トルコ、米の基地使用要請を拒否 イスラム国対応に慎重
アンカラ=春日芳晃 パリ=青田秀樹、ベルリン=玉川透、ロンドン=渡辺志帆
朝日新聞デジタル:2014年9月13日23時56分
過激派組織「イスラム国」(IS)の活動地域のシリアやイラクと国境を接するトルコが、米軍による国内の基地の使用を拒否した。複数の地元メディアが伝えた。今後、米軍の戦略的拠点に位置づけられる可能性が高く、トルコの動向が注目を集めている。
米国のケリー国務長官は12日、トルコ首都アンカラを訪問し、エルドアン大統領やダウトオール首相と会談。会談後の会見では、IS打倒へ「アラブ諸国、欧州諸国、米国などで広範な有志連合」を結成できることに自信を見せた。
米国は有志連合を今月下旬の国連総会中に発足させる方針だ。ケリー氏は会見で、有志連合の構築を担当する大統領特使に、アフガニスタン駐留米軍司令官を務めた海兵隊のアレン退役大将の起用を発表した。
しかし、トルコ側は慎重だ。ダウトオール氏は地元TV局のインタビューに応じ、米国の動きは「必要だが、(地域の)秩序をもたらすには十分ではない。私は政治的安定を達成するつもりだ」と述べ、米国主導の軍事行動とは一定の距離を置く姿勢をにじませた。
シリアでの空爆など、オバマ大統領が対IS軍事作戦の拡大方針を10日に表明後、11日にサウジアラビアで開かれたアラブ諸国やトルコ、米国の関係国会合でも、トルコだけがISへの外国人兵士や資金の供給根絶に合意した共同文書に署名しなかった。
トルコの地元メディアによると、ケリー氏に先立って8日からトルコを訪問したヘーゲル米国防長官は対IS軍事作戦において、トルコ南東部にあるインジルリク空軍基地の使用と武器輸送の支援を要請したという。
同基地は、過去のイラク戦争や湾岸戦争で、米軍などの戦闘機の活動拠点になった重要基地。米空軍は1954年から駐留している。トルコ政府関係者によると、他国への攻撃で使用する場合はトルコ政府の同意が必要になるという。だがトルコ側は、IS攻撃拠点としての使用は同意できないと伝えたといい、12日にもケリー長官に同趣旨の回答をしたと地元紙などは報じた。
慎重な姿勢の背景にはいくつかの理由がある。
表向き最も大きな障害とされるのは、今年6月、イラク北部の主要都市モスルのトルコ領事館がISに襲撃され、連れ去られた総領事を含む関係者49人が人質となった事件だ。襲撃後3カ月経つが、いまだ解放されず、安否が懸念されている。
だが根本には、トルコが有志連合に参加し、積極的にIS攻撃に踏み切れば、報復攻撃を受け、自国の安全が脅かされるという懸念がある。ISはシリア、イラクのトルコ国境近辺を支配下に置いており、トルコは計約1300キロに及ぶイラク、シリア国境の警備を強化しなければならなくなる。
さらに、有志連合がISの対抗勢力に武器を提供すれば、トルコで活動する少数民族クルド人の武装組織「クルド労働者党」(PKK)に流れて、トルコ国内でのテロにつながることを懸念する声も強い。トルコ政府はPKKと和平交渉を続けているが、PKKの一部は現在も政府機関への焼き打ちや市民を対象にした誘拐を続けている。
また、シリア内戦をめぐり、トルコは反アサド政権の立場を取り、一貫して反体制派を支援してきた。IS空爆に協力すれば、敵対関係にあるアサド政権を結果的に助けることになる。そのため、これまでの対シリア外交政策とも矛盾することになる。
トルコ政府関係者は11日、匿名でAFP通信の取材に応じ、「トルコはISに対するいかなる軍事作戦にも参加しない。トルコが協力するのは人道支援のみ。インジルリク空軍基地の使用も人道支援目的に限られるだろう」と自国の立場を説明した。(アンカラ=春日芳晃)
■欧州、連携も作戦には濃淡
フランスのオランド大統領は12日、過激派組織「イスラム国」との戦いで、「いっそうの軍事支援の用意がある」と表明した。対テロで有志連合を築いて攻勢を強めたい米国に対して欧州には慎重論があるものの、フランスはじわりと一歩踏み出した格好だ。
イラクを訪れてアバディ新首相らと会い、記者会見で説明した。フランスはすでに、イラク北部のクルド人勢力らに武器を供与している。オランド氏は「(イスラム国との)力関係を変えるのに大きな意味があった」と強調した。空爆も「必要なら加わる」(ファビウス外相)との立場だ。
