はな to つき

花鳥風月

Gravity Blue 36

2012-06-03 01:50:28 | 【Gravity Blue】
「客室のベッドとクローゼットが、はじめて役に立つ時がきたよ。」

彼は、コーヒー豆を丁寧に挽きながらカウンター越しに言った。
「使いたいものを好きなように使っていいからね。
メグは、お客じゃなくて、住人なんだから。」
あまりも流暢に呼ばれたその名前に、即座に反応できなかった。
「あっ、ありがとう。あっ、ちゃんとお部屋代は入れますから。」
笑えるほどに、慌てて答えて、慌てて付け足した。
「いいよ。そんなことは。食費だけ折半してくれれば。」
彼は微笑んだ。
「もちろんです。それに、嫌でなければお料理も作らせてください。」
「それはありがたい。料理なんていえるものを久しく食べてないから。
よろしくお願いしますね。」
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
ふたり、眼を合わせて笑った。
そして、わたしは、彼と生活を共有できることが、
彼をほんの近くで感じられることが、不謹慎なほど嬉しかった。

それは、まるでