武本比登志の端布画布(はぎれキャンヴァス)

ポルトガルに住んで感じた事などを文章にしています。

099. 文章は水涸れ-Escrito-

2019-01-14 | 独言(ひとりごと)

 このコーナー、2月にアップしてまもなく7月。5ヶ月の長きにわたってお休み。いざ、何か書こうと思っても頭の中から文章が涸れてしまっている。
 毎年日本に帰国している間の2~3ヶ月はお休みと決めているが、今年は特別長かった4ヶ月の日本滞在。元々、乏しい文章力、何処から手を付けてよいのやら、ホームページビルダーの使い方まで忘れてしまっておぼつかない。涸れてしまった井戸を回復するのにはどうすればよいのやら、とりあえずパソコンの前に座ってキーボードを叩きながら雨乞いのおまじないをするしかなさそうだ。

 日本から戻って1ヶ月。「えっ、未だ1ヶ月。」という感じだが、1ヶ月にしては実に密度の濃い1ヶ月であった。
 申請をしてまもなく1年も経とうとしているのに未だ再発行されていない運転免許証をめぐって2度、3度とACP(ポルトガル自動車協会)に足を運んだし、前もっては支払えないため延滞金を含む住居の固定資産税。クルマの税金の払い込み。車検。その指摘によるちょっとした自動車修理。デジタルに替わった為のテレビの買い替え。配線工事。

 それから画材を仕入れにリスボンまで1度、トラブルがあってもう1度。キャンバスロールを仕入れにリスボンの先のケルースのまだ先まで1度。そしてキャンバスを20枚ばかり張り、来年のNACKシニア展用の50号3点の制作開始。これは半ば。いや2分程度。おまけにアルコシェッテのアウトレットモールとピニャル・ノヴォの露店市。いやはや目まぐるしい。

 夏の猛暑枯れを前に未だ花が残っている内にと、アレンテージョ地方の農家ホテルに1泊旅行。日帰りではエスピシェル岬に2度。フェリーで渡って対岸のトロイア半島に1回。

 そして先日はルーゾで2泊。ルーゾに行くのはこれが初めて。22年もポルトガルに住んでいるのに初めて。(絵のモティーフがなさそうなところには興味がないからだが…)
 ルーゾとはポルトガルで1番有名な水の湧き出る産地。スーパーでも5リッターや1,5リッターのペットボトル入りのルーゾの水は必ず売られているし、レストランで水を注文すると、ガラス瓶入りのルーゾの水が出てくることが多い。(我が家ではいつも違う産地の水を買うが…)

 ルーゾにはブサコという宮殿のある大きな森がある。その森はポルトガルを代表する国立公園とも言われている。日本からの団体ツアー旅行には必ずと言っていいほどブサコの宮殿で1泊というのが定番。(だったのだが最近はそれほどでもなくなったのかも知れない。)

 そのブサコの森に、森に咲く花の探索に出かけたのだ。アレンテージョの沿道や牧場の花はほぼ終り。涼しい森なら未だ違う種類の野草が楽しめるかも知れないと思って出かけた。(この2~3年はこの時期、エストレラ山に出かけて山の花の探索をしたのだが…。)

 ホテルに着くと先ずブサコの森の地図をくれた。ルーゾのホテルに泊るということはブサコの森を歩くと言うことなのだろう。
 次の日には森の中心にある宮殿までクルマで行って、そこを中心にして探索するつもりで、その日はホテルから近場の森だけを歩いてみた。
 すぐに階段道になり、水がしみ出て石段もなかば崩れかかっている。植生はシントラによく似ている。ジキタリスやエリカは今が盛り、そして既に花は終わってしまっている陰生のスミレ。
 森の中に入るとやはり涼しい。念のためとリュックにはウインドブレーカーを2着入れてあるし、道に迷って遭難しても大丈夫な様にLEDの小さな懐中電灯。一包みのマリアのビスケットと板チョコ、飴玉、ナッツ類と干し葡萄を少し、それにペットボトルの水。
 涼しいといっても歩くと身体が火照ってくるのでウインドブレーカーは着ないまま、結局リュックの中身で使ったのは少しの水だけ。1年で1番陽の長い6月下旬。鬱蒼として薄暗いと言へども、いつまでも明るい。道に迷うこともなかった。