仏政府は15日、イラクの平和と安全保障を話し合う国際会議をパリで開く。軍事、外交、人道支援などについて幅広い連携を打ち出す見通しだ。
ただ、欧州では、軍事作戦への考え方に濃淡がある。ドイツも武器供与に踏み切ったが、米国がシリアへの拡大をはかる空爆に関しては、「我々は参加を求められていないし、参加する考えもない」(シュタインマイヤー外相)という。
ドイツは、主要7カ国(G7)の議長国。今月下旬に米国で開かれる国連総会にあわせ、G7外相会合を開く考えだ。「政治的な戦略」(同外相)を練ると見られる。
英国のハモンド外相は11日、訪問先のドイツで「シリア空爆には参加しない」と述べた。ただ、その後、首相報道官が「(対イスラム国ではなく)シリア・アサド政権に対する軍事介入の否定という意味だ」と打ち消しにかかるなど、態度を明確にしていない。(パリ=青田秀樹、ベルリン=玉川透、ロンドン=渡辺志帆)
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イラクへの空爆含め「数日以内に決断」 オバマ大統領(6/14)
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以上引用終わり。
イスラム国の主要メンバーには米軍によって粉砕された旧イラク・サダムフセイン軍の残党が加わっているということで、トルコも迂闊に米軍に協力したのでは火に油を注ぐ結果を招き兼ねないのだから、ここは慎重の上に慎重を重ねた判断をして当然だろう。世界情勢を何でもかんでもアメリカ及び欧州各国の思うがままに誘導出来る情勢ではないことは判り切ったことだ。記事にあるように、欧米でもドイツと米英とではそのスタンスに大きな隔たりがある。
安倍ポンや霞ヶ関は『アメリカ追随』を金科玉条の如く世界戦略の主柱に据え続けているが、この方式で果たしてどこまで我が国が『無事に』この複雑極まりない世界情勢を乗り切って行けるのか、その成否の程は誰にも正確には判定出来ないのである。これはまるで「出たとこ勝負」の大博打である。
「イスラム国が癌である」から「イラク空爆」は「アメリカの権利」であるかのような暴論が一体どこまで有効性を保ち得るのか、私には甚だ疑問である。アメリカ原住民らをほぼ絶滅に至らせ、ハワイを征服し、日本には原爆を見舞い、朝鮮動乱を引き起こしたかと思えば、台湾情勢にも介入し、ヴェトナムにもアフガンにも中東にも休むことなく介入し続けている「世界の憲兵=アメリカ」は、いったいいつになったらその矛を収めるときが来るのか・・誰にもその答えは予測出来ない。
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イスラム国:国家的統治 フセイン政権残党が組織
毎日新聞 2014年09月15日 東京朝刊
【カイロ秋山信一】イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム教過激派組織「イスラム国」が、イラクの旧フセイン政権の残党を取り込み、単なる過激派集団の枠を超え国家同様の統治を行っていることが14日、複数の対立組織のメンバーや研究者の証言で分かった。イスラム国のバグダディ指導者をトップに集団指導体制を敷き、評議会や支配地区を区分けして知事も任命し、イラク・シリアで次々と支配地域を拡大している。
複数の対立組織のメンバーや研究者によると、バグダディ指導者は2003年のイラク戦争前後までイスラム礼拝所(モスク)の説教師だったとされ、イスラム国の前身組織に加わる前は政治や軍事の経験はなかった。その経験不足をフセイン政権時代の政府軍の元将校らが補っているという。
イスラム国の最高指導部はバグダディ指導者と2人の元将校で構成され、イラクとシリアに分けて戦闘や支配地域の統治などを総括。最高指導部の下には10人前後からなる評議会を設置し、集団指導体制を敷く。
評議会メンバーは戦闘や戦闘員の勧誘、広報など部門別の責任者を兼ね「内閣」のような役割を持つ。全てイラク人で、元将校のほか政治・行政の経験を持つフセイン政権与党バース党の元党員もいる。さらに支配地域を区分けして十数人の「知事」を置く。
