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バッタに人生を捧げます…天災レベルに大発生する害虫を愛する男が行き着いた"ある場所"2022/08/06前野 ウルド 浩太郎

2022-09-19 09:26:44 | 連絡
(注1)
これぞ信州名物、イナゴの甘露煮です! 信州名物イナゴの甘露煮生産技術は海外モーリタニア・・・技術移転加速か
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/5fcf18c907caed113aed70a3a8aa12a2
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前野 ウルド 浩太郎
昆虫学者(通称:バッタ博士)
1980年秋田県生まれ。
秋田県立秋田中央高校卒業、弘前大学農学生命科学部卒業、茨城大学大学院農学研究科修士課程修了、神戸大学大学院自然科学研究科博士課程修了。
博士(農学)。
京都大学白眉センター特定助教を経て、国立研究開発法人国際農林水産業研究センター(国際農研)主任研究員。
アフリカで大発生し、農作物を食い荒らすサバクトビバッタの防除技術の開発に従事。
モーリタニアでの研究活動が認められ、現地のミドルネーム「ウルド(○○の子孫の意)」を授かる。
著書に、毎日出版文化賞特別賞、新書大賞、ブクログ大賞を受賞し、21万部を突破した『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)、その児童書版『ウルド昆虫記 バッタを倒しにアフリカへ』(光文社)、『孤独なバッタが群れるとき』(光文社新書)がある。

 

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アフリカで大発生するバッタの謎を解明しようと、単身モーリタニアに渡った研究者がいる。
なぜ日本を出ていくことを決めたのか。
昆虫学者の前野ウルド浩太郎さんは「サハラ砂漠には、日本の実験室では見られなかった新発見で溢れている。
彼らの生態を知ることがバッタたちの暴走を止める大きな武器になるのだ」という――。
〇生粋の秋田県民が「ウルド」と名乗る理由
まず初めに疑問に思われたのが、本稿の内容よりも著者の氏名の間にある「ウルド」だろう。
どこの国の人かと思われただろうが、私は生粋の秋田県民だ。
この「ウルド(Ould)」はモーリタニアで最高敬意のミドルネームで「~の子孫」という意味がある。
モーリタニアに渡ってからは毎日のように所長室に遊びに行き、ババ所長と研究の話や文化の話を楽しんでいた。
たとえば、モーリタニアの人たちは右手を使って手づかみでご飯を食べ、大皿を皆でつっつくのが習慣だ。
「いいか、コータロー。
誰かと一緒にご飯を食べるときのコツを伝授してしんぜよう。
とりあえずそいつにいっぱい質問するんだ。
そいつが答えているうちにいっきに食べてしまうのだ。
もし、そいつに質問されても『知らない』や『わからない』とだけ答えてしまえばよい」や、「モーリタニアの人たちは心が優しいからご飯をわざとこぼすんだ。
こうするとアリたちが大喜びするだろう」などと思わず微笑んでしまう小ネタを教えてもらっていた。
〇両親は反対するかと思ったが…
とある日、いつものように所長と話をしていると「コータローはよく先進国からモーリタニアに来たもんだ」と言われた。
「私はサバクトビバッタ研究に人生を捧げると決めました。
私がアフリカに来たのはきわめて自然なのです」と伝えるとババ所長はがっつりと両手で握手してきて、「よく言った! オマエはモーリタニアンサムライだ! 今日からオマエは、コータロー・ウルド・マエノを名乗るがよい」と名前のモーリタニア化を許された。
そんなババ所長の本名は、モハメッド・アブダライ・ウルド・ババ。
毎年、各国回りもちで行われるアフリカ・サバクトビバッタ首脳会談が数日後にモーリタニアで開催されたときに、会が始まる前にチュニジアの長にババ所長が、「こちら、日本からきた研究者のKoutaro Ould Maenoです」と紹介してくれた。
私はまだ自分自身でウルドの扱いに戸惑っており、自分でウルドを名乗ったことがなかったが、所長の中では「ウルド」はすでに確定している感じだった。「ウルド」を名乗るが良いと許しを得たのはいいが、親からもらった名前を勝手に変えるわけにはいかない。
両親に相談したら、「お~、名前もモーリタニア風に変えるのはグッドアイデアでしょ!」と快諾されていた。
