竹村英明の「あきらめない!」

人生たくさんの失敗をしてきた私ですが、そこから得た教訓は「あせらず、あわてず、あきらめず」でした。

「菅リスク」より危ない「野田リスク」

2012年06月03日 | 原発
先週は、福島原発の国会事故調査委委員会で菅直人元総理へのヒアリングがあり、事故後にあまりに政治が介入しすぎたために事故対策を遅らせ事故を拡大したのではないかとの追及があった。
私もはじめから終わりまでのやりとりを聞いていたが、マスコミ等で流されているのとは逆に、少ない情報の中で菅元総理が必至でその職責を果たそうとしていたのだなということを知る内容だった。
まず原子力事故時の指揮系統は原子力災害対策特別措置法で、確かに総理大臣が最高責任者として対策本部がつくられることになっている。緊急避難や事故対策にいたるまで「総理」が判断せよという内容になっており、その審議のさいに、そんなに全責任を総理に集中して本当に機能するのか・・という問題提起が行なわれていたはずである。緊急避難等は自治体に権限を委ねるべきだし、事故対策の技術的な判断は、その分野の専門家に委ねるべきであると。
不幸にして、そういう指摘は反映されず、全責任が総理に集中するというシステムの中で、最初にはじめて職責を果たさねばならなくなったのが菅元総理だった。

情報が来ない

その結果として、菅元総理が実感した第一は「情報が来ない!」ということだった。あまりに情報がない。東電から官邸に派遣されていた武黒フェロー(元副社長=原子力担当)から、ほとんど情報がなく、情報が錯綜する中で自分で信じる確かな情報を求めて、原発事故現場への乗り込みや、東電本社内への合同対策本部設置という行動に出たのだなあということが良くわかった。
東電=原子力ムラのやり方はいつもそうで、情報は出さず責任は自分で取らない。
だから、しょうがないや・・とならなかったという点では、菅元総理の行為はむしろ評価できる。

海水注入を菅元総理が「中止せよ」といったという情報は本人は否定し、武黒フェローが独自判断で伝えたとしている。
国会事故調は武黒フェローのヒアリングは、もうやったのだろうか?
原子力ムラの人間は、情報操作のために二枚舌、三枚舌を使うことは「普通」であるという前提で、これも公開で行なうべきである。

東電全面撤退の情報についても、官邸側は政治家側は全員が「全面撤退」と聞いたと証言している。
誰かの聞き間違いではないと思えるが、東電側は「一部撤退」を伝えたのを政治家側が聞き間違えたのだと、全員が証言。
ただ、これは「最近になって」のことだ。口裏あわせをしている可能性もある。

本社内に合同対策本部をつくったことは、前例のないことではあるし、現場に土足で踏み込んだようなことも言われるが、私の評価は「あっぱれ」である。
これは、間に何の役にもたたない「原子力安全・保安院」を入れることの効率の悪さを理解してのことだと思う。
事故時に、私も不思議だったのは、官邸の記者会見、東電の記者会見のほかに、原子力安全・保安院の記者会見があったことだ。
我々は3回も「同じ話」を聞かねばならない。いや、その三者がみんな違うことを言ったりするので、不安も広がる。
なぜ、一緒に記者会見しないのか・・と思った。

「菅リスク」によって事故が拡大したのか、むしろなんとか現在の程度に止めることができたのか、真実はわからない。
国会事故調は「拡大だ」とまとめるのかもしれない。
しかし、「全面撤退」がもし本当だったとしたら、それを止めた菅元総理の功績は大きい。
全面撤退していたら、事故はおそらくもっと大きくなっただろう。
(いまは入院してしまった吉田所長の取材記事で、彼も最後のことを決意したという話は何度も書かれていたと思うが)

原子力安全委員会は何もできず

専門家の話では、本来機能しなければいけないのは原子力安全委員会だ。班目委員長が「水素爆発はない!」と説明した数時間後か数分後かに水素爆発があって、菅元総理の信頼を一気に失ったという。何が起こるかを予測できない専門家には確かに唖然とするが、一方で、原子力安全委員会はこの事故に対して立ち入り調査件を含めて、対策を指示する何の権限も与えられていない、総理に助言し、総理が判断して指示を出す。これまた、まどろっこしい仕組みだ。
事故が起こってみて、こんなことじゃダメだろうということをみんな気がついたのであろう。
参考意見であって、何の権限もない、つまりは責任もない・・ということでは、真剣に取り組めないだろう等と考えてはいけないのだろうか。

現在焦点の大飯原発再稼働の前提となるストレステストについても、班目委員長は一次試験だけではダメで、二次試験までを含めて安全確認ができるというようなことを言っている。
非常に重要な「専門家の指摘」だと思うが、それによって再稼働の前提が揺らいだりしないし、原子力安全委員会も何もしない。
安全を軽視するときには名前を使われ、安全のために機能しなければならないときには無視されるという存在のようだ。

「野田リスク」こそ問題

不幸にして、総理が何でも判断するという仕組みはいまもそのままである。
原子力問題に関しては菅元総理よりもっと無知であると思われる野田総理が、私の判断で「大飯原発再稼働を決める」と言っている。
先週は、これまで大飯原発の再稼働に反対していた大阪や京都、滋賀などの関西連合が突如「再稼働容認」となったというニュースが流れた。
どうやら、これも「野田リスク」のようだ。
関西連合と政府側の会談で、斎藤勁官房副長官が「今日決める」と語り、それは「再稼働を決める」ということかと問われ、「そうだ」と答えて、それならばと「暫定的再稼働」という不思議な表現の受け入れになったと報道されている。
現在の制度上は、何でも総理判断でできるということが反映している。

実際には、関西連合が反対を続けていれば、再稼働はできない。
いや、知事が賛成したからといって、大飯町の周辺いある自治体の移行はすべて無視して再稼働強行はできない。
それをやれば、大飯原発は再稼働するかもしれないが、もはや第2第3の再稼動は、逆に困難になるだろう。
なぜなら、安全性を本当に確認してのことではなく、ひたすら経済性だけの再稼働だからである。
そんなことをやっていたら大事故につながるというのが、福島原発事故の教訓だったと思うのだが、野田総理は全く学んでいない。

大飯原発再稼働をめぐっては、まだまだこれからいろいろな問題が起こるだろう。
野田の後ろに控える怪しげな「仙石チーム」のリスクとあわせ、今後ますます「野田リスク」は大きくなるだろう。
いま現在、原子力規制組織のあり方をめぐって法案審議が開始されているが、ここでも総理に全権限を集中させる民主党政権案と3条委員会として総理から権限を外すという自民党案がぶつかりあっている。
権限を持たせる専門家が「原子力ムラ」ではもちろんダメだが、そうではない「専門家」にこの安全を守る権限が委ねられるのであれば、自民党案の方がはるかにマシということになるだろう。

そのことを指摘する国会議員会館での集会とNGO声明は以下の通り。
日本の法制度は、あれもこれもぐらぐらと揺らいでいるが、本当はどうあるべきなのか、国民は目をそらさず考えるべきだと思う。

http://e-shift.org/?p=1988#more-1988











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