惚けた遊び! 

タタタッ

抜粋 神里達博『ブロックチェーンという世界革命』 河出書房新社 2019

2019年02月22日 | 哲学


 たとえば、戦国時代には、世界で最も多くの銃が日本にあった。しかし、徳川家康が政権を取ると、幕府の政策により、銃は日本からほとんど消え失せた。銃というテクノロジーを徳川政権は拒絶したという点で、社会決定論の実例として、海外でも有名だ。


 グーグルトレンドによれば、「仮想通貨」の検索回数は二〇一七年の春頃から徐々に増えだしたが、それまではほとんど注目されていない。


 この技術(ブロックチェーン)が、いったいどのような時代的、文化的、あるいは思想的背景から生まれたのか、それを理解することが、ブロックチェーンという技術を正しく理解するためにには必須だと言えよう。


 まったく新しいアイデアに基づく仮想通貨、「ビットコイン」に関する論文がネット上に投稿されたのは、後述するように二〇〇八年のことだ。このとき、ビットコインは産声を上げた。


 これらは、「カリフォルニアン・イデオロギー」と呼ばれることがある。


 元々アメリカは、一九三〇年代の大恐慌の時代以来、特許を重視しない「アンチパテント政策」をとってきた。これは、大企業の独占・寡占こそが、、恐慌の原因であり、特許はその最たるものだとみなされていたからである。


 ……、二〇〇八年一〇月三十一日。例のサイファーバンク・メーリングリストに、全九ページの論文が投稿された。『ビットコイン:ピア・トゥ・ピア電子通貨システム』。投稿者は「サトシ・ナカモト」という人物であった。


*ウィキリークスとシルクロードの決済手段に、ビットコインがスタート時に採用され、知名度を高めた。


 ……、一番最初の取引開始から現在までの全ての取引が、すべて数珠つなぎになって記録されている電子ファイル。それがブロックチェーンだ。


 (お金の歴史を訪ねると)、つまりコインのような貨幣が一般化されるよりも先に、すでに帳簿があった、といまでは考えられているのだ。


 私たちは、「仮想通貨」をさも新しい発明と考えがちだが、実は最初から通貨は、「帳簿上の記号」に過ぎなかったのである。最初から「ヴァーチャル」だったのだ。そしていま、私たちは抽象的な記号を遠方と取引する情報技術を得て、もう一度、帳簿という仕組みに光があたった。それがビットコインだといえる。


 ビットコイン(ブロックチェーン)の台帳は、P2Pネットワークのすべての参加者が共有している。中央に管理者がいて管理・運営を行うのではなく、誰もが対等の立場で参加する、オープンで民主的なシステムなのだ。


*ファイル交換ソフト「ウィニー」開発者金子勇






 こうした問題に関する、サトシ・ナカモト登場以前の、最も重要なブレイクスルーは、公開鍵暗号の発明だろう。これは、インターネット上のさまざまな通信に広く用いられている、極めて巧妙な暗号システムである。


 「締める鍵と、開ける鍵は、同じでなくてはならないのか?」
 この問いこそが、「公開鍵暗号」という技術を生み出した本質である。


 この原理(素因数分解)を使って、鍵(C)と鍵(D)を作れば、十分に安全性の高い公開鍵暗号が成立する。鮮やかな手品のような、見事な方法ではないか。


 公開鍵暗号の仕組みを逆に使うことによって、本人確認が成立するのだ。


 この計算(ハッシュ値の算出)を複数の参加者で競い、最初に、このような結果が出るような、<ある数値X>を見つけたコンピュータが、報酬として所定のビットコインをもらえるという仕組みになっている。
 この作業を「マイニング・採掘」と呼ぶ。ちょうど、鉱山で金を探すような作業に似ているからだ。


*ハッシュ関数 (ハッシュかんすう、英: hash function) あるいは要約関数[1]とは、あるデータが与えられた場合にそのデータを代表する数値を得る操作、または、その様な数値を得るための関数のこと。ハッシュ関数から得られた数値のことを要約値やハッシュ値または単にハッシュという。
ハッシュ関数は主に検索の高速化やデータ比較処理の高速化、さらには改竄の検出に使われる。例えば、データベース内の項目を探したり、大きなファイル内で重複しているレコードや似ているレコードを検出したり、核酸の並びから類似する配列を探したりといった場合に利用できる。((ウィキペディア)


 つまり、ビットコインそのものをインセンティブとして、台帳が本物であるという確認作業を、ネットワークの参加者自身にやらせようという仕組みなのだ。これは「プルーフ・オブ・ワーク(作業による証明)」(poW)と名付けられている。


