されている人がいる。科学的にはどんなに多くカルシウムを摂っても、骨量はわずか1%未満しか増えない。逆に、多く摂れば摂るほど、血中のカルシウム濃度が上昇して、動脈硬化を加速させてしまい心筋梗塞や脳梗塞を招いてしまう結果になる。メリットとデメリットを考えるとお分かりかと思う。次回、『 トリプトファン事件 』 について触れようと思う。

 


11月になりました 今年の冬は?

2021年11月01日 | 医療、健康

早いもので今年も残り2ヶ月となりました。新型コロナ感染は、第 5 波も急峻に終焉を迎え、最近は、ごく少しの感染がくすぶっているものの比較的平穏な日々が続いている。さて、この冬は、第 6 波がくるのか? インフルエンザ感染が流行するのか? 感染症の専門家と言われる医師からは、ともに流行するような意見であるが、果たして本当にそうなのかと首を傾げたくなる。第 1 波~第 5 波全て、ピークが過ぎると急峻に感染数が減少してきた。マスクや手洗いの効果、人流を減らした、ワクチンの効果などと専門家と言われている医師は言っているが、毎回、このような急峻な減少は人間側の努力で生じるはずがなく、ウィルス側の問題であると考える。私は感染症の専門家ではないので詳しいことはわからないが、ウィルスが感染を増やし続けると、ある期間( 2 ヶ月間ほど)が来るとマイナーチェンジ(小さな遺伝子変化)を起こし、感染力を自ら弱めてしまうようなメカニズムがあるのではと考えている。そしてまた一定の期間をもって、感染力を強め、次の波を起こそうとして来るのであろう。しかし、これからは、若い世代の人たちもワクチン接種を済ませ、国民の 7 割以上がワクチン接種を行ったことにより、そう簡単にはこれまでのような感染拡大は起こらないと思われる。従って、感染者が入院もできないような今回のような大きな波は来ないであろうし、例え 第 6 波が来たとしても、非常に小さなピークではないかと考える。本来であれば、国民の 7 割もワクチン接種をしたわけであるので、集団免疫は獲得でき、収束方向に向かうはずなのだが、ワクチンの有効期間が平均 8 ヶ月程度であると、先日の厚生省の発表からすると、完全収束は先送りになると考えられる。当院で250名ほどの接種者の中和抗体を測定したが、約 1 割ほどの方の抗体価が非常に低く、特に高齢者、男性、喫煙者で目立っていた。8 月上旬で高齢者の 2 度目のワクチン接種が終了したことからすると、12 月~ 1 月ごろにワクチン接種を受けたとはいえ、このような抗体価の低い高齢者の感染者がそろそろ目立ちだすのではと危惧される。これが第 6 波(小さな波)になるのではないだろうか。また、インフルエンザの流行に関しても、専門家は昨年流行しなかったので今年は注意が必要で積極的にワクチン接種をするように勧めている。その影響で、クリニックは予約の問題でパニックである。インフルエンザはコロナ感染と違い、無症状(潜伏期間)の患者から感染することもなく、デルタ株のような数メーター四方の空気感染が起こることもない。いわゆる濃厚接触の概念( 2 M 以内の距離で 15 分以上のマスク無し会話、直接咳やくしゃみを浴びせられ、吸入してしまうこと)さえ注意すれば連日、マスク・手洗いしているこの状況下で流行するとは思われない。少し心配なのが、若い世代がコロナワクチンを接種したという油断から、マスク無しでの生活環境でインフルエンザに罹患し、感染を家族間で拡散してしまわないかということである。私は、そして私の家族は今年もインフルエンザワクチンを接種する予定はない。当院は、発熱専門外来は行っていないが、この冬は 2 度のワクチン接種を行った方に限り、まず電話で対応後、診察、処方をする方針にしている。 

最後に、10 月末での新型コロナ感染症患者の累計は 172 2 千人ほどである。無症状で申告できていない数もあるであろうが、感染が始まって2年になろうとしているが、日本の人口が 1 2,500 万人であることから計算すると累計感染者は、1.38 %である。この数字は医学的には非常に高い数字ではあるが、一般感覚からすると 98.6 % の国民は未だコロナに感染していないわけである。この数字、皆さんはどうとらえますか? コロナに罹る人は珍しい? 某芸能人が感染してなかなか入院させてもらえず、死を彷徨ったなどと体験談を語っており、国民は皆苦しんでいるのにこの医療崩壊は国の責任だなんて大声を発していたが、国民は皆?? ごくごくごく一部の国民と言い換えるべきですね。自己管理のできない愚かな人間が騒ぐことではない!皆、必死で予防対策に取り組んでいるのに。