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欧州インサイドReport
木村正人
在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。
元産経新聞ロンドン支局長。
憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。
産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。
2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。
著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
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習近平が「戦狼外交」の態度を「羊」に改めた背景...中国経済は「国民が豊かになる前に衰退し始めた」
2023年11月21日(火)19時00分
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<ジョー・バイデン米大統領と会談した中国の習近平国家主席が、「険悪な関係の修復を目指す」姿勢を前面に押し出した理由>
[ロンドン発]ジョー・バイデン米大統領と中国の習近平国家主席は15日、米西部サンフランシスコ近郊で約4時間にわたり会談した。
バイデン氏は「一つの中国」政策は不変だと強調する一方で「一方的な現状変更」に反対し「両岸の相違は平和的手段によって解決されることを期待している」と中国による台湾海峡とその周辺での軍事活動の自制を求めた。
これに対し、習氏は「中国は必然的に統一される」と従来の立場を繰り返した。
両首脳は国防政策調整協議や軍事海事協議協定の会合、ハイレベルの軍対軍連絡、戦域司令官間の電話協議を再開したことを歓迎した。
米中政府間協議を通じて高度人工知能(AI)システムのリスクに対処し、安全性を向上させる必要性を確認した。
気候変動対策でも協力する。
中国共産党系「人民日報」傘下の「環球時報」英語版(16日付)によると、
習氏は
(1)両国は共同して正しい認識を発展
(2)意見の相違を管理
(3)互恵関係を促進
(4)主要国として責任を共有
(5)人の交流を促進――すべきだと求めた。
バイデン氏は
新冷戦や中国の体制転換、反中同盟の構築、中国との紛争を求めず、台湾独立を支持しないことを確認した。
習氏は「中国と米国のような2つの大国にとって互いに背を向けるという選択肢はない。
地球は両国が成功するのに十分な大きさだ」とバイデン氏に緊張緩和を訴えた。
英誌エコノミスト(16日付)は
「バイデン、習両氏が話す喜びを再発見したのは良いことだ」と論評した。「11月、中国共産党のプロパガンダは論調を変えた。
『新冷戦』を非難する代わりに米中両国が第二次大戦で日本と戦った歴史を共有していることを称え、『フライング・タイガース』として知られる米国義勇軍パイロットの役割を強調した」と伝えている。
〇高度成長期以降初めて減少に転じた中国経済の世界シェア
フライング・タイガースは日米開戦前だったため、義勇兵として参加した米陸軍航空隊、海軍、海兵隊のパイロットで結成され、国民革命軍(中国国民党)を支援した。
大戦後、中国国民党は中国共産党との内戦の末、台湾に逃れる。
フライング・タイガースを中国共産党と結びつけるのは「歴史の修正」だが「統一」に固執する中国共産党には格好の宣伝材料だ。
習氏の本音はともかく、首脳会談で「険悪な関係の修復を目指す」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)姿勢を前面に押し出したのはなぜか。
中国経済のピークが見えてきたからだ。
購買力(PPP)で見た中国の国内総生産(GDP)の世界シェアは1992年、中国の最高指導者、鄧小平が改革・開放の加速を呼びかけた南巡講話以降、急上昇した。
独統計会社スタティスタによると、92年にはわずか4.38%だった中国経済のシェアは2021年に18.51%に達した。
昨年は18.44%と高度成長期以降初めて減少に転じたものの、米国の15.57%を上回る。
スタティスタは中国経済の世界シェアは今年以降、上昇基調に戻り、24~28年にかけて19%台で横ばい状態になると予測。
一方、米国経済のシェアは縮小が続く。
英紙フィナンシャル・タイムズの編集者ルチール・シャルマー氏は自身のコラム(19日付)で
「世界経済における中国のシェアは名目ドルベースでこの2年で1.4%減少した。1960年代以降最大の減少だ。歴史的な転機として経済大国・中国の台頭が逆回転しつつある。
過去半世紀で最大のグローバル・ストーリーは終わったのかもしれない」と指摘する。
〇英紙「今はポスト中国の世界」
スタティスタは「購買力」、シャルマー氏は「名目」でみているので注意は必要だが、
シャルマー氏は「中国は世界のGDPに占める割合がピークの3分の1を占めていた16~19世紀初頭にかけての帝国の地位を取り戻すことを目指しているが、
その目標には手が届かないのかもしれない。
中国の衰退は世界を再編成する可能性がある」という。
シャルマー氏によると、世界経済は22~23年に80億ドル成長したが、このうち中国が占める割合はゼロ。米国が45%、インド、インドネシア、メキシコ、ブラジル、ポーランドなどの新興国が50%だ。
習氏が今さらバイデン氏や米経営者にすり寄っても「世界経済における中国のシェアは当分の間低下していくだろう。今はポスト中国の世界だ」という。
英国統治下の香港で最後の総督を務めた英オックスフォード大学名誉総長クリス・パッテン氏が10月4日、ロンドンのリージェンツ・ユニバーシティー・ロンドンで講演し、
「中国経済はピークを過ぎ、成長率は年8~9%から2%に低下、人口は高齢化し、GDPの3倍を超える国内債務を抱えるなど大きな問題を抱えている」と指摘した。
英保守党幹事長だったパッテン氏は92年の英総選挙で保守党を勝利させたものの、自らは落選。
その年から97年に中国に返還されるまで香港総督を務めた。
パッテン氏は「香港総督になってから15年で中国の対米国輸出は1600%も増えた」「中国共産党を相手にするのはあまり快適ではなかった」と語る。
〇「政治におけるレーニン主義が中国の経済政策を支配」
世界で最も民主主義の歴史が長い英国が香港の希望を尋ねることなく、
世界最大の全体主義国家に引き渡したのはなぜかとの道義的な問いは今も消えない。
パッテン氏は「鄧小平が台湾のために設計したマントラである一国二制度を香港返還にも当てはめれば機能すると仮定する以外、方法がなかった」と当時を振り返った。
「トニー・ブレア元英首相が後に語ったように
『中国はわれわれと似たような国になる』
『経済発展、技術発展が必然的に政治的発展をもたらす』
という仮定を私自身も少しは抱いていた。
韓国やアジア諸国は経済を開放することで中所得国の罠から抜け出した。
香港も返還後、中国共産党の干渉はあったものの、(方向性は)大きく変わらなかった」
転換点は習氏の登場だ。
「習氏は中国がハイテク企業の成長や環境やジェンダーなどの分野における市民社会の発展によって中国共産党の権威が脅かされるようになった場合、
中国をコントロールし続けることができるかどうか、非常に神経質になった。重慶の共産党トップだった薄煕来が指導部に食い込もうとしたことも中国指導部を神経質にさせた」
「われわれは今、ポスト・ピーク中国に対処している。
以前は中国の成長はすぐに米国を上回る経済規模になると論じられていた。
しかし政治におけるレーニン主義が中国の経済政策を支配している。
習氏は民間部門が手に入れた自由を取り上げようと決意し、国有企業が中国経済を支配する。
そして不動産セクターは巨大なネズミ講と化した」
パッテン氏は「中国は(国民一人ひとりが)豊かになる前に老いると人々は何年も前から言ってきた。
それは本当だ」と断言する。
「狼」の本性を今さら「羊」の皮で覆い隠そうとする習氏の変化を額面通り受け取るわけにはいかない。
原油価格が高騰すれば軍事行動に出るウラジーミル・プーチン露大統領と同じで、習氏も中国が成長力を取り戻せば「狼」に逆戻りするのは自明の理だからだ。
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