「只今,」かばんを放り出して門口を飛び出した.
昭平はすでに万端整えて木戸口の石に腰掛けて 唐いもを食べていた.
「お前も食うか.」「うん」と言うと ポケットから焼き芋を取り出して「速く 食ってしまえよ.」
と命令口調で言う.
今日は 近所のかわらで 鰻つりの授業を受ける約束である.
昭平は50cmくらいの肥後竹に 手具酢につないだ釣り針を引っ掛けたものを
二本.用意していた.
一本をわたしに渡した.ミミズを籠から取り出して起用に針にかける.
「チェッ 不器用なヤッだね.」わたしの手際を業笑うように見つめている.
「こいつ」と思うが 野遊びについては昭平にはかなわない.
丹念に 石垣のあいているところに 差し込んでいく.
昭平の見立てど゛おり 見る間にうなぎが喰らいつく.
日は落ちて すっかり 夕刻になっていた.
帰ってみると 父が役所から帰っていた.
「お父さん こら昭平と 鰻取ってきた.」
父の機嫌をとるように顔色窺いながら言うと ちちは「戦利品を出せ」と恐い顔で言う.
「母を呼んで 鰻の処理を任せた.
昭平も武も手足を良く洗ってこい.縁側に正座させられて 父が読み上げる論語の
素読をさせられた.あそぴ゛の開拓者昭平は小学校卒業して八幡製鉄に就職した.
風邪の便りで聞くところでは 昭平は肺ガンですでに他界していた.