世界標準技術開発フォローアップ市場展開

ガラパゴス化から飛躍:小電力無線IEEE802規格開発会議・・・への寄与活動拡充

シリアのアサド政権を見捨てたプーチンの苦境、統計データが浮き彫りにしたロシア経済の真の姿#2024.12.10#土田陽介

2024-12-15 15:55:24 | 連絡
:::::

土田陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。
欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。
2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。
:::::
シリアのアサド政権が崩壊した要因として、アサド政権を支援していたロシアの弱体化が挙げられる。
実際、今も公表されているロシア経済のデータを見ると、ヒト・モノ・カネのすべてが不足している「不足の経済」に陥っている状況が見て取れる。
統計データが表すロシアの真の姿とは。
(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・副主任研究員) 
ウクライナに侵攻してから1000余日。米欧日から経済・金融制裁を受けたロシア経済は強く圧迫された。
しかし、この間に首都モスクワを訪問した識者は、ロシア経済の様相に特に変わった様子はないという。
戦争前と変わらずモノがふんだんに存在するというのがその理由だが、それはモスクワだからという特殊な理由もあるだろう。
 経済・金融制裁の狙いは、それまでの供給網(サプライチェーン)を寸断することで、経済活動の圧迫させることにある。
当然、制裁を受けた側は、経済活動を維持できるように、代替ルートの確保と供給網の再構築に努める。
ただし、そうしたスイッチングコストは大きいため、結局、制裁を受けた側の経済成長は下押しされることになる。
 ロシアの場合、イランや北朝鮮と比べてもともと供給力が強いため、経済・金融制裁を受けているにもかかわらず、戦争前と生活が変わらないという印象につながるのだろう。
とはいえ、ロシア経済が戦時経済化しているのは紛れもない事実だ。
その結果、軍需が民需を圧迫していることも事実である。
経済は成長していても、それは軍需主導だ。
 ヒトモノカネという生産要素は有限だが、戦争が起きなければ、ロシアはそうした生産要素を通常の経済活動に集中して当てることができた。
しかし戦争が生じ、またそれが長期化する中で、ヒトモノカネを軍事活動に集中せざるを得なくなった。
当然だが、通常・平時の経済活動に当てることができるヒトモノカネはひっ迫する。
インフレの加速も、そうした理由から説明できる。
需要が強い面も否定できないが、一方で民需に対応できるだけの生産要素を割り当てることができないため、民需に相応するモノ(やサービス)の生産が圧迫されている。
つまりモノ不足が生じていることが、インフレの加速につながっていると整理できる。
これはロシア中銀も認めるところだ。  
ロシア中銀はまた、人手不足が深刻化していることも認めている。
そこで、ロシア連邦統計局のデータより、人手不足がどのような業種で深刻化しているのかを確認してみることにした。
ウクライナ侵攻後、ロシアは内容によっては統計データの公開を止めているが、一方で公開し続けている統計データの信ぴょう性はそれなりに高い。
■ロシアは何が足りないのか?ロシアを蝕む人手不足の本質
基本的に、ロシアは急速に少子高齢化が進んでいる国である。
そしてロシアは、不足する労働力を中央アジア諸国からの移民で補っている。そうした経済で雇用が堅調に増えていれば、人手不足には深刻なものとなる。そこで、まずはロシアの雇用者数の前年差増減数を産業別内訳に確認してみたい(図表1)。 
サイト
参照
 まず、各産業をモノ生産関連(農林水産業と鉱工業)とサービス生産関連、戦争関連(行政・国防)、その他に分類し直してそれぞれの前年差を確認すると、2024年もロシアの雇用者数は増えているが、特にモノ生産関連での雇用が増えていることが分かる。
軍需品の増産圧力や輸入品の代替生産圧力を受けて、製造業で雇用が増えたのだろう。
 一方で、サービス生産関連に関しては、増加幅が縮小しているという特徴がある。このサービス生産関連の内訳をブレイクダウンすると、顕著な動きとして、卸売小売業・自動車修理業・宿泊飲食業で雇用者数が減少している様子が窺い知れる(図表2)。
サイト
参照
この様子は、生活に密着したサービス業で人手不足が深刻化している可能性を窺わせる。 
実際、SNSでは、都市部の生活関連サービス業で人手不足が進んだことを指摘する声が多い。
要するに、小売店や飲食店での人手不足が顕著なのだろう。
マクロ的には、ヒトが有限である中で、軍需や輸入品の代替生産のヒトを投入するため、生活関連サービスを生産するために投入すべきヒトを犠牲にしているという理解が成り立つ。
それに、2024年以降は戦争関連(行政・国防)での雇用の減少が目立つ。
戦争の長期化を受けてロシアは慢性的な兵士不足に陥っており、第三国から派兵を受けていることが確認されている。
シリア


