【日本国民の命を守るために、日本の安全保障のために、政界・官界・財界・学界を挙げて、感染症危機に対抗する武器開発を真剣に考えるべき時である。】
★自衛隊の生物化学兵器の開発部門を中核とする中央行政府の研究開発機関を統合運用か(注1)>
2021/02/12 12:00
著者:阿部 圭史
阿部 圭史(あべけいし)Keishi Abe
アジア・パシフィック・イニシアティブ客員研究員
専門は医学・公衆衛生学・国際政治・安全保障・危機管理。国立国際医療研究センターで初期研修医(脳神経外科専攻)を経たのち、厚生労働省入省。ワクチン政策や診療報酬改定等の内政政策、国連やWHO等の国際機関や諸外国との外交政策、国際的に脅威となる感染症に関する危機管理政策に従事。また、WHOや国連軍縮部生物兵器禁止条約事務局で、感染症危機管理政策立案、危機対応オペレーション、大量破壊兵器対策の戦略策定、中東・アフリカ地域の脆弱国家における人道危機対応等に関与。ジョージタウン大学外交大学院修士課程(国際政治・安全保障専攻)修了。
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新型コロナウイルスなど、感染症危機に関する国家安全保障や危機管理の側面からの考え方や、感染症危機をめぐる国際政治について紹介する本連載。今回は、前回(日本が「国産ワクチン」開発できていない背景)に続き、日本でワクチンや危機管理薬品で後れを取っている理由や、これを解決するのに必要なアクションを考える。
■日本の製薬企業に技術力がないわけではない
■ワクチンは典型的なバイオ医薬品
■日本以外の市場を見据える必要性
■「政官財学」の連携が必要
新型コロナ危機における日本開発が遅れている状況を踏まえ、将来の未知の感染症危機に備えるために、日本における危機管理医薬品の研究開発、そして製造基盤を充実させる必要がある。
その際に、BARDAのような機関による投資といったプッシュ型インセンティブと、日本政府による薬事審査・承認に関するプル型インセンティブは、車の両輪である。両方なければ、日本の危機管理医薬品の充実は不可能だろう。
これは、製薬企業や厚生労働省、医薬品医療機器総合機構(PMDA)の努力だけではなしえない。外務省によるWHOやアジア各国への働きかけも必須だ。また、国会による法制化の後押しも必要となるだろう。日本国民の命を守るために、日本の安全保障のために、政界・官界・財界・学界を挙げて、感染症危機に対抗する武器開発を真剣に考えるべき時である。
(注1)生物・化学兵器
生物・化学兵器は、比較的安価で製造が容易であるほか、製造に必要な物資・機材・技術の多くが軍民両用であるため偽装が容易である。生物・化学兵器は、非対称的な攻撃手段2を求める国家やテロリストなどの非国家主体にとって魅力のある兵器となっている。
生物兵器は、①製造が容易で安価、②暴露から発症までに通常数日間の潜伏期間が存在、③使用されたことの認知が困難、④実際に使用しなくても強い心理的効果を与える、⑤種類及び使用される状況によっては、膨大な死傷者を生じさせるといった特性を有している。生物兵器については、生命科学の進歩が誤用又は悪用される可能性なども指摘されている。
化学兵器について、最近では、18(平成30)年4月、シリアのアサド政権が東グータ地区で化学兵器を使用したとされ、米英仏3か国はシリアの化学兵器関連施設に対して攻撃を行った3。また、化学兵器禁止条約(CWC:Chemical Weapons Convention)に加盟せず、現在もこうした化学兵器を保有しているとされる主体として、例えば、北朝鮮がある。また、95(平成7)年のわが国における地下鉄サリン事件などは、テロリストによる大量破壊兵器の使用の脅威が現実のものであり、都市における大量破壊兵器によるテロが深刻な影響をもたらすことを示した。18(平成30)年3月に起きた英国での元ロシア情報機関員襲撃事件をめぐっては、ロシアが開発した軍用の化学兵器「ノビチョク」が使用されたとして、英国はロシアが関わった可能性が極めて高いなどと非難したほか、対抗措置として欧米諸国がロシア外交官を追放した。18(平成30)年9月、英国は米仏独との共同声明を発表し、特定された容疑者2名が露軍参謀本部情報総局の職員であると確信しており、露政府上層部による承認を得て行われた可能性が高いなどとして、ロシアによる関与をあらためて強調した。
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