ラオスの社会開発における国際協力援助
―琉球大学からの医療と教育分野の協力関係を事例として
平成25 年度
―琉球大学からの医療と教育分野の協力関係を事例として
平成25 年度

第1章 課題と方法
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第2章 ラオス政府の社会開発政策
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第3章 対ラオスの国際協力支援
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第4章 琉球大学の保健医療協力
第1 節 日本の大学との国際協力
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第2 節 日本のNGO、大学などの対ラオス保健医療支援
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第3 節 琉球大学の国際協力
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第4 節 琉球大学の事業活動
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第5 節 保健医療協力の調査の対象と方法
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第6 節 調査結果
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第7 節 セタティラート病院歯科部の歯科医師へのインタビューとアンケート調査
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第8 節 まとめ
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第5章 琉球大学の教育の交流・支援事業
第1 節 ラオスの教育の現状
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第2 節 サティット小学校の新校舎の寄付
第3章第3項で記述したように、日本のNGO、大学、地方自治体、公益法人などが行う社会開発支援は「草の根協力支援型」、「草の根パートナー型」、「地域提案型」の3つの形態に分類され、JICAの支援を受けている団体のほか、支援を受けていない団体もある。
それぞれの団体によって、生活改善・生計向上に直接役立つ保健や教育といった基礎生活分野のうちどれを対象としているかは微妙に異なる。現在、日本とラオスの間では15の友好協会が立ち上げられており、ラオスとの交流や支援を行っている。例えば、埼玉ラオス友好協会、熊本ラオス友好協会、福岡ラオス友好協会などが小学校建設の資金支援や教材などを寄付している。
それぞれの団体によって、生活改善・生計向上に直接役立つ保健や教育といった基礎生活分野のうちどれを対象としているかは微妙に異なる。現在、日本とラオスの間では15の友好協会が立ち上げられており、ラオスとの交流や支援を行っている。例えば、埼玉ラオス友好協会、熊本ラオス友好協会、福岡ラオス友好協会などが小学校建設の資金支援や教材などを寄付している。
しかし、こういった地域の友好協会が人材育成まで行っている例は見当たらない。
また、大学では、
広島大学が教育分野において日本政府の専門家派遣支援や人材育成支援に取り組んでいる。
名古屋大学は、ラオスの法整備に対する支援、人材育成などを行っている。
神戸大学は、経済分野における人材育成を行っている。
このような大学による支援は、ほとんどが日本文部科学省を通した留学生(JICEを含む)やJICAの研修員を受け入れる形態をとっており、
学校建設のようなハード面での支援は見られない。
琉球大学は、2005年に立ち上げた沖縄ラオス友好協会を通して、ハード面の支援としてラオス国立大学附属小学校に新校舎1棟(以下、新校舎と記す)を寄付していると同時に、医学部や教育学部、法文学部による教員や学生との交流といったソフト面での教育支援も行っており、他の民間部門による支援には見られない特徴的な支援形態をなしている。
琉球大学は、2005年に立ち上げた沖縄ラオス友好協会を通して、ハード面の支援としてラオス国立大学附属小学校に新校舎1棟(以下、新校舎と記す)を寄付していると同時に、医学部や教育学部、法文学部による教員や学生との交流といったソフト面での教育支援も行っており、他の民間部門による支援には見られない特徴的な支援形態をなしている。
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第3 節 調査の対象地域と方法
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第4 節 調査結果
第1 項 教員に対するアンケートの結果
(1)教員の状況
