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近藤 大介のプロフィール
ジャーナリスト。
東京大学卒、国際情報学修士。
中国、朝鮮半島を中心に東アジアでの豊富な取材経験を持つ。
講談社『週刊現代』特別編集委員、『現代ビジネス』コラムニスト。
近著に『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)、『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)、『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)、『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)、『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)、『アジア燃ゆ』(MdN新書)など。
- 『未来の中国年表ー超高齢大国でこれから起こること』(講談社現代新書)
- 『二〇二五年、日中企業格差ー日本は中国の下請けになるか?』(PHP新書)
- 『習近平と米中衝突―「中華帝国」2021年の野望 』(NHK出版新書)
- 『ファーウェイと米中5G戦争』(講談社+α新書)
- 『中国人は日本の何に魅かれているのか』(秀和システム)
- 『アジア燃ゆ』(MdN新書)
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4月5日、中国は清明節だった。
日本で言えば春のお彼岸の祭日で、14億国民がしばし仕事を忘れて、先祖の墓参りをした。
だが、相変わらずいきり立っている中国政府は、清明節も返上で、台湾への抗議文の作成に余念がなかったようだ。
〇「米国は『一つの中国』の原則を空文化させている」
アメリカ西部時間の同日午前10時(日本時間6日午前2時)、台湾の蔡英文(さい・えいぶん)総統が、立ち寄り先のロサンゼルスのロナルド・レーガン図書館で、アメリカ連邦議会下院のケビン・マッカーシー議長と、約40分会談した。
台湾総統がアメリカ国内で下院議長と会談するのは、1979年に断交して以降、初めてのことだ。
それだけに、中国外交部は即刻、「報道官談話」を発表した。全文は長文だが、要旨は以下の通りだ。
<最近アメリカは、中国側の厳正な交渉とたびかさなる警告をも顧みず、台湾地域のリーダー蔡英文が、トランジットでアメリカに逃げ込むのを故意に許した。
そしてアメリカ政府のナンバー3、マッカーシー下院議長が、蔡と高らかに会見した。
アメリカの官僚と国会議員も同時に接触した。蔡が「台湾独立」分裂の発言を発表するのに、演台を提供したのだ。(中略)
長期にわたり、アメリカは「以台制華」(台湾をもって中国を制御する)戦略を実行している。
「3つの共同コミュニケ」に違反し、台湾と公的な往来を行い、台湾に武器を売って軍事的に結びついている。
そして台湾が「国際空間」を展開するのを助けるなど、引き続きラインを越えた挑発を行い、「一つの中国」の原則を不断に空文化させている。
台湾問題は、中国の核心利益の中の核心であり、中米関係の最も越えてはならないレッドラインだ。「
台湾独立」と両岸の平和安定は、水と火のように相容れないもので、台湾独立は死の道へ一直線なのだ。
われわれは再度、アメリカが即刻、台湾とのすべての公的な往来を停止し、
米台関係を実質的に引き上げることを止め、台湾海峡の緊張の原因を作り出すのを止め、「以台制華」を停止することを促す。
過ちと危険な道を、延々と進んでいくものではない>
アメリカのFOXニュースによれば、この会談の前、ワシントンの中国大使館からアメリカ連邦議会に向けて、A4用紙で4ページ近い「脅迫文」が送りつけられたという。
「中国は決して座視しないし、結果についてはアメリカが深く後悔することになるだろう」という警告だ。
中国外交部と同時に、全国人民代表大会外事委員会、中国共産党中央台湾弁公室、中国国防部も、それぞれ「談話」を発表した。
