筋力=生命力
- アメリカの研究では、1週間に約90分の筋トレを続けることで、生物学的老化を約4年遅らせる可能性があることが示されています。
- 筋肉量が多いと寿命が長いとの研究報告が多数出されています。
- 握力が弱い人は高齢化に伴って身体機能が低下しやすく、要介護度が上昇するリスクが高くなります。
筋力は生命力。長寿のために筋肉に負荷を。
90歳以上の長寿の方とお会いしていつも思うのは、よく体が動き、頭がはっきりしておられることです。それはデイサービスが始まって認知症が改善されたときなどにも感じることで、高齢者が診察室に入って来られた瞬間から、歩く速さなどで頭と体の調子が分かるのです。
運動と頭脳といえば、パリ・オリンピックでも日本選手の活躍を見せてもらいましたが、いつも驚くのは、彼らは運動ばっかりしていたはずなのに、インタビューには立派な受け答えが出来るということです。どうも体を動かすことと頭の良さには関係がありそうです。皆様もが気づいておられることでしょう。なぜそうなのか、内分泌の面から分かっている範囲でお話をしてみたいと思います。
焦点はホルモン分泌器官としての「筋肉」の働きです。ホルモンを分泌する器官といえば、インスリンを分泌する膵臓、甲状腺ホルモンを分泌する甲状腺、性ホルモンを分泌する卵巣・精巣、成長ホルモンを分泌する脳下垂体などが有名ですが、力を発揮することしか機能がないと思われていた「筋肉」がいろいろなホルモンを分泌していることが近年、次々と明らかになってきました。それらホルモンを総称して「ミオカイン」といいます。ミオカインの全身的な影響を見てみましょう。
1)筋肉は最大のホルモン分泌組織
膵臓、甲状腺、卵巣、精巣、脳下垂体、はせいぜい数グラムから100グラムの大きさしかありませんが、筋肉の平均的な総重量は男性26㎏、女性18㎏もあります。ここから多臓器へ影響を与える因子(=ホルモン)が分泌されない方がおかしなことだったのです。「ミオカイン」は気分、頭脳、糖代謝、免疫力、内臓脂肪などに大きな影響をもたらしています。
2)アイリシン
あまり耳慣れませんが、「ミオカイン」の一種です。いきなりですが「白色脂肪細胞」を「褐色脂肪細胞」へと変える働きがあります。「白色脂肪細胞」というのは脂肪の蓄積を行ない、又たくわえていた中性脂肪を遊離脂肪酸に分解します。「褐色脂肪細胞」はその遊離脂肪酸を直接燃焼させ体温を上げます。体温が上ると発がん防止にもなり、体重を減らすことにもつながるのです。ついでながら「褐色脂肪細胞」が少ない人が「ひえ症」になります。
またアイリシンは脳にも良い影響を与えます。運動で「アイリシン」が増えるとBDNFというホルモンが記憶をつかさどる「海馬」というところで多く産生されるようになり、脳神経細胞の伸長、連携が促進されます。運動して容量が増えるのは脳の中でも唯一「海馬」だけだそうです。アスリートの頭の良さはここに理由があるのではないでしょうか。「海馬」の萎縮は「アルツハイマー認知症の診断基準」になるくらい重要な場所ですから、運動することがどれだけ大切か分かります。
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