例により例の如く、本日、また居住地を移転した。
普通に「引っ越した」と書けばいいのだろうが、そういうノリじゃない。
県をまたいでの移動。
毎度思うが、ほとんど「リアル寅さん」か、指名手配犯の移転のノリだ。
全然、知らん地。
来て、最初の「話した」相手が野良猫だった。
毎度、どういうわけか、動物や女子供でオレに寄って来るのはいない。
来るのは、借金取りか麻薬取締局、もしくはかつての職業絡みの人間か税務署かNHKくらいだ。
でも、なぜかそのネコは寄って来た。
一生懸命、なにか話しかけてくる。
あいにく、ネコ語はわからん。
酔うと、母国語もわからん。
ただでさえ聴力に障害があり、ニンゲンの言葉もわからん。
そのうち、「ちょっと待ってろ」みたいな雰囲気を醸し出しながらその場を離れたネコ。
束の間の後、口になにかを咥え、戻ってきた。
当初、「ネズミ」か「鳥」かと思った。
自慢気にそうしたブツを持ってくる個体がいる。
そのネコが咥えてきたのは、「財布」だった。
しかも、わに革。
ゴツイ、見た目にもヤバそうな財布だ。
「何を考えてるんだ、コイツ」
と思いながら、財布を開けた。
長い二つ折りの財布だ。
普段、稀に財布を拾うことが度々ある。
だが、開くことはない。
そのまま交番に届ける。
中身が多かったらパクっちゃいそうで、自信がないからだ。
…そういいながら、「暴行」だのなんだので前科が2つほどある犯罪者だが…。
開いたのは、「落ちていた」モノではなく、ネコの仕業とはいえ、結果的に「パクった」形だからだ。
免許証も入っていた。
その写真を視て、なんとなく悪寒がしたが…。
アポイントを取り、野良猫のためにとりあえず謝罪に行った。
コトの顛末を正直に話すと、大笑いをしだし、「稀にあるかもしれねーな」と来た。
その声から、確信した。
「〇〇だろう、お前」
と訊いた。
ソイツの顔色が変わった。
かつて、オレの舎弟分だった男の一人だ。
ソイツもなんとなくオレだとわかっていたようだった。
「ネコが財布をパクったとか、どこのイカレた奴のいい訳かと思っていたが…」
「…随分出世したモンだな、小僧。オレにそんな口を利くとは…」
「もう、嫌になるほど聞きましたぜ、アニキ。今じゃアル中だって…」
「…お前、このコロナ禍に乗じて、てめーの組起こそうとしてるみてーじゃねーか。あんまり調子に乗ってるなよ、小僧」
「このご時世だから、ココまで懸命になるんすわ。社会に溶け込んだつもりだろうが、アンタ…。未だにヤバい匂いがしてまっせ」
返す言葉がなかった。
確かに、たまに言われる。