特に国防部の「報道官談話」は、外交部の談話ほど長くはないが、強い語調だ。
<われわれはアメリカが、台湾問題で中国に向けて出した厳粛な政治的承諾を守ることを促す。
粗暴な中国の内政への干渉を停止し、台湾との公的往来や米台の実質的な関係をアップグレードさせることを止め、「一つの中国」の原則を空文化させるのを停止するよう促す。
中国人民解放軍は職責と使命を堅守し、常に高度な警戒準備を保持し、国家の主権と領土の保全を決然と死守し、台湾海峡の平和と安定を決然と維持、保護していく>
国防部は談話だけでなく、会談に先駆けて5日、実力行使にも出た。
台湾とフィリピンの間のバシー海峡
を、空母「山東」が西太平洋に向けて通過したのだ。
中国として2隻目となる空母「山東」が、2019年12月に就役して以降、西太平洋で訓練を行うのは初めてのことだ。
〇台湾は大盛り上がり
一方、台湾は、「蔡麦会」(ツァイマイフイ)と呼んで、大いに盛り上がった。
「マッカーシー」は漢字で「麦卡錫」と書く。
与党・民進党寄りの『自由時報』は、「中国に振り回されない! マッカーシーが蔡英文と会談後に声を挙げた『常に武器売却を確保し、経済協力を強化していく』」とのタイトルで、会談の速報を報じた。
マッカーシー下院議長に右手を背中に当てられ、満面の笑みを浮かべる蔡総統の写真も載せていた。
<蔡英文総統率いる一行は「民主パートナーとの共栄の旅」を展開しており、アメリカ西部時間5日午後、ケビン・マッカーシー下院議長の会談を行った。これはわが国の総統が初めてアメリカ本土で、アメリカの「ナンバー3」と会談したもので、国際的な関心を呼んでいる。
蔡英文総統は、会談でマッカーシー議長とともに、「われわれが共にある時、さらに強大になれる」と述べた。
マッカーシー議長は、会談後の声明で強調した。
台湾へのスピーディな武器輸送と、次に双方は経済協力を強化しないといけない。とりわけ貿易と技術協力だ……>
『自由時報』は、「蔡麦会」に同席した「18人の超党派議員」の名前を列挙するなど、力が入っている。
台湾のインターネットテレビで「蔡麦会」のニュースを見ていたら、途中で「エンゼルスの大谷翔平投手が初勝利」という速報が入った。
台湾はやはり、精神的にアメリカ、日本との結びつきが強いのである。
〇中国は軍事演習で台湾を威嚇するのか
ともあれ、注目されるのは、今後の中国の出方だ。
昨年8月にナンシー・ペロシ下院議長(当時)が台湾を訪問した時のように、台湾を包囲する大規模な軍事演習を展開するのか?
私はしないと見ている。
今回中国は、「蔡麦会」に対する「報復」を、すでに二つ行っている。
①一つは、3月26日に、82年間も台湾(中華民国)と国交のあったホンジュラスを、台湾と断交させて、中国と国交を樹立させたことだ。
これで台湾と国交のある国は、わずか13カ国となった。
〇強い圧力をかけると台湾の独立派を勢いづかせることに
➁もう一つは、蔡総統の「宿敵」である馬英九(ば・えいきゅう)前総統・元国民党主席を、蔡総統の外遊とほぼ同じ日程で、中国へ訪問させたことだ。
馬前総統は連日、中国の訪問先で「一つの中国」を連呼している。
中国には、「4年前の教訓」がある。蔡英文総統の再選に黄信号が灯っていた2019年夏、香港で民主化デモが起こり、これを強硬に弾圧した。
その結果、蔡総統が「今日の香港が明日の台湾になってもよいのか!」と叫び、2020年1月の総統選挙で、817万票という台湾総統選史上、最高得票数で再選を果たしたのだ。
そのため今回、蔡総統がいくら「蔡麦会」を演出しても、派手に軍事的な対抗措置を取ることができないのである。
そんなことをすれば、再び蔡英文民進党を総統選で利することになるからだ。それで台湾有事に直結する大規模軍事演習という「剛速球」ではなく、上述のような「変化球」を投げてきているのだ。
ともあれ、台湾総統選挙が行われる2024年1月に向けて、アメリカや日本も巻き込んだ台湾と中国の虚々実々の駆け引きが活発化していくことは間違いない。
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