はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 38

2012-06-05 07:09:52 | 【Gravity Blue】
夜の帳が降りてからは、速度の遅い長いストライドで砂浜を歩く。

月明かりに照らされた、幾億もの細波の音を耳にしながら寄り添って腰を下ろす。
ただそうして、南半球の小さな光で散りばめられた天空を仰ぐ。
見慣れない星座たちの間を、いくつもの流星が縫っていく。
一生の内に、人はどのくらいの流星を見るのだろう。
それはきっと、とても極端な差が生じる経験なのだろう。
一度も見ることがない人もいれば、生きた日数ほど目にする人もいるのかもしれない。
そして、流星を目にした人には、忘れ得ぬ思い出の引き出しを
一夜分は増やしてくれる気がする。

そんな悠久の星空の下で、時間も支配できそうなほどの永遠の口づけを交わす。
一秒が一瞬にも、無限にも感じられる。
自分がそこにそうしていることが、不確かに思えてしまうくらいに、
遠くに運ばれてしまう感覚。
それはきっと、人間が本来持ち得た感覚。
いつからか、厚い扉の向こうに封印されてしまった感情。
決して失ってはいけない尊いもの。

言葉は遊びでしかない。
この気持ちには追いつけない。
彼は、わたしのすべてになっている。

休みの日には、珊瑚の林をふたりで魚になる。
「声も音もないそこでは、人は裸になる。」
そう言った彼の言葉の意味が心で理解できた。
きっと、彼は呼吸さえできれば、迷わず海の中で暮らすことだろう。
それが、彼の求めている自然体なのだろう。

そんな心を潤ませることのできる毎日を、
まるで何かを取り戻すかのように、ふたりで織り込んだ。