におけるアサド政権の崩壊は、ウクライナとの戦争に注力するあまりにロシアが兵士不足に陥っていることと無関係ではないだろう。
 
■再び「不足の経済」に陥るロシア
かつてハンガリーの経済学者コルナイ・ヤーノシュは、東欧やロシアの前身国家であるソ連の経済を「不足の経済」だと評価した。
計画経済の下では、政府が需要を予測し、企業に生産を命じる。
そうすると、需要と供給に著しいズレが生じる。
あるモノは余りあるほどとなり、あるモノは極端に不足する。その結果、国民生活は疲弊する。 
極端な例を出せば、ソ連にはミサイルに代表されるたくさんの軍需品が存在した。
一方で、衣食住に関係するモノは日常的に不足し、国民は配給制に基づくモノの調達を余儀なくされた。
そして、ソ連国民は配給を待つために、商店の前に長蛇の列を形成した。
この長蛇の列は、価格に反映されないインフレという意味で「抑圧インフレ」と呼ばれた。
現在のロシアではまだ市場経済が機能しているが、戦時経済化が進む中で、政府による経済運営は計画経済的な性格を強めてきている。
戦争の長期化でヒト・モノ・カネといった生産要素を軍事経済の運営に集中せざるを得ない以上、平時経済の運営に当てることができるヒト・モノ・カネは限定的であるから、国民の生活は圧迫されてしまう。
 ヒトの面に注目すれば、地方の人手不足はことさらに深刻と想像される。
報道によると、戦争に徴用されるロシア国民は都市ではなく地方の国民が多いようだ。
言い換えれば、地方からヒトがいなくなっていることになる。
帰還できても、そうした国民の多くが傷痍軍人であるから、徴兵前と同様に働くことができるケースの方が稀だろう。
 
■カネも不足しているロシア
他方で、ロシアではカネも不足している。
高インフレを受けて中銀が利上げを進めており、市場からカネを回収しているためだ。
米ドルに代わって企業の資金取引に用いられるようになった人民元も、その需要の強さに供給が追い付いていないため不足している。
つまりヒトとモノだけではなく、ロシアではカネも不足していることになる。 
今年に入ってウラジーミル・プーチン大統領は、新興国に対して米ドル以外で決済を行うように呼びかけを強めた。
12月には、代表的な暗号資産であるビットコインの利用を呼びかけたが、裏を返せばこのことは、ロシア国内でいかに外貨、とりわけ人民元資金が不足しているかを物語る、端的なエピソードだといえよう。
 実際にロシア国内の人民元金利は、中国の政策金利に比べるとかなりの高水準である。
つまり、それだけロシア国内における人民元資金が不足していることだ。
一方、ロシアでは、高インフレを受けて中銀が利上げを進めた結果、ルーブル金利が上昇している(図表3)。
サイト
参照
つまりルーブルの回収によってルーブル不足が進んだわけだ。
ミクロ的、局所的に体験すれば堅強に感じるロシア経済だが、マクロ的、大局的には、不足の問題が着実に進行していると判断される。
言い換えれば、ミクロ的、局所的に体験しても、モスクワやサンクトペテルブルクのような大都市で不足の問題が意識されるようになった時、問題は相当、進行していると判断できるのではないだろうか。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
【土田陽介(つちだ・ようすけ)】
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)調査部副主任研究員。
欧州やその周辺の諸国の政治・経済・金融分析を専門とする。
2005年一橋大経卒、06年同大学経済学研究科修了の後、(株)浜銀総合研究所を経て現在に至る。
著書に『ドル化とは何か』(ちくま新書)、『基軸通貨: ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)がある。
 




最新の画像もっと見る

コメントを投稿