(注1)「1人頭1万ドルという壁を越えなければ発展しない」というのが社会科学の理論なのですが、そこまで行っていません。そうなると、これから内需拡大はかなり大変です。内需拡大をするためには、国内層がしっかりしなければなりません。ある程度の自由を認めなければ、そうしたことは難しいです。
(出典)西大陸香港国家安全維持法施行の深化 香港ドルも人民元の方に吸収か 金融ゲートウェイ不在となるか
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/08fce144bd97e599fd90fa561ae17388
https://blog.goo.ne.jp/globalstandard_ieee/e/08fce144bd97e599fd90fa561ae17388
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2020/09/28 5:50
『API地経学ブリーフィング』 は、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家で構成。コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、技術とイノベーション、グローバルサプライチェーン、国際秩序を構築するためのルール・規範・標準、気候変動の「4つのメガ地経学」の観点から、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。
『API地経学ブリーフィング』 は、独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家で構成。コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、技術とイノベーション、グローバルサプライチェーン、国際秩序を構築するためのルール・規範・標準、気候変動の「4つのメガ地経学」の観点から、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。
(大矢伸/アジア・パシフィック・イニシアティブ上席研究員)
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中国の「双循環戦略」(Dual Circulation Strategy)について関心が高まっている。「双循環」とは「国内循環」と「国際循環」
中国の「双循環戦略」(Dual Circulation Strategy)について関心が高まっている。「双循環」とは「国内循環」と「国際循環」
の2つの循環を指す。この言葉は、今年5月14日の中国共産党政治局常務委員会の会議で最初に用いられた。そこでは「中国の巨大な市場規模と国内需要の潜在力という強みを生かして、国内と国際という相互に補完する2つの循環に基づく新たな発展のパターンを確立する」ことがうたわれた。
中国は今年10月開催予定の共産党第19期中央委員会第5回全体会議で第14次五カ年計画を策定する予定だが、「双循環戦略」はその中心テーマになる可能性がある。この概念を推進しているのは、習近平主席の信頼が厚く米中貿易交渉で中国側のリーダーを務めた劉鶴副首相と言われている。
ただ、詳細が決定・発表されていないこともあり、人により受け止め方や理解が異なる。
「双循環」を、従来からある内需重視政策の延長で、外部との経済交流は継続し、中国経済の改革にもつながるものと考える人々もいる。逆に、「双循環」は、外部との交流を縮小のうえで自力更生を志向し、経済改革にはつながらないと考える人々もいる。中国はどちらの道を進むのか。
〇中国経済の課題
このように、1978年以降の中国は大きく経済発展を遂げたが、その前提条件は崩れつつある。「人口ボーナス」期は終息を迎え、労働コストは上昇、貯蓄率も減少した。米中貿易摩擦が示すように、過度に輸出に依存した経済成長を続けることも国際環境から困難となった。
中国の1人当たりGDPはまだ1万ドル(注1)。アメリカの6万ドル、日本の4万ドルとの差は大きい。高齢化が急速に進行する中で「豊かになる前に老いる」リスクに直面している。人口増加が見込めない中では生産性を高めるしかないが、生産性(全要素生産性、TFP)上昇率は1996年から2004年の6.1%から、2005年から2015年は2.5%に減少したとの推計もある。
全要素生産性の上昇のためには、技術革新に加えて、資源配分の効率改善が重要である。具体的には、将来性があり伸びる企業やセクターに資金を配分する必要があるが、自由化が遅れる中国の金融セクターは、資金配分や金利決定に経済原理以外の要素が入り込む。国有=一帯一路・海外遠征・戦狼外交、国家安全維持法=国内域外・事後遡上適用法=施行、共産党一党独裁政府=企業が、民間企業よりも生産性が低いにもかかわらず優先的な資金配分を受けているとも指摘される。
北京もこうした課題は認識している。輸出と投資に依存した経済成長の限界を意識し、前述のとおり2000年代から内需の拡大はうたわれてきた。そうした流れの中で、「双循環戦略」が掲げるものも、内需重視を今後さらに強化する、しかし外部との経済交流を断つわけではなく、市場開放を進め外資の中国投資も歓迎するという立場であろう。
ただ、「双循環戦略」を急ぐ背景には米中対立、それに伴う技術の流れの停止、アメリカ市場での中国企業の活動の制約、西側諸国のサプライチェーン見直しの動きへの「恐怖」がある。ファーウェイの子会社であるハイシリコンは半導体の設計・開発に特化し、生産は台湾のTSMCへ委託していたがアメリカの制裁でTSMCから調達できなくなった。中国の半導体製造業者であるSMICはTSMCから2世代遅れている。中国の先端技術分野での「自力更生」への決意は強固であろう。
〇「完全輸入代替」「自給自足」への転化リスク
米中対立が激化する中では、「内需重視」の掛け声が、歪んでいる「消費」「投資」「輸出」のバランスの回復という次元を超えて、「完全輸入代替」「自給自足」に転化していくリスクがある。アメリカ内でも対中全面デカップル論と技術分野等に範囲を絞った部分分離(partial disengagement)論などさまざまな意見がある。中国においても、「双循環戦略」という言葉に対して、論者によりさまざまな思いが投影されている可能性がある。
「双循環戦略」は、国有企業改革や金融セクターの自由化などの中国経済自身が現在かかえる課題の解決を盛り込むことで、輸出や投資に過度に依存しない、生産性向上を通じた新たな成長モデルにつながる可能性もある枠組みである。最終的な結論がどうなるかは大いに注目される。
南シナ海、尖閣諸島、香港、
新疆ウイグル自治区等で中国が見せる異なる価値観、
国際ルール違反の行動に対し国際社会は警戒が必要であり、技術分野等での一定の部分分離は自由社会を守るために必要であろう。しかし、西側が国内雇用維持や重商主義的衝動に基づき中国を過剰にデカップルする動きを見せれば、中国も外との交流を絞る形での「双循環」を志向するだろう。
2018年9月、視察先の黒竜江省で習近平主席は、「保護主義の台頭が中国に自力更生の道を歩むよう迫っている」と発言した。作用は反作用を生み、ナショナリズムは相互作用を増幅する。海外との交流を断つ経済政策は、中国にとっても世界にとってもマイナスが大きい。「双循環戦略」の行方が注目される。
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