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(2)教員の研修
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(3)生徒の教育の状況
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(4)学校のイベントと教育の予算運営
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(5)最近の教育の変化
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(6)教育開発の必要性
ラオス教育開発状況における国際協力はソフトの分野とハードの分野に分けられる。まず、前者はカリキュラム開発、教材(教科書)や教員研修などである。後者は、校舎、机や椅子などの整備である。
1)ソフトの分野
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2)ハードの分野
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(7)アンケート調査のまとめ
教員の男女別構成は、88.0%が女性教員であり、そのうち41 歳以上の女性教員が50.0%を超えた。
教員は安定した職業だが、給料がまだ少ないため、女性に人気が高い。
一方、給与面では教員の給与が少ないため、副業を持っている教員の割合が多いと考えられたが、実際に副業を持っている教員は50.0%以下であった。
しかし、インタビューによると、自給自足的な農業や畜産(鶏や豚など)、織物などを行っており、時間をとられている。
各村に公立小学校があり、私立小学校も増えて、教育へのアクセスは改善しているがカリキュラムや教員の質が問題である。
各村に公立小学校があり、私立小学校も増えて、教育へのアクセスは改善しているがカリキュラムや教員の質が問題である。
小学校の教育レベルは、以上で述べたように教員の生活状況に左右されているといえる。サティット小学校の場合、意識はかなり高くなってきたが、やはり生活に追われているという側面がアンケートでもインタビューでも見え隠れ
する。
それでも最近の教育現場では、学校の環境や教員の生活が以前より改善され、教育内容は量的にも質的にも変化が見られたが、まだ十分ではない。この結果から、今後は生徒の関心・意欲を引き出すカリキュラム開発、教材改善、校舎などに関して、将来的にさらなる国際協力が必要であると考えられる。
する。
それでも最近の教育現場では、学校の環境や教員の生活が以前より改善され、教育内容は量的にも質的にも変化が見られたが、まだ十分ではない。この結果から、今後は生徒の関心・意欲を引き出すカリキュラム開発、教材改善、校舎などに関して、将来的にさらなる国際協力が必要であると考えられる。
第2 項 保護者を対象とした調査結果
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第3 項 国際協力支援
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第5 節 まとめ
(1)ラオス国立大学の周辺の教育状況
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(2)モデル校としてのサティット小学校
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(3)ラオスと琉球大学(沖縄)の教育協力援助の可能性
第6章 結論
第1 節 参加型開発としての「ちゃーがんじゅープロジェクト」の可能性
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第2 節 被援助国ラオスにおけるグローバル化の影響
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第3 節 ラオス政府に必要とされる今後の対応策
本論文の問題の所在として、2020年に最貧国からの脱却を最大の目標として掲げるも、慢性的な資金不足から国家が医療、教育、その他社会サービスを充分に国民に提供することが出来ない現状があるラオスにおいて、国際協力援助を得たミクロレベルの社会開発が、住民参加や市民活動など新しい流れをもたらす可能性があるかどうかを提起した。
多くの途上国において、地域の社会開発事業はトップダウン的な行政システムによって計画・実施されてきたが、そこでは住民の意見があまり尊重されず、そのニーズが反映されないまま事業計画が策定され、公共事業の実施においても住民を主体的に参加させる慣行や制度がない場合が多かった。
一方で、住民側においても行政が実施する開発事業に関する情報や行政サービスへのアクセスを十分に持たない場合が多く、開発事業への積極的な関与・参加を行うことが十分に出来なかったとの分析もある[国際協力機構2011:51]。