どこまでもノリが良い両親だった。
〇出席者の自己紹介では会場がざわついた
会議はすべてフランス語だった。モーリタニアはフランスの植民地だったので、フランス語が主流となっている。
私もモーリタニアに渡航する直前に隣の研究室のフランス人のリシャー博士に付け焼刃でフランス語を教わっていた。
「ケスクセ(これは何ですか?)」はとりあえずマスターしたのだが、質問した人がせっかく説明してくれてもその内容が理解できないことに気づいたのは渡航後だった。
会議が始まると20人近くの出席者が全員自己紹介をすることに。
各国の長がテンポよく自己紹介していく。
自分も腹をくくり、「日本人のコータロー・ウルド・マエノです。
研究者やってます」と、よそゆきのフランス語で自己紹介したら、会場がざわついた。
すぐに所長さんが補足説明してくれたら、会場が大笑いしていた。
きっとウルドの件についてだろう。
その後、各々のプロフィールを回し書きする一枚の紙が回ってきたので、初めて「Koutaro Ould Maeno」と記入し、隣に座るババ所長に渡すと、それに気づいた瞬間、ハッとこちらに振り向き「コータロー……」と、ボソッとつぶやき、満面の笑みを浮かべてうなずいてきた。
私も所長を見つめ、無言でうなずき返した。
〇「これからもずっとアフリカで」ついに論文名まで…
研究者が名前を途中で変えると論文検索するときに支障をきたすと聞いたことがあった。
しかし、これからもずっとアフリカでサバクトビバッタの研究をしていく気満々だったので、とりあえず「形」から自分もアフリカ仕様になるべきだと考え、論文に使う名前を改名することにした。
「この外国人かぶれが!」と怒りを覚える人がいるかもしれないが、その昔、日本でも戦国武将たちはしばしば名前を変えていたではないか。
「ウルド」には、これからサムライとして世界で闘っていく日本人としての誇りも込めていた。
現地の研究者たちにフランスのシリル博士、さらに以前アフリカのケニアにある昆虫学に関する国際的な研究機関の国際昆虫生理生態学センター(International Centre of Insect Physiology and Ecology:ICIPE)でサバクトビバッタを研究されていた中村達先生(国際農林水産業研究センター:JIRCAS)に助言を仰ぎ、初のフィールドワークでの結果を論文発表できるか挑戦したところ、最初に投稿した雑誌からは不受理の連絡をもらったが二つ目の雑誌で無事に受理された(Maeno et al., 2012)。
自分の信じてきたローテクの研究スタイルがサハラ砂漠でも通用したことに手ごたえを感じ、このときばかりは熱い涙が頬をつたった。
そして、この世にウルドを名乗る新しい研究者が生まれた瞬間だった。 
〇実験室では目にすることがなかったバッタの行動
実際に私はサバクトビバッタの生息地のサハラ砂漠で彼らと一緒に寝泊まりし、温度も湿度もほぼ一定の実験室との環境の違いの大きさに唖然とした。
サハラ砂漠では、昼は灼熱で夜は肌寒く、一日のうち30度近くも変動する。
日中、あまりに暑すぎるときはさすがのサバクトビバッタたちも日陰に潜んでおとなしくしている。
そして、明け方が一番冷え込むのだが、太陽が昇るとバッタたちは隠れていた植物から一斉に出てきて地面でひなたぼっこを始める。
太陽に体の側面を向けて効率よく体を温めていた。
こんな行動は実験室では見たことがなかった。
そして、風のなんと強いことか。
普段でも突風が吹くことがしばしばあるのだが、フィールドワーク中に数回砂嵐に襲われたことがある。
空の向こうから黒い塊が近寄ってくるなぁと呑気に見ていたら、暴風に乗って砂粒が容赦なくぶつかってきたので慌てて車の中に避難した。
〇フィールドでないと本当の意味はわからない
サバクトビバッタはその間、植物の陰に身を潜め植物にしがみついていなければ吹っ飛ばされてしまうだろう。
吹っ飛ばされるだけならまだいい。
彼らは常に天敵に食われる恐れがあるのだ。
昼間は鳥たちが、夜になると地表を徘徊する天敵たちがうごめきだしてバッタたちに襲いかかるため捕食者たちにも細心の注意を払わなければならない。
サバクトビバッタは故郷から遠く離れた日本の実験室でも本能のままに行動するが、その行動の真意を知るためにはやはり彼らの本来の生息地で自然状態のまま観察しなければ答えは得られないのではないだろうか。
本来のサバクトビバッタの習性を知らずに殺虫剤の撒き方だけを向上させようとしてもいつまで経ってもサバクトビバッタの大発生は阻止できないのではないだろうか?
