診察室でのひとり言

日常の診察室で遭遇する疑問、難問、奇問を思いつくままに書き記したひとり言

低体温で免疫力が低い??という真っ赤なウソ!

2015年12月04日 | 医療、健康

「先生、私は低体温で元々35℃くらいしかないんです。体温が低いと免疫力が弱くて癌になりやすいと聞きましたが?」「誰に聞きましたか? また適当なテレビ番組でやってましたか?」そもそも体温ってどこの温度なのか一般的に理解されていない。哺乳類は恒温動物であるということは小学校、中学校の理科の教科書にのっている。恒温とは外気の温度に左右されないということで、人間の場合は中枢(体の中)の温度が37℃程度に保たれるようになっている。特に生命に大切な脳や心臓は他の部位を犠牲にしてまでも最後の最後まで37℃に保とうというメカニズムになっている。しかし、体の中心(内部)の温度なんて自己で測定することなど不可能に近く、その代替部として表面から比較的容易に測定できる ワキ(腋窩)、耳、口(舌下)、直腸が代用されるようになっている。要するに、皆さんが測定している体温はワキの温度や口の温度であって、個人差があり、体中心の本来の体温ではないということです。当然、ワキの温度など暑い日と寒い日で異なったり、汗でワキが湿っているだけで温度も変わります。歳を取ると、体からの熱の産生も落ち、体温調節機能も低下するので若い人よりワキの温度は低下します。高齢者の場合、35℃台の方が結構多いことに気づきます。それでも中枢の温度は37℃程度に保たれるようになっています。ということで、体温の低い人の免疫力は低いというのは、真っ赤なウソであるということが理解できると思います。最も、風邪をひいたりインフルエンザにかかったりするとこれらのウィルスは低温で繁殖しやすいため、体は発熱(中枢の温度上昇)して繁殖をくい止めようと反応します。同時に免疫細胞(マクロファージや白血球など)が発熱によって、ウィルスを活発に食べようと頑張ります。ですから、人間の体はちゃんと外敵が侵入したときには体温を上げて免疫を高めています。なにもない時から体温を上げる意味もなければ努力してあげることもできません。自分のワキの温度は各自が日頃から把握しておく必要はありますね。