多くの途上国において、地域の社会開発事業はトップダウン的な行政システムによって計画・実施されてきたが、そこでは住民の意見があまり尊重されず、そのニーズが反映されないまま事業計画が策定され、公共事業の実施においても住民を主体的に参加させる慣行や制度がない場合が多かった。
一方で、住民側においても行政が実施する開発事業に関する情報や行政サービスへのアクセスを十分に持たない場合が多く、開発事業への積極的な関与・参加を行うことが十分に出来なかったとの分析もある[国際協力機構2011:51]。
また、援助機関や中央政府が実施する取り組みはトップダウンが多く、それによって一時的に支援提供されても、外部のアクターの取り組みが終わればあっというまに元の木阿弥になってしまうことが多い。
また、いつまでも支援を続けると住民に海外からの援助を期待する依存心を育ててしまいかねないとされている[国際協力機構2004:13]。
ラオスの援助受容能力は財源、人材等の面から限定的である。
ラオスの援助受容能力は財源、人材等の面から限定的である。
外部からのインターベンションによって可変性があるか、期待されるプラスの変化は持続性があるかなどを詳細に検討することが必要である。
また、ラオスの自立性を促し、オーナーシップの意識を高める手段として、パフォーマンス指標を設定することも一案である。
パフォーマンス指標については進捗状況をモニタリングする体制を整えるといったことも不可欠である。
キャパシティ・ビルディングの一環として、適切なモニタリングを行うのに不可欠な基本的統計データを含むベースラインデータの整備への支援も視野に入れる必要がある[日本外務省2005:4-17]。
ラオスは社会主義国で、意思決定権においては住民より党(党委員)が強い。組織体の中では政府の職員は中央から地方へ任命されることが多いトップダウンの体制である。
1991年の憲法策定では、地方分権体制を取っていたが、地域社会開発の主体である地方政府自身に、住民のニーズを重視する態度や住民参加型の開発を実施する能力は依然として不足している。
ラオスは社会主義国で、意思決定権においては住民より党(党委員)が強い。組織体の中では政府の職員は中央から地方へ任命されることが多いトップダウンの体制である。
1991年の憲法策定では、地方分権体制を取っていたが、地域社会開発の主体である地方政府自身に、住民のニーズを重視する態度や住民参加型の開発を実施する能力は依然として不足している。
ラオスへの対外協力援助事業でも、中央政府レベルで決めたことを受け入
れるという従来のような体制では不十分で、住民参加により、援助依存におちいることなく社会開発を行っていく必要がある。
れるという従来のような体制では不十分で、住民参加により、援助依存におちいることなく社会開発を行っていく必要がある。
参加型開発の方法を取り入れた「ちゃーがんじゅープロジェクト」では学校をアプローチのエントリーポイントとして援助に取り組むことによって地域へ広く、郡、県、国家レベルまで影響が拡大していくと考えられている。
第4 節 琉球大学によるラオスへの協力援助の今後の展開
第4 節 琉球大学によるラオスへの協力援助の今後の展開
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②教育分野
2015年までに、「万人のための教育(Education for All: EFA)」のラオス政府の教育開発の重点である「機会の拡大」、「質と適切性(レリバンス)の向上」、「教育行政・マネジメントの改善」の目標を達成するために、琉球大学とラオス国立大学が共同でサティット小学校をモデル校とし、ラオスの初等教育開発に貢献している。
教育はその国の政治・経済・社会・文化・宗教・言語などと密接に関係しており、教育が置かれている状況や担うべき役割は国により異なっている。
しかし、現状分析により政策を推進させることが可能な条件を見出し、それらを有効に活用できる政策立案能力や施策実施能力を、政府や地方自治体が身に付けることで、より効果的・効率的に教育開発を実現できる可能性は高い。
また、日本の教育経験の中では、教育レベルを上げるための施策として、学校基本調査、学校教育診断、生徒実態調査などの定期的実施による教育統計
の整備と分析、審議会制度の導入や地域住民の学校教育への参加促進などを通じた外部有識者や協力者の動員、研修や裁量権の拡大による教育行政官や学校管理者の能力強化といった方策があり、それらはラオスでも学ばなければならない[村田2004:13]。
の整備と分析、審議会制度の導入や地域住民の学校教育への参加促進などを通じた外部有識者や協力者の動員、研修や裁量権の拡大による教育行政官や学校管理者の能力強化といった方策があり、それらはラオスでも学ばなければならない[村田2004:13]。
ラオス国立大学は、ラオスの教育開発に長く携わってきた教員養成機関でもある。
グローバル化の渦中において国家単独での教育開発には無理があるとして、ラオスの教育開発の目標は国家レベルからASEAN レベル及び国際レベルへ引き上げられる必要が指摘されている。
日本の教育の発展段階でもそうであったが、近代化の初期段階や途上国においては、学校建設や運営費用の大部分が地域社会の負担で賄われている。