フセイン政権の残党がイスラム国と結びついたのは、イラク戦争後に政府軍が解体され、バース党幹部が公職から追放されたためだ。フセイン元大統領は自身と同じイスラム教スンニ派を重用していたが、新政権への移行は人口の約6割を占めるシーア派が主導。不満を募らせた元政権幹部が、スンニ派のイスラム国に流れる土壌ができた。
その一人が、バグダディ指導者の「右腕」だった元将校のハッジ・バクル氏だ。バグダディ指導者は10年に前指導者が米軍に殺害された後、イスラム国の前身組織を率いた。この時、バグダディ氏を推挙したのが、軍事・情報部門を率いていたバクル氏で、組織内のライバルを暗殺し、バグダディ指導者が権力基盤を固めるのに貢献した。
「ナンバー2」の地位を獲得すると、12年に本格化したシリア内戦への介入や、新国家建設計画を主導した。対立組織にスパイを送り、戦闘員の取り込みを図るなど組織拡大のキーパーソンだった。バクル氏は今年1月の戦闘で死亡し、現在は側近で同じ元将校のアブ・アリ・アンバリ氏が後を継いでいる。さらにシリアとイラクの管轄を分担するため、別の元将校が指導部に加わった。
イスラム国は一連の侵攻で、油田や交通の要衝、ダムなど重要インフラを集中的に狙うなど戦略性の高さが際立っている。政治経験を持つ人物がいるためインフラの重要性を熟知しており、米国などとの戦闘経験が豊富な元将校が指揮しているため、「洗練されたこれまで見たことがない組織」(ヘーゲル米国防長官)となっている。
過激派に詳しいイラク人の安全保障専門家のヒシャム・ハシミ氏は「フセイン政権は政教分離の世俗主義で、宗教色が薄かった。だがシーア派中心の政府に排除され、スンニ派の元幹部らがイスラム原理主義に染まった」と指摘する。
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■ことば
◇イスラム国
イラクとシリアにまたがる地域で勢力を拡大するイスラム教スンニ派の過激派組織。国際テロ組織アルカイダ系組織などから派生し、2013年にシリア内戦に本格参戦した「イラク・レバント・イスラム国」(ISIL)が14年6月に「イスラム国」に改称、教義に厳格に従った国家樹立を宣言した。アルカイダは2月に関係を断絶する声明を発表している。
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以上引用終わり。
アンカラ=春日芳晃 パリ=青田秀樹、ベルリン=玉川透、ロンドン=渡辺志帆
朝日新聞デジタル:2014年9月13日23時56分
過激派組織「イスラム国」(IS)の活動地域のシリアやイラクと国境を接するトルコが、米軍による国内の基地の使用を拒否した。複数の地元メディアが伝えた。今後、米軍の戦略的拠点に位置づけられる可能性が高く、トルコの動向が注目を集めている。
米国のケリー国務長官は12日、トルコ首都アンカラを訪問し、エルドアン大統領やダウトオール首相と会談。会談後の会見では、IS打倒へ「アラブ諸国、欧州諸国、米国などで広範な有志連合」を結成できることに自信を見せた。
米国は有志連合を今月下旬の国連総会中に発足させる方針だ。ケリー氏は会見で、有志連合の構築を担当する大統領特使に、アフガニスタン駐留米軍司令官を務めた海兵隊のアレン退役大将の起用を発表した。
しかし、トルコ側は慎重だ。ダウトオール氏は地元TV局のインタビューに応じ、米国の動きは「必要だが、(地域の)秩序をもたらすには十分ではない。私は政治的安定を達成するつもりだ」と述べ、米国主導の軍事行動とは一定の距離を置く姿勢をにじませた。
シリアでの空爆など、オバマ大統領が対IS軍事作戦の拡大方針を10日に表明後、11日にサウジアラビアで開かれたアラブ諸国やトルコ、米国の関係国会合でも、トルコだけがISへの外国人兵士や資金の供給根絶に合意した共同文書に署名しなかった。
トルコの地元メディアによると、ケリー氏に先立って8日からトルコを訪問したヘーゲル米国防長官は対IS軍事作戦において、トルコ南東部にあるインジルリク空軍基地の使用と武器輸送の支援を要請したという。
同基地は、過去のイラク戦争や湾岸戦争で、米軍などの戦闘機の活動拠点になった重要基地。米空軍は1954年から駐留している。トルコ政府関係者によると、他国への攻撃で使用する場合はトルコ政府の同意が必要になるという。だがトルコ側は、IS攻撃拠点としての使用は同意できないと伝えたといい、12日にもケリー長官に同趣旨の回答をしたと地元紙などは報じた。
