はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 53

2012-06-20 04:39:40 | 【Gravity Blue】
「可能な限り早い便で、シカゴ行きのチケットを手配してくれるかい?」

白衣を着たままの父が静かに入って来ると、母に告げた。
なんというタイミングなのだろう。
どうして、何かが起きる時は、いつも、いろいろなことが合わさってやってくるのだろう。

「3枚で良いですか?」
当然のように、母は聞いた。
「ああ。3人で行こう。」
躊躇なく、父も応えた。

母が、今日この告白をすることをすることを、父は知っていたのだろうか?
多分、それはない。
ケーキを作りながら、私が夢の話をしていなければ、
恐らく母は切り出してはいなかっただろう。
私からの夢の話を聞いて、母の勘が働いたのだろう。
そして、その勘を信じて、私に話しをするタイミングだと判断したのだろう。
だから、父が知っているはずはないだろう。

それが、今ここに漂っている空気と、「3枚で良いですか」の一言だけで伝わった。
運命で導かれた夫婦には、それができるのだろう。
これほどの緊迫した以心伝心を、はじめて見た。
普段は、とてつもなくおおらかな父の、意外な一面を垣間見た気がした。

「今日は、もう診察を待っている人はいないから、閉めることにするよ。」
「分かりました。チケットを手配しておきます。」
「ああ、頼む。」

そう言って、母と私に微笑み、いつもの後姿で扉を閉めた。