はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 40

2012-06-07 04:37:06 | 【Gravity Blue】
そして、彼は、周りにいる者、あるもの、そのすべてを受け入れる。

けれど、どんな時でも一人で立っている。
それはまるで、心と頭の間に距離を置いているようだった。
自分の気持ちに正直に動けない人。
幸せを手にしてしまったときから始まる、不幸せへのカウントダウン。

あらゆることを受け入れるけれど、人間であることの卑しさ、醜さ、存在の矛盾、
そういうものと必死に闘っているよう。
地上で暮らしている限りは、もう解放されることのない現実。
それを無条件に受け入れることの苦しさ。
人間愛ではなく、動物愛だと思う。
そんな彼の苦悩を癒すこと、それが私の役目ならば、どれほど素晴らしいことだろうと思う。

わたしたちが、互いの過去について話すことはなかった。
彼が、どうやって今の彼になってきたのかということには、これ以上ないほどの興味はある。
けれど、その時のわたしには、過去よりもそこにいる現在の彼こそが大切だった。
それは、熱病という言葉で片付けるには、あまりにも強すぎる力に成長していた。

ただ、彼の方には自分の生い立ちを話すことに、何かしらの抵抗感があるようにも思えた。
それは、知られたくないというより、話をしたくないという方が近いような気がする。
同時に、それを共有する術を知らないわたしには、
今の彼を作り上げた過去の出来事も含めて、
彼のすべてを受け入れることでしか、
この憂いのない出会いへの感謝に報いることができないように思えた。

ふたりが、甘い未来を語らうなどということも、まるでなかった。
それは、決して将来を悲観している訳ではない。
今日一日、今この一瞬の生を、大切に思っていた。
ただ、それだけのこと。

そんなふたりだからこそ、お互いの存在を同化させてしまうほどの強い力で、
絶対的に必要な人だと認識できた。
この上ない関係性の存在だった。