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さらに、有志連合がISの対抗勢力に武器を提供すれば、トルコで活動する少数民族クルド人の武装組織「クルド労働者党」(PKK)に流れて、トルコ国内でのテロにつながることを懸念する声も強い。トルコ政府はPKKと和平交渉を続けているが、PKKの一部は現在も政府機関への焼き打ちや市民を対象にした誘拐を続けている。
また、シリア内戦をめぐり、トルコは反アサド政権の立場を取り、一貫して反体制派を支援してきた。IS空爆に協力すれば、敵対関係にあるアサド政権を結果的に助けることになる。そのため、これまでの対シリア外交政策とも矛盾することになる。
トルコ政府関係者は11日、匿名でAFP通信の取材に応じ、「トルコはISに対するいかなる軍事作戦にも参加しない。トルコが協力するのは人道支援のみ。インジルリク空軍基地の使用も人道支援目的に限られるだろう」と自国の立場を説明した。(アンカラ=春日芳晃)
■欧州、連携も作戦には濃淡
フランスのオランド大統領は12日、過激派組織「イスラム国」との戦いで、「いっそうの軍事支援の用意がある」と表明した。対テロで有志連合を築いて攻勢を強めたい米国に対して欧州には慎重論があるものの、フランスはじわりと一歩踏み出した格好だ。
イラクを訪れてアバディ新首相らと会い、記者会見で説明した。フランスはすでに、イラク北部のクルド人勢力らに武器を供与している。オランド氏は「(イスラム国との)力関係を変えるのに大きな意味があった」と強調した。空爆も「必要なら加わる」(ファビウス外相)との立場だ。
仏政府は15日、イラクの平和と安全保障を話し合う国際会議をパリで開く。軍事、外交、人道支援などについて幅広い連携を打ち出す見通しだ。
ただ、欧州では、軍事作戦への考え方に濃淡がある。ドイツも武器供与に踏み切ったが、米国がシリアへの拡大をはかる空爆に関しては、「我々は参加を求められていないし、参加する考えもない」(シュタインマイヤー外相)という。
ドイツは、主要7カ国(G7)の議長国。今月下旬に米国で開かれる国連総会にあわせ、G7外相会合を開く考えだ。「政治的な戦略」(同外相)を練ると見られる。
英国のハモンド外相は11日、訪問先のドイツで「シリア空爆には参加しない」と述べた。ただ、その後、首相報道官が「(対イスラム国ではなく)シリア・アサド政権に対する軍事介入の否定という意味だ」と打ち消しにかかるなど、態度を明確にしていない。(パリ=青田秀樹、ベルリン=玉川透、ロンドン=渡辺志帆)
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「イスラム国が癌である」から「イラク空爆」は「アメリカの権利」であるかのような暴論が一体どこまで有効性を保ち得るのか、私には甚だ疑問である。アメリカ原住民らをほぼ絶滅に至らせ、ハワイを征服し、日本には原爆を見舞い、朝鮮動乱を引き起こしたかと思えば、台湾情勢にも介入し、ヴェトナムにもアフガンにも中東にも休むことなく介入し続けている「世界の憲兵=アメリカ」は、いったいいつになったらその矛を収めるときが来るのか・・誰にもその答えは予測出来ない。
============
イスラム国:国家的統治 フセイン政権残党が組織
毎日新聞 2014年09月15日 東京朝刊
【カイロ秋山信一】イラクとシリアで勢力を拡大するイスラム教過激派組織「イスラム国」が、イラクの旧フセイン政権の残党を取り込み、単なる過激派集団の枠を超え国家同様の統治を行っていることが14日、複数の対立組織のメンバーや研究者の証言で分かった。イスラム国のバグダディ指導者をトップに集団指導体制を敷き、評議会や支配地区を区分けして知事も任命し、イラク・シリアで次々と支配地域を拡大している。
複数の対立組織のメンバーや研究者によると、バグダディ指導者は2003年のイラク戦争前後までイスラム礼拝所(モスク)の説教師だったとされ、イスラム国の前身組織に加わる前は政治や軍事の経験はなかった。その経験不足をフセイン政権時代の政府軍の元将校らが補っているという。
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