“GLT”
オブジェの中で、わたしの視線が異様な強さで惹きつけられた1冊のペーパーバック。
本当に、不思議な瞬間だった。
決して目立つようなところにあった訳でもない。
ましてや、奇をてらった装丁でもない。
ひっそりと佇む、とても地味な存在のそれが、まるでピラミッドの頂点にあるかの如く、
一瞬でフォーカスされた。
コントロール不能の反射神経としか説明できそうもなかった。
信じられない。
彼も、持っているなんて。
わたしの最愛の、本。
メグのいる、本。
そう、その本こそ、今のわたしの偽名のモデルが登場する本。
とりたてて不思議なことではないのかもしれない。
世の中に、2冊しかない本ならばまだしも、市販されていたものなのだから。
それをお互いに持っていたとしても、特別、不思議なことではないのかもしれない。
それが、一般的な見方かもしれない。
けれど、今のわたしには、ベストセラーにもなっていない、
今では絶版になっているその本が共通の所持品だったという事実は、
この出会いに秘められている強固な背景のようなものをとても自然に感じさせた。
そんな思いを巡らせながら、視線は彼のいるキッチンへ向かう。
必要最小限の道具しか置かれていないそこは、生き生きとして、
いつでも静かに主を待っているような雰囲気が溢れていた。
コーヒーを用意してくれている彼。
そして、この空間。
再び、冷静な目線で見つめる。
清らか。
一言で例えるなら、それが最もふさわしいと思えた。
そのくらいに、しんとした息遣いのするこの家と主は、きわめて清らかだった。
ひとり暮らしの経験はないけれど、突然の来客を迎えた部屋が見せるその表情は、
きっと車の運転と同じくらいに、その主の本性が映し出される鏡のような気がした。
さぼろうと思えば、いくらでもさぼることができる。
綺麗にしていたければ、綺麗にするほかない。
そこには、嘘偽りのない、そういうシンプルな関係だけが存在している気がした。
オブジェの中で、わたしの視線が異様な強さで惹きつけられた1冊のペーパーバック。
本当に、不思議な瞬間だった。
決して目立つようなところにあった訳でもない。
ましてや、奇をてらった装丁でもない。
ひっそりと佇む、とても地味な存在のそれが、まるでピラミッドの頂点にあるかの如く、
一瞬でフォーカスされた。
コントロール不能の反射神経としか説明できそうもなかった。
信じられない。
彼も、持っているなんて。
わたしの最愛の、本。
メグのいる、本。
そう、その本こそ、今のわたしの偽名のモデルが登場する本。
とりたてて不思議なことではないのかもしれない。
世の中に、2冊しかない本ならばまだしも、市販されていたものなのだから。
それをお互いに持っていたとしても、特別、不思議なことではないのかもしれない。
それが、一般的な見方かもしれない。
けれど、今のわたしには、ベストセラーにもなっていない、
今では絶版になっているその本が共通の所持品だったという事実は、
この出会いに秘められている強固な背景のようなものをとても自然に感じさせた。
そんな思いを巡らせながら、視線は彼のいるキッチンへ向かう。
必要最小限の道具しか置かれていないそこは、生き生きとして、
いつでも静かに主を待っているような雰囲気が溢れていた。
コーヒーを用意してくれている彼。
そして、この空間。
再び、冷静な目線で見つめる。
清らか。
一言で例えるなら、それが最もふさわしいと思えた。
そのくらいに、しんとした息遣いのするこの家と主は、きわめて清らかだった。
ひとり暮らしの経験はないけれど、突然の来客を迎えた部屋が見せるその表情は、
きっと車の運転と同じくらいに、その主の本性が映し出される鏡のような気がした。
さぼろうと思えば、いくらでもさぼることができる。
綺麗にしていたければ、綺麗にするほかない。
そこには、嘘偽りのない、そういうシンプルな関係だけが存在している気がした。