【「プロはロジスティクスを語り、アマチュアは戦闘を語る」という戦略格言にある通り、後方支援活動に従事する敵勢力こそ、まずは叩き潰すべき「重心」なのだ。】
★中共軍と米軍対決の台湾有事は日本有事=米軍の後方支援活動に従事する敵勢力=西太平洋弧状列島は、中共軍が「まずは叩き潰すべき「重心」となるか>
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2021.12.9(木)北村 淳
北村 淳のプロフィール
軍事社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は軍事社会学・海軍戦略論・国家論。米シンクタンクで海軍アドバイザーなどを務める。現在安全保障戦略コンサルタントとしてシアトル在住。日本語著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』(講談社)『トランプと自衛隊の対中軍事戦略』(講談社)『シミュレーション日本降伏:中国から南西諸島を守る「島嶼防衛の鉄則」』(PHP研究所)、『米軍幹部が学ぶ最強の地政学』(宝島社)などがある。
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80年経っても変わらない日本の兵站軽視の危険性~プロはロジスティクスを語り、アマチュアは戦闘を語る ~
80年前の12月7日(米国時間)、日本海軍機動部隊によってアメリカ太平洋艦隊の本拠地であったパールハーバーが攻撃され、アメリカ太平洋艦隊は壊滅的打撃を受けた。
ただし、前進航空基地に航空機を運搬するため出動中だった航空母艦3隻は全て無傷であった。それ以上にアメリカにとって幸運だったのは、日本海軍による攻撃目標が艦隊自体に集中していたことであった。
すなわち日本軍が集中攻撃を加えたのは、真珠湾攻撃までいずれの海軍にとっても最強の戦力とされていた戦艦(8隻のうち4隻沈没、1隻座礁、3隻損傷)をはじめとする巡洋艦や駆逐艦、それに地上で待機していた航空機(347機が損失あるいは損傷)であった。一方、艦艇や航空機に対する補給や修理整備を実施する海軍施設や航空関連施設、燃料貯蔵施設、発電所などのロジスティクス(兵站)関連施設への攻撃は実施しなかったのである。
アメリカの南北戦争において、戦闘能力そのものでは南軍に対して劣勢であった北軍が勝利した最大の要因は、ロジスティクス分野において南軍を圧倒していたことだという。事実を肝に銘じているアメリカ軍には、伝統的に「プロはロジスティクスを語り、アマチュアは戦闘を語る」という戦略格言がある。
真珠湾攻撃における日本海軍の「戦術的勝利、戦略的失敗」もその格言に1つの具体例を加えた形になっている。
〇ロジスティクスを軽視する日本社会
艇や航空機の補充に比べると 兵站関連施設の復興には極めて長期間の時間と労力を要する。ところが日本海軍は、真珠湾攻撃に際して攻撃目標(ラウゼヴィッツのいうところの「重心」)を艦隊そのものに絞り、兵站関連施設を「重心」に置かなかった。
もっともそのミスは、日本軍そして日本社会全体において「戦(いくさ)においてロジスティクスを軽視する」傾向が強かった結果と言えよう。
そのような傾向は現在の日本社会にも引き継がれている。その具体例の1つが「後方支援」という造語である。日本で用いられている後方支援という語はロジスティクスよりも幅広い分野を含むが、戦争や軍事衝突に際しての後方支援はほぼロジスティクスと同義とみなしうる。
これまでも自衛隊を中東地域における国際紛争に派遣する際には、直接敵勢力と交戦する戦闘活動ではなく後方支援活動に限定してきたため、日本社会では日本も戦争に加わったという実感は持たれていない。これはまさに軍事分野におけるロジスティクス軽視の伝統に染まった日本特有の雰囲気と言えよう。
〇「後方支援活動」も立派な軍事行動
現在、アメリカの対中強硬派は、近い将来勃発するかもしれない「台湾問題を巡っての米中軍事衝突」への準備を推し進めている。
もっともバイデン大統領が、あるときは「中国と対決してでも台湾を守る」と言ってみたり、その舌の根が乾かないうちに「中国はアメリカにとって強力な競争相手ではあるものの干戈(かんか)を交えるような敵ではない」と言ってみたり、支離滅裂な対中言動であるため、米政府や、まして米国世論が本気で米中戦争を想定している状況には立ち至っていない。
対中強硬派としても、あくまでも「実現する確率はそれほど高くないかもしれないが、万が一にも、アメリカ政府が中国との軍事衝突に踏み切った場合に、アフガニスタン撤退のように米軍が醜態を晒すことだけは避けるために、必要最低限の準備だけは進めておかなければならない」という意味での「準備」というわけである。
そのような対中強硬派にとって歓迎すべき動きが日本で続けざまに起きている。それは、岸防衛相に引き続き安倍元首相が「台湾の防衛は日本の防衛」と公の場で明言したことだ。
憲法問題に関する日本国民の複雑な感情まで深く理解していないアメリカの多くの対中強硬派の人々は、首相経験者や現役防衛大臣が、台湾を巡っての米中対決に際して日本が参戦する姿勢を示したことに対して、かつてのように野党勢力やメディアそれに国民世論が猛反発しない状況から、「日本では米軍と同盟して台湾防衛のための対中戦への突入がコンセンサスを得た」ものと判断しているのである。
もちろん、日本の実情を相当程度理解し、「日本では自衛隊の対外派遣ですら様々な問題を引き起こすため、『自衛のための参戦』という名目を掲げるにせよ、中国との直接的あるいは間接的な戦闘に自衛隊を送り出すには多くの障害を取り除く必要がある」と考えている人々も対中強硬派には存在する。だが、そうした人々は少数にすぎない。
一方、日本政府や国会も含めて日本社会では、日本政府が自衛隊をアメリカによる対中軍事作戦に何らかの形で参加させるとはいっても、実際に中国軍と自衛隊が交戦するような事態を想定してはいないものと思われる。
「台湾の防衛は日本の防衛」という大義のもとで積極的に自衛隊を米軍の対中作戦に組み込ませようと考えている人々ですら、おそらく自衛隊の役割を「後方支援」に限定しようと考えているはずだ。
しかし上記のように、アメリカ軍や国際軍事サークルでは、戦争は戦闘だけに限定されて考えられてはいない。後方支援活動すなわち兵站活動は立派な軍事行動であると認識されている。というよりは「プロはロジスティクスを語り、アマチュアは戦闘を語る」という戦略格言にある通り、後方支援活動に従事する敵勢力こそ、まずは叩き潰すべき「重心」なのだ。
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