 これ(不正をすると損をする仕掛け)もサトシ・ナカモトは設計当初から想定していた。一人一人が自分の利益になるように行動すると、全体のシステムが安定していくような装置を作ればよいのだ、と考えたのである。


 マイニングによるpoWの発明、突き詰めれば、それこそがビットコインの新しさだ。


 poWという、参加者同士の競争によって、台帳が唯一の本物であることを維持させるように仕向ける、それがビットコイン(ブロックチェーン)の仕組みのすべてだ。


 信頼については多くの議論があるが、ドイツの社会学者ニクラス・ルーマンは、私たちにとって有益な思考のツールを与えてくれている。


 だから信頼があれば、不確実性は減り、社会の「複雑さ」を減らすことができる。ルーマンは、信頼の本質を、複雑性・不確実性の縮減であると看破したのである。


 この装置(ブロックチェーン)自体の全体の仕組みが人を裏切ることができないようにつくられているという、客観的・技術的な「事実」に裏付けられた信頼である。


 どこにも中心がない。権力も権威も関係ない。いわばシステムの構造的な事実自体が、信頼を調達してくれる、という意味において、ブロックチェーンは画期的なのだ。


 世界的な銀行システムの与信が連鎖的に崩壊したとき()リーマンショック)、この巨大な権威のシステムによって、経済というものの根底的な信頼が保たれていたという事実が、つまり、近代という時代の深刻な脆弱性が、明らかになったのである。


 知的な準備ができている人(素因数分解の理解)


 中央集権的な電子決済がもつ危険性


 中世の地中海貿易は、マグレブ商人(仲間内)とジェノヴァ商人(法治)が競い合っていた。


 ビットコインをはじめとする仮想通貨は、行われた取引内容を台帳に記録していく。いわば過去の記録を集積していくのだが、このイーサリアムは、未来を書き込めるというところが画期的だ。


 イーサリアムの凄いところは、お金の支払いだけではなく、さまざまなアクションを誰もがプログラムとして書き込み、実装できるという点だ。


 すでに始まっているICO(イニシャル・コイン・オファリング)は、ブロックチェーンが実現する資金調達手段の一つだ。


 ICOは、スタートアップ企業の有効な資金集めの手段のひとつとして、ちょっとしたブーㇺになっている。何より、個人でも始めることが出来るところが注目されている。


 科学技術をどう導くかは、さまざまな分野の専門家と社会の側が、十分に議論をしながら進めていくことが大切だろう。その前提として、専門家と一般市民、それぞれがリテラシーを高める必要があるだろう。


 日本人は信頼する能力が低いと言われる。マグレブ商人のように、長年の付き合いで実績を重ね、信頼関係を築いた相手と契約を結ぶことはよくおこなわれるが、ジェノヴァ商人のように、何も知らない人をとりあえず信頼して、挑戦してみようという度合いは、かなり低い。


 (ルーマン曰く)「信頼」とは、手持ちの根拠で保障されるレベルより高いところへの、「飛躍」を伴うものだ。彼はそれを、「超過して引き出された情報」と呼んでいる。換言すれば、信頼とは基本的に「未来」に属する価値である。
 一方で「信用」とは、過去の実績の積み上げでしかない。信用とは、要するに過去の属性なのだ。信用と信頼は、根本的に違うことだということを忘れるべきではない。


 モノづくりの昭和も遠い過去となり、業界内の護送船団方式が通用する時代も完全に終わった。にもかかわらず、新しい時代状況に、社会システムを適合させることが出来なかったのが、平成という時代であろう。


 ブロックチェーンという技術は、自律分散型の思想がべースにある。


 フランスの哲学者ドゥルーズは、「生成する異質性」をリゾーㇺ(根茎)と呼び、中心を支配するツリー(樹木)と対比した。


 エストニア(人口百三十万人)はバルト海に面した北欧の小国だ。この国は近年、ITを国家戦略の中心に据えてきた。……。そしていま、ブロックチェーンを活用した電子政府「e-Estonia」の構築を本気で目指している。


 マンハッタン計画からブロックチェーンに至る歴史


 技術と社会の複雑な交流を理解したうえで、新しい「決め方」を組み立てていかなければならない、厄介な仕事になるだろう。





*二〇一九.年二月二十二日抜粋終了。
*マイニングの方法が興味深かったが、素因数分解にはお手上げであった。
*「失われた三〇年」は中央集権の官僚統制経済であったのだ。



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