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コルボーンは2000を超える科学論文を読み漁った。
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会議の開催にこぎつけるまで 二年近くの準備期間を要した。
1991年7月26日コルボーンはウィスコンシン州ラシーンに20人以上の専門家を招待した。
事前に資料として 参加予定者全員の研究内容と経歴を配布した。
環境保護局の調査生態学者ウィリアム・デイビス博士は コルボーンに電話してこう言った。
「シーア 招待は本当に光栄だけど 僕なんか場違いじゃないだろうか」
「どうして?」彼女は訊いた。
「偉い内分泌学者や生化学者が沢山そろっているじゃないか。
率直に言って 僕はただ魚を観察してるだけ。
魚の行動や毒物学 生理学 そんなところだ。
科学的な見地の討論に参加できる人間とは程遠いよ。」
「だからこそ ぜひ出席してくれなきゃ」コルボーンはきっぱり答えた。
「野生生物の現状を話してほしいのよ」
実のところ この問題に関して 野生生物学 内分泌学 分子生物学
生化学 神経学 海洋生物学など
異なる分野の専門家がそれ程多く一堂に会したのははじめてのことだった。
出席者の多くはそれぞれ独自にパズルの断片に取り組んでおり
互いの研究について まるで知識がなかった。
コルボーンは 彼らに対して化学物質が性分化に対する影響を誘発している
との考えに関連する発見があれば 提示してほしいと依頼していた。
その結果 出席者の多くにとって この会合は非常に有益なものとなった。
「あの会議のことははっきり覚えている。
会場はフランク・ロイド・ライトが晩年に設計した邸宅で
地元の大事業家のために建てられたものだった。
船のような形で 見晴らしのいい場所から見下ろすと
まるで広大な小麦の原を進む大船だ。それが最初の驚きだった」と
マクラクランは言う。
「だが本当に驚いたのは会議場で席について 雌性化について出席者の話を聞いてからだ。
北海のアザラシ アメリカ西海岸のカモメ 五大湖の魚
生物学的状況が すべてに共通しているのを知って とにかく呆然 だった・・・」
発言者には 内分泌学の第一人者であるカリフォルニア大学バークレー校のハワード・バーン教授
をはじめとして 高名な学者が多かった。(この会議は非公開で行われた
会議に関する記述は討論そのものの記録ではなく関連の論文やインタビューなどを加味してある)
バーン教授は 1950年代に妊婦に投与された合成エストロゲン剤DESの潜在的な危険性を
最初に警告した一人だった。
あの悲劇に学ぶ点は多かった と彼は語った。
第一に妊娠初期の胎児へのエストロゲン暴露は
若い女性の膣がんのような 生殖器官の発達異常を産み出す。
第二に エストロゲン暴露が極めて悲惨な結果を招きうる決定的な時期の存在。
たとえば膣の明細胞腺がんは妊娠初期の三か月間にDESが投与された場合に より発生しやすい。
最も憂慮すべきなのは これらの影響がすぐには目に見えないことだ。
DESにさらされて生まれてきた赤ん坊は 誰の目にも「先天性異常」があるようには見えない。
がんへと進行する変化は思春期 またそれ以降にならなければ出現せず
合成エストロゲン暴露の影響は それまでの間体内に潜んでいる。
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