「姥ざかり」

田辺聖子著
昭和56年新潮社刊より

13、女のいい顔

2022年02月27日 08時50分35秒 | 田辺聖子・エッセー集










・「素直な女性」というのは、
いいイメージを喚起する言葉で私は好きであるが、
どういうのを指すのであろうか。

私自身、年齢を加えて見る目が変化したのか、
この頃は好ましい女性が増えた気がする。

男性の多くは、
この頃はひどい女が多くなった、とこぼしたりして、
ことに中年、初老女性を憎んだりしている。

なぜですか?と聞くと、
あのあつかましさ、ヒステリー、出しゃばり、自慢壁、見栄っ張り、
エゴイズム・・・などと言う。

それを言うなら男性もそうであろうけれど、
実のところ、私はこの間ある大衆演劇を見に行って、
中年女性の観劇マナーの悪さに驚倒した。

お芝居はよく出来ていて楽しかったし、
席は後ろの方だったが舞台もよく見え、申し分なかったのだけど、
周囲の女性観客の傍若無人ぶりといったらなかった。

紙袋を破ってものを食べる、
それを人にすすめる、
劇の進行中に席を立つ、
舞台のセリフとかけあいになるほどの声高で、

「もう帰らはる?」「へえ、ちょっと・・・」「気ぃつけて」

などとしゃべり、良識を疑うもんじゃなく、
この人たちの神経は正常じゃないというようなふるまいであった。

女の人がのびのびするのはいいが、
のびのびするあまり、周囲に対して身をつつしむ、
謙虚な思いやりが失われてしまった。


~~~


・女たちが悪くなった分、
またよくなったのではないかと思ったりする。

この頃、女の人に「いい顔」が多くなってきたからだ。
テレビを見ていても、見ることが出来る。

ニュースの一コマにマイクを向けられた町のおばさん、
ドキュメンタリーで映る農婦、漁村のおばさん、
実に「いい顔」をしている人が多い。

対談とか討論している女性、これは長く映る。
こういう場合「いい顔」であると、長く楽しめていい。

彼女の言うことに深くうなずいたりする。
「いい顔」の人が言うことは、こちらも納得できることが多く、
信頼を裏切らない。

これが役者であると、
ドラマは筋や展開、テーマが役柄によって好感度が左右されるので、
役者は大変損である。

しかし、ドラマが気に入らなくても、
いい役者を見て好感を持ったりする。

では、いい顔というのはどんなのですか、
と言われると難しい。

いい顔は、性別を超越した人間的なもの、ということは出来る。
しかし、女の人に限って言うと、やはり私は美しい顔、というのが好き。

それは、美人というより、その人の考えがみんな出ている、素直な表情。
お面をかぶっていない、生の感情が出ている。

嬉しい時は嬉しい気分が、
突っ張っていない、ということになる。

突っ張りやメンツを捨てることである。
そういう素直な顔が美しい。
それが若々しさ。

物理的年齢のことではなく、
知ったかぶりをしたり、人に教えたりしない。

知らないことは「知らない」とはっきり言い、
はじめて聞いて「えっ、本当!」と驚く素直な顔、
そういうのがいい顔であって、
だから七十の若い顔もあれば、十七、八の年より顔もいるわけである。

いい顔を持ってる女の人が多くなったように思うのは事実で、
それがすなわち「素敵な女性」だと思う。






          

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