正論を述べたまでの事。
いかんせん、述べた相手が悪かった。
常識が通じず、自分の思い通りにならないと、暴力でねじ伏せ排除する。
そんな圧政者によって、牧野つくしの人生は狂わされた。
圧政者から発令されたイジメを指示する赤紙により、つくしの左目は光を失ったのだ。
「貴女のご両親にお金を要求されたから、慰謝料として1億円、それとは別に、見舞金として5千万円も併せて支払いました。貴女にその金額分の価値があるとは思えないけど、しつこく付きまとわれるよりはマシですから。それにしても貴女のご両親、下品ね。謝罪よりお金を要求するなんて」
これでもう二度と、司とは関わらないでちょうだい。迷惑するから。分かったわね!?
蔑むような目でそう言い放った道明寺財閥の鉄の女は、数多の部下を引き連れ病室から立ち去った。
ただただ、惨めだった。
鉄の女に何一つ言い返せなかった事が、反論出来なかった事が、情けなくて不甲斐なくて憐れだった。
自分は間違った事は言っていない。
親の威光で威張り散らしているけど、アンタ自身には何の力もない。単なる裸の王様だ。
自分でお金を稼いだ事もないくせに、偉そうな事を言うな。
そう言っただけなのに何故、この様な目に遇わなくてはならないのか。
ごくごく当たり前に、普通に、正論をかましただけなのに何故、左目の視力を失う羽目になったのか。
そもそも、自分はあんな男にしつこく付きまとっていない。
むしろ、しつこく付きまとってきたのはアッチの方だ。
関わってほしくないのも、迷惑してたのも全てコッチの方だ。
それなのに、鉄の女の圧倒的なオーラに呑まれ、反論すら出来なかった。本当に悔しい。
そんな声なき声を上げたつくしの元に、新たなる客人が現れた。
「この件に関しまして、類様・・・いえ、花沢家には一切関わりがございません。全ては道明寺財閥の司様が勝手になさった事。ですので、花沢家は貴女様に対する保障を行う義務はございません。しかしながら、貴女様のご両親がしつこく慰謝料を要求して参りましたので、手切れ金代わりに些少額を支払いました。よって今後一切、花沢家と類様に関わらないでほしい・・・と、奥様から言づかっております」
類様に汚点を残す訳には参りません。
貴女様のご両親は、類様と貴女様に絶対接点を持たせないと約束した上で、手切れ金を受け取っています。
それを努々(ゆめゆめ)お忘れなきよう。
そう告げてから、花沢家の執事は病室を後にした。
ひたすら哀しかった。
花沢家の執事に一方的に言われたのも、こちらの言い分を一切聞く気がないという態度をとられたのも、ただひたすらに情けなかった。
汚点ってなに!?どういう意味!?
花沢家にとって自分は、汚ならしい存在なのか。
自分と関わること自体が恥なのか。
確かに、彼がよくいる非常階段に行って言葉を交わしたりしたけど、ただそれだけの事。
それ以上でも以下でもない。
それなのに、何であんな言われ方をされねばならぬのか。合点がいかない。
そう胸の内でつくしが呟いた時、更なる来客が病室に現れた。
「本来なら当家が君に謝る義理などないのだが、後から面倒な事に巻き込まれるのも厄介なのでね。こうして当主たる私がわざわざ出向いて来た。そうそう、先日君のご両親にお金を要求されてね、手切れ金と兼ねて見舞金を支払ったから承知しておいてくれたまえ。それともう一つ。西門宗家には近づかないでくれ。家名に傷をつける訳にはいかんのでね」
総二郎には若宗匠を名乗らせ良家の令嬢を娶(めと)らせる予定なのに、君みたいな人間に周りをウロウロされたら迷惑だ。
自分の身のほどを弁(わきま)えたまえ。
と、言い捨てた西門流家元は、つくしに一瞥をくれると静かに病室から出ていった。
少しずつ感覚が麻痺し始めていた。
家名に傷がつく様な存在と言われても、身のほどを弁えろと言われても、悔しいだとか腹が立つだとかそういった感情が何一つ湧かなかった。
もう、どうだっていい。
高い場所からこちらを見下ろし、好きなだけ罵ればいい。
蔑まされた目で見られても、汚らわしいものを見るような目で見られても、何も思わないし感じない。
ただ、ひたすら、煩わしいだけだ。
ありとあらゆるもの全てがただ、煩わしい。
左目の視力を失ったのに子供に寄り添う事もせず、恥も外聞もなく金の亡者になった親も疎ましい。
こちらの体の具合を気遣う言葉すらなく、お金で解決したから関わるなと言い放つ権力者たちも疎ましい。
全てがもう、嫌だった。
そんな心境の中、新たなる来訪者がつくしの病室に現れた。
※うまずたゆまず・・・途中で飽きて投げ出したり怠けたりせず、努力し続ける。
〈あとがき〉
中篇くらいで完結させようと考えてます。
今のところ、着地点はまだ不明。
最終的にあき→←つく濃い目になるのか、それとも総→←つく濃い目になるのか、それともモヤっとしたまま終わるのか!?