正直、自分は今までフィールドよりも実験室での研究こそが一番重要だと信じていたので、自分がフィールドで生物と向き合う重要性を忘れていたことを心から恥じた。
 〇「防除不可」皆が行きつく答えはいつも同じだが…
以前、モーリタニアで開催されたアフリカ・サバクトビバッタ首脳会談で知り合ったアルジェリアのバッタ研究所の長のモハメッド博士に話を伺ったところ、「サバクトビバッタの研究はほとんどが実験室内で行われているが、実験室の成果を野外のバッタにそのまま当てはめることは不可能だ。
実験室と野外とではバッタの顔は全然違うので、リアルなバッタを野外で調査する以外バッタ問題を解決することはできない。
もちろんアフリカの野外でもバッタは研究されているが、皆が行きつく答えはいつも同じだ。『防除は不可能だ……』と。
ただし、それでも私たちは研究しなければならない」とのこと。
彼の発言はバッタ研究の歴史を変えるためには新たな試みをする必要があることを訴えていた。
今日得られているサバクトビバッタの野外生態に関する知見のほとんどは1960年代に対バッタ研究所によって行われた研究に基づくものであり、それ以降際立った進展はしていない。
それは、フィールドでサバクトビバッタが何をしているのかきちんと研究されていないからだ。
サバクトビバッタが一日をどのようにすごしているのか? いつエサを食べているのか? それ以外は何をしてすごしているのか? などときわめて単純な疑問にすら私は答えることができない。
ただじっくりと彼らを観察すれば良いだけで何も難しい技術はいらないはずなのに。
〇好きな人のことは何でも知りたい乙女の心境と同じ
実際の彼らの生態を知らずして研究の進展は望めないというのになぜ誰もやらないのか不思議だ。
そして、こういった地味な仕事こそ、自分がやるべき仕事の一つとして捉えている。
好きな人のことは何でも知りたい乙女の心境と同じで、私はサバクトビバッタのどんな些細なことでも知りたい。
現実問題としてモーリタニアでの生活は3日に1度は停電する無計画停電が行われたり、シャンプーしている最中や米を研いでいるときにまさかのタイミングで断水することが多々ある。
しかし、便利な生活と新発見のどちらをとるかという質問は私にとって愚問だ。
サバクトビバッタの野外生態は手つかずのままになっているのでシンプルな観察でもすぐに何かを発見できる可能性が大きい。
現に、1週間にも満たないフィールド調査で生態学に関する論文が出るのだ。これは私が優秀な研究者というわけではなく、若造の浅知恵ですら新発見ができたと見るのが正しい
〇重要なのにフィールドワークが進まない2つの理由
こんなおいしい穴場があるというのに現在、アフリカでフィールドワークをしているのは私たちだけである。
なぜ誰も手をつけようとしないのか?
フィールドワークが行われていない背景には2つほど問題がある。
1つは、治安の問題。
白人はテロリストたちのターゲットになっているためフィールドで腰を据えて研究するのは難しいそうだ。
白人が研究できないのなら現地の人が研究すればいいではないかと思われるだろう。
そうなのだが、2つ目の問題としてアフリカ出身の研究者がバッタ研究に没頭できない事情があることをFAOのバッタ研究チームに属するレミン博士に教えてもらった。
 研究者を志す人たちは、ほとんどが外国に学位を取得しに行くのだが、一人前になって自国に戻ってくるとすぐに偉くなってしまい事務的な作業や運営に忙殺されて研究がほとんどできなくなってしまう」とのこと。
現在も毎年1人ずつアフリカでバッタ研究をする博士の人材育成にFAOは取り組んでいるが、彼らがまた偉くなってしまう可能性は高いだろう。
白人も現地の人もフィールドワークができないとしたら、いったい誰ができるというのか? 誰がこの現状を打開するというのだろうか? 今、1人の男がアフリカに渡り、歴史が変わろうとしている。
〇バッタ被害を食い止めるのが使命ではあるが…
最後にこんなことを言うと怒られそうだけど、研究成果でサバクトビバッタを撲滅する気は毛頭ない。
私はサバクトビバッタの数が増えすぎないようにコントロールすることができればと考えている。
日本が世界に誇る昆虫学者である桐谷圭治先生が提唱した「害虫も数を減らせば、ただの虫」という考えに賛成である。
愛する者の暴走を止めることができれば彼らが必要以上に人々に恨まれずにすむ。
万が一、彼らを全滅させる手段を見つけてしまっても、きっと今の自分のままだと誰にも言わずに墓の中までもっていくと思う。
もしかしたら、先人の中にもバッタの弱点を見つけたけど口外しない研究者がいたのではないだろうか。
研究者を魅了してしまうのがバッタの最大の生存戦略なのかもしれない。
〇バッタ博士の決意
バッタの大発生は天災に間違いない。だが、「災い転じて福となす」という言葉があるようにバッタの大発生の良いところを見つけ、それをうまく利用することができれば哀しみが喜びに変わるのではないだろうか。
今は構想の段階なので披露するわけにはいかないが、これが実現するとき、歓喜の輪がアフリカを包むかもしれない。 
私は、もう昔の前野浩太郎ではない。
前野ウルド浩太郎として生まれ変わり、フィールドという新天地に闘いの舞台を移した。
だが、実験室だろうが、フィールドだろうが、どこで、どんな分野を研究することになろうとも自分の知りたいと思った謎に挑むことになんら変わりはない。
知りたいことをみずからの力で知ることができる昆虫学者になる道は険しく、追い求める理想像は遥か彼方だ。
だが、そんな難しいことはさておき、目先のバッタに捕らわれてしまえばいい。
バッタとファーブルに思いを寄せて、この夢のような日々を続けるために、暴れさせてもらう。



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