ろうげつ

花より男子&有閑倶楽部の二次小説ブログ。CP :あきつく、魅悠メイン。そういった類いが苦手な方はご退室願います。

うまずたゆまず(あき→つく←総) 2

2020-07-18 08:00:47 | うまずたゆまず(あき→つく←総)
「謝って済む話ではないが、それでも謝らせてほしい。此度の左目失明の件、本当に申し訳ありませんでした。牧野さんに対し、取り返しのつかない事を息子が仕出かしてしまいました。償える罪でないことは重々承知していますが、それでも私達に償わせてほしい」

「本当に・・・本当に申し訳ありませんでした。牧野さんの左目が・・・左目の視力が失われた原因を息子が・・・ほ、本当にご、ごめんなさいっ!母親である私からもお詫びさせて下さい」

「・・・」

完全に心を閉ざしてしまった今、どんな言葉も胸に響かないし、届かない。
何も感じないし思わない。
喜怒哀楽が抜け落ちたような感じだ。
そんなつくしの心情を知ってか知らずか、いかにも上流階級に属するといった風体の夫婦は、彼女を気遣いながら言葉を続けた。


「体調の方はどうかな?食事はちゃんと摂れてるかい?」

「何か食べたいものはある?ケーキやクッキーなんていかが?」

「・・・」

「ベッドから出て院内を歩いたり出来るのかな?もし歩けるなら、私達と一緒に少し散歩でもどうだろう」

「あら!それはいい考えね、パパ。どうかしら?牧野さん」

「・・・」

そんな呼び掛けにも反応せず、病室内の窓から見える景色を無表情で見やるつくしに、品のある夫婦は優しい瞳を向けた。
その様子からは、気分を害したとか不機嫌になっただとかは読み取れない。
穏やかな表情を浮かべ、つくしの心に寄り添おうとしている。
それは明らかに、今までこの病室を訪れた者達とは違っていた。

「術後の経過が良いとは言え、無理は禁物だな。となると、散歩は次に訪れた時の方がいいかもしれないね」

「そうね。もう少し安静にして、体力をつけてからの方がいいと思うわ。それとパパ、そろそろ失礼させてもらいましょう。牧野さん、疲れてるんじゃないかしら」

「そうだね、ママの言う通りだ。あまり長居すると牧野さんが気疲れしてしまうから、今日のところはこれでお暇(いとま)しようか」

「ええ」

「いきなり訪れて悪かったね、牧野さん。また近々、お邪魔させてもらうよ」

「甘い物がお嫌いでなければ、ケーキを焼いてお持ちするわね。私、お菓子作りが大好きなの」

「・・・」

否とも是とも言わぬつくしに、品のある夫婦はにこやかな笑みを向けている。
返事はなくとも、拒絶されている訳ではない。
それを肌で感じているからだろう。
そんな夫婦は一度たりとも、つくしから声を掛けられぬどころか視線すら向けられぬまま、病室を後にした。

そして、それから5日ほど経った後、品のある夫婦は約束通り再びつくしの元へと姿を現した。
婦人の手作りケーキを手土産にして。


「良い天気だね。体の具合はいかがかな?牧野さん」

「昨夜ね、シフォンケーキを作ってみたの。牧野さんのお口に合えばいいのだけれど」

「・・・」

「ママの作るケーキは絶品なんだよ。後で私達も、牧野さんのご相伴に与(あずか)ってもいいかな?」

「あらっ!いい考えね。三人で食べると更に美味しくなるわ、きっと」

「・・・」

「じゃあ、より一層美味しく食べる為に、散歩でもしようじゃないか。今日はね、牧野さんの主治医から外出許可をもらったんだよ。少しは歩いて体力をつけた方がいいそうだ。それには、散歩が打ってつけだそうだよ」

「そうね。外の空気を吸うのも、一つの気分転換になるわ。みんなで散歩しましょ」

「・・・」

口調も穏やかで柔らかな雰囲気を漂わせているけれど、会話の内容は強引で一方的だ。
しかし、不思議な事に不快感や反発感は生じない。
むしろ、この夫婦の言う通りだなと納得してしまう。
だからつくしは、コクリと頷いて是の意思を伝え、自ら先頭をきって病室を後にした。

そしてこの判断が、ゆくゆくつくしの運命を変えていく事となる。



〈あとがき〉

話の展開が進まない・・・。
でも徐々に進めていきますよ。
本当に中篇くらいの長さで終われるのだろうか。