カサブランカ駅
夕食後、ポルトガル国内ニュース情報番組を19:00に終わるまでの少しの時間観て、すぐさま映画のチャンネルに切り替える。コロナ禍だからという訳ではなく、以前からその生活は変わらない。
映画チャンネルは5つ程あるが、殆どがハリウッドかイギリスの映画でポルトガルでは英語のそのままで流し、ポルトガル語の字幕スーパーが入る。子供向けのアニメなどはポルトガル語に吹き替えられているものもある。フランス映画ならフランス語、イタリア映画ならイタリア語、スウェーデン映画ならスウェーデン語でポルトガル語字幕スーパーといった具合だが95%が英語の映画だ。従ってたま~にやるポルトガル映画では字幕は入らない。
映画は同じものを繰り返しやる。観たい映画なら繰り返しが有難い。1回2回ではなかなか解らない。3回目くらいからようやく解りかけてくる。
観た映画はパソコンで検索をして、内容を把握する。殆どの映画はWikipediaで掲載されているからそれで確認をする。
只、今観た映画のタイトルが判らないと検索が難しい。名前を知っている俳優が出ていればそこから検索をする。それでもタイトルが判らないとどれなのかが判らない。俳優名、役名、そしてタイトルである。
チャンネルを一旦他に回し、元に戻すと数秒の間、テレビ画面左下にタイトルが出る。但しポルトガル語のタイトルだ。日本でも洋画は日本人受けするタイトルが付けられる。
例えばクリント・イーストウッドの(For a Few Dollars More)を直訳すると『もう数ドルのために』でポルトガル名もほぼ同じ『Por Mais Alguns Dólares』となるが、邦題は『夕陽のガンマン』だ。
原語の直訳ではなくとんでもないタイトルになることもあるが、それはポルトガルも同じだ。
オードリーヘップバーンの『Breakfast at Tiffany’s』はほぼそのままの邦題で『ティファニーで朝食を』だがポルトガル名は『Boneca de Luxo』で直訳すると『豪華な人形』となる。
そのポルトガル語のタイトルを挿入して観ている映画が出てくれば良いが、何かの商品名であったり、ブラジルの知らない町のレストランか何かの店名であったりで袋小路に陥ってしまうことがある。そしてマイナーな映画はなかなか出てこない。
ポルトガル語の字幕を見ていてもおやっと思うことがある。人の名前である。欧米の名前は聖人からとられた名前が多い。英語とポルトガル語では聖人の呼び名も少し違っている。ポルトガルの字幕スーパーは、映画にもよるが、人の名前までもポルトガル名に代えられていたりして字幕を見ていると混乱を生じる。逆に大航海時代のポルトガル人英雄マゼラン(Magellan)はポルトガルではマガリャンエス(Magalhães)という。
地名でもそうだ。イギリスはレイノ・ウニド(Reino Unido)またはイングラテラ(Inglaterra)ともいう。スコットランドはスコシア(Escócia)。スウェーデンはスエシア(Suécia)、ドイツはアレマーニャ(Alemanha)でオランダなどはパイシェス・バイショ(Países Baixos)などと言うからわけが分からない。ニュージーランドはノヴァジーランディア(Nova Zelândia)だし、ニューヨークはノヴァイオルク(Nova Iorque)である。更にアメリカは(Estados Unidos)となる。尤もアメリカ国内で自分たちの国をアメリカなどと呼ぶ人は1人もいない。ユナイテッド・ステーツ(United States)だ。
それは映画の字幕だけではなく、ニュース番組でも同じだ。先日の大統領選で現職共和党のトランプは負け民主党のバイデンが1月20日に就任式をし、ホワイトハウスに入ることになっている。
ところが11月29日現在、トランプは「8000万票をバイデンが不正に得票している。私は大差で勝ったのだ。」などと発言、ホワイトハウス退去を撤回、なかなかすんなりとはホワイトハウスを明け渡す気がないらしい。
そのワシントンのホワイトハウスをポルトガルでは直訳し『カサブランカ』と言う。日本ではホワイトハウスを『白い家』などとは言わない。ホワイトハウスは『ホワイトハウス』である。
僕たちがポルトガルに住み始めた30年前、アメリカの大統領はジョージ・ブッシュ父で、ポルトガルはソアレス大統領の時代であった。セトゥーバルで最初に借りた部屋にはモノクロテレビがあった。そのモノクロテレビから『ブッシュ、ソアレス、カサブランカ』などと聞こえてきた。ブッシュ大統領とソアレス大統領がモロッコのカサブランカで会うのだろうか?或いはイングリッド・バーグマンとハンフリー・ボガートの映画『カサブランカ』のことをブッシュ大統領が何か言っているのかな?などと思ったものだが、よく聞いてみるとカサブランカはホワイトハウスのことなのだ、と判り納得したものだ。
因みに映画のカサブランカ、つまりモロッコのカサブランカのスペルは (Casablanca) でホワイトハウスのスペルは(Casa Branca)である。
セトゥーバルから真東直線距離おおよそ7~80キロにカサブランカというところがある。
モロッコのカサブランカでなくとも、ワシントンのカサブランカでなくとも、ポルトガルにもカサブランカがあるのだ。駅前広場に10軒ほどの家があり、工場らしき建物が1軒あるだけで村とも言えない規模の場所だがそこに不似合いなほど立派な駅がある。セトゥーバルからとエヴォラに向かう線、そしてベジャへの線、3線の合流点の駅で、この駅で降りる人は殆ど居ないのだろうが乗換駅となり、立派なことの意味が納得できる。
クルマでセトゥーバルからこのカサブランカに行く直接の道はない。一旦、北東方向に向かいモンテモール・オ・ノヴォを掠め、田舎道を南に下りアルカソヴァスを目指す中間にカサブランカはある。交通量も少なく、春には沿道は花盛りで野の花の観察などをしているとなかなか前へは進まない、のんびりドライブにはもってこいの道だ。
第2波コロナ禍での非常事態県境を跨ぐ外出禁止令が早く解除され、野の花が咲き乱れる春が待ち遠しいものである。ポルトガルの春は早い。とは言え未だ12月になったばかりで少し気が早いだろうか。
その前にカトリック国最大の祝日クリスマスがある。温かいポルトガルではエストレラ山にでも行かなければなかなか雪は見られないが、ホワイトクリスマスをナタール・ブランコ(Natal branco)。クリスマスをナタール(Natal)と言い、サンタクロースはパイ・ナタール(Pai Natal)、クリスマスツリーはアルボール・デ・ナタール(Árvore de Natal)である。11月初旬からコロナ禍とは言えクリスマス商戦(Compras de Natal)が始まり、ここから見えるルイサ・トディ大通りには大小2本のアルボール・デ・ナタールがまるで日本のパチンコ店の様に激しく点滅をしている。VIT