はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 57

2012-06-24 01:21:18 | 【Gravity Blue】
そして、その時は、いきなりやってきた。
突然、だった。

「あそこだよ。」
彼が言うのと同時に、
そこから数十メートル先の少し下がったところにある教会が目に入った。

息が、止まった。

「あの教会・・・」
そう呟いた次の瞬間、鮮明な光景がショートフィルムのように頭の中で再生された。
それは、少し前までのわたしたちのように、
背の高い男の子に手を引かれた小さな女の子が、教会へと入っていくシーン。
その女の子は、紛れもなく、わたし自身だった。
そして、次の瞬間、すべてがスパークした。

まさか・・・。
そんなはずはない・・・。
お兄さん、なの・・・。
そんなはず・・・。

「どうしたの?」
一瞬で世界が変わってしまったわたしに気づくはずもなく、覗き込むように聞いた。
「・・・。」
言葉が出ずに、無意識のうちに手だけをそっと放して、ゆっくりと視線を上げた。

「どうしたの?」
再び、彼は聞いた。
「ううん。何でもない。大丈夫。行こう。」
そう言って、先に歩き始めた。

どうして、歩き出したのかさえ解らない。
教会と少し離れて、並んで建つ広い庭のある家に近づく。
薄いフィルムのようなものが、わたしの体から一枚また一枚と剥がれていくような感覚。
そうして、教会の前まで来た時、あの光景は記憶で、記憶が現実であることを確信した。