日本の教育の発展段階でもそうであったが、近代化の初期段階や途上国においては、学校建設や運営費用の大部分が地域社会の負担で賄われている。
すなわち、教師の生活環境の整備や意欲は地域社会によって支えられており、一見供給側の問題であるはずの「教育の質」が、実は需要側の関与によって規定されている、ということも珍しくない。
また、いくら提供する教育の質を上げても、学生に学習意欲がなければ、高い学習成果は達成できず、学生の学習意欲を喚起し支えるのは、家庭や地域社会、そして学歴や学力を積極的に評価する社会的人材登用システムである[黒田2008:212]。
内海成治が指摘したように、それぞれの地域・国は固有の教育課題を担っているため、国際教育協力の実施に当たっては、そうした問題を抽出・理解するための個別研究が不可欠である。また教育分野の協力ニーズや実施方法はそれぞれが特徴を持っており、個別のプロジェクト実施に当たっての一般的な処方箋を作成することは困難である[内海2001:69‐71]。
琉球大学とラオスの教育交流・支援の内容は、ハード面としては沖縄‐ラオス友好協会からの新校舎寄付、ソフト面では琉球大学が人的交流や人材育成を援助している。
内海成治が指摘したように、それぞれの地域・国は固有の教育課題を担っているため、国際教育協力の実施に当たっては、そうした問題を抽出・理解するための個別研究が不可欠である。また教育分野の協力ニーズや実施方法はそれぞれが特徴を持っており、個別のプロジェクト実施に当たっての一般的な処方箋を作成することは困難である[内海2001:69‐71]。
琉球大学とラオスの教育交流・支援の内容は、ハード面としては沖縄‐ラオス友好協会からの新校舎寄付、ソフト面では琉球大学が人的交流や人材育成を援助している。
カリキュラム・教材の開発は、国家レベルの教育計画策定や、政治・経済・社会・文化などに総合的に配慮しなければならないので、経験者、技術者、専門家の参加が必要である。
それゆえに、ラオス国立大学と琉球大学がサティット小学校を拠点として共同研究をすることには意義があるのである。
両大学がビエンチャン首都圏での研究の成果を上げれば、地方大学のスパーヌボン大学北部・ルァンパバーン県)、サワンナーケット大学(中部・サワンナーケット県)そしてチャムパサック大学(南部・チャムパサック県)への影響力は大きい。
両大学がビエンチャン首都圏での研究の成果を上げれば、地方大学のスパーヌボン大学北部・ルァンパバーン県)、サワンナーケット大学(中部・サワンナーケット県)そしてチャムパサック大学(南部・チャムパサック県)への影響力は大きい。
そして、それぞれの大学が地方の教育状況を研究し、その地域の状況に合わせたカリキュラム・教材開発につながっていくものと考えられる。
ラオス政府が国際協力の援助を受けながら、社会開発するために策定した主要なセクターである教育と保健医療の二つの分野と日本の対ラオス支援の重要点を比較すると「貧困削減」「基礎教育の充実」「保健医療サービス改善」において両国の方向性が一致している。
また、教育および保健医療の分野での琉球大学の対ラオス支援(協力関係)は、ラオス政府の政策と日本の援助方針と方向性を共有しており、ミレニアム開発目標(MDGs)にあてはまる。
本研究では、ラオスの社会開発について、国際協力援助の枠組の中で保健医療と教育の社会開発を行っている事例として、琉球大学とラオスとの協力保健医療事業(第4章)とラオス国立大学と琉球大学の教育交流(第5章)を扱い、ラオスでのニーズと課題について考察や分析を行った。
ラオス政府が国際協力の援助を受けながら、社会開発するために策定した主要なセクターである教育と保健医療の二つの分野と日本の対ラオス支援の重要点を比較すると「貧困削減」「基礎教育の充実」「保健医療サービス改善」において両国の方向性が一致している。
また、教育および保健医療の分野での琉球大学の対ラオス支援(協力関係)は、ラオス政府の政策と日本の援助方針と方向性を共有しており、ミレニアム開発目標(MDGs)にあてはまる。
本研究では、ラオスの社会開発について、国際協力援助の枠組の中で保健医療と教育の社会開発を行っている事例として、琉球大学とラオスとの協力保健医療事業(第4章)とラオス国立大学と琉球大学の教育交流(第5章)を扱い、ラオスでのニーズと課題について考察や分析を行った。
本研究により、琉球大学とラオス共同研究の進展につながり、また保健医療と教育分野のみにとどまらず、他の分野への発展が期待できる。さらに、本論文の研究成果は日本の対ラオス援助また被援助者であるラオスの開発政策立案にとって重要な論点を提供できるであろう。
参考文献:
1.日本語文献
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下條隆嗣、2002「日本の国際教育協力における大学の役割―科学教育を中心に―」『国際教育協力論集』第5 巻、第1 号
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