 ホテルには屋内プールもあるし、部屋にはジャグジー付きのバスタブも備わっている。数十もの部屋があるのに、泊り客は我々を含めポルトガル人とフランス人などの老人ばかり5~6組程。三ツ星でビュッフェ式朝食付き、2人で1泊42ユーロはこの時期としては安い。

 翌朝、朝食を済ませ、ホテルのフロントでブサコ宮殿までのクルマでの道を尋ねると丁寧に教えてくれたが最後に「歩くほうが気持ちが良いよ~」とのことだったので歩くことにした。メルカドでパンと2種類のハムを買って出かける前にサンドウィッチの弁当を作った。リュックの中味は昨日と同じ遭難対策常備品プラス、サンドウィッチ。

 森には標識などが殆どないので、地図と照らし合わせてもどこをどう行けば良いのか判りにくい。 
 途中、木々の間から谷下の方にアジサイらしい明るいブルーが見えたので行ってみた。池があり、その周りはアジサイが今が盛りと咲き、椿が残り花を付けていた。そしてヘゴが遊歩道にたくさん植えられている。姿も見えない野鳥が美しい声で、森に響く大きな囀りを聞かせてくれる。アジサイや椿、ヘゴなどは人によって植えられたものだが、そんな中、いろいろな野草が負けじと花を付けている。歩いて来て良かった。ホテルのフロント係りに感謝だ。

 宮殿よりさらに上の森の木漏れ陽の中で昼食にしたが、こんこんと水が湧き出ている。まる1日森の中を遊歩道からもそれて藪こぎもし探索したけれど、あまりこれといって目新しい花も見つからなかった。でも森林浴は気持ちが良い。この豊かな森が美味しいルーゾの水を育んでいるのだ。

 ホテルの部屋からはまん前にルーゾの水汲み場が見える。歩いて1分だ。その反対側のカフェテラスに座ってビールとトレモス(ルピナスの実の塩漬け)でちょっと一杯。
 水汲み場には5リッターのペットボトルをたくさん抱えた人々がひっきりなしに行き交っている。近くにクルマを停めて10個も或いは20個もの5リッタータンクを持ち帰る人もいる。水の落ち口は10程もあり、順番待ちをすることもなく、水は汲み放題、無料だ。我々もあらかじめ6リッター入りのタンクを用意してきた。
 湧き出している場所には綺麗な玉石が敷き詰められていて、こんこんと湧き出ている様子をピラミッド型のガラスを通して見ることもできる。決して涸れることはなさそうだ。水は汲みだせば汲み出すほど、水脈はそこに集まり流れをより太くするのだろう。

 文章でも絵画制作でもそれと同じ様に思う。書かなければ涸れてしまう。描かなければ涸れてしまう。描けなくても先ず、例えば赤を塗る。その赤が気に入らなければ違う赤を上に被せる。或いは赤の横に緑を置いてみる。人によっては青かも知れないし、黄色かもしれない。そこに人生観の違いが生じるし個性が生れる。そして次の色を乗せたくなる。さらにどうしようかと課題が生じる。そうして絵が生れてくる。先ず色をのせることから始まる。
 豊かな森を育てて涸れさせないことが大切だろうけれど、もし涸れてしまったら先ずそうする他ない様におもう。
 さて、涸れてしまった僕の頭の中の文章、文字を拾い集めることから始めることにしよう…。VIT(2012年7月号)

 

(この文は2012年7月号『ポルトガルの画帖』の中の『端布れキャンバスVITの独り言』に載せた文ですが2019年3月末日で、ジオシティーズが閉鎖になり、サイト『ポルトガルの画帖』も見られなくなるとの事ですので、このブログに転載しました。)

 

 

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