はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 46

2012-06-13 04:40:03 | 【Gravity Blue】
亜熱帯地の空港で購入するチケットは、シカゴ行き。
行き先は、アメリカ合衆国だった。

出国手続きの時に、それとなく目にした彼のパスポートは、合衆国発行のものだった。
「驚いたかい?アメリカ国籍。」
オーストラリアの赤茶けた大地を離陸して間もなくの頃に、彼が言った。
一夜明け、一見、いつも通りの彼に戻ったよう。
「うん。勝手に、日本人だと決めつけていたから。」
わたしは答えた。
「当然だよね。この容姿で、ネイティブの日本語を話していたら。
それに、国籍が違うだけで、純血の日本人だしね。
両親は、日本人だった訳だから。」
「だっ、た?」
わたしは、遠慮もなく咄嗟に口にしていた。
「ああ。両親は、もういないんだ。
早くに死に別れてね。8歳のときだったんだ。」

そう言うと彼は、堰を切ったように語り始めた。
感情をしまい込み、いつも以上にフラットな語り口で。
それは、余計に、事の重大さをシビアなものに変えた。

「父は作家で、母は彼のことをこよなく愛する穏やかな女性だった。
ふたりは、いつでも仲が良くて、毎日が新しい一日という気持ちで過ごすような人だった。
そして、そんな彼らから注がれた愛情を存分に吸収して、僕らは暮らしていた。
それは、それは、何の不安も躊躇もなくね。
あの事件が起きるまでは。」

わたしの肩に、異様な力が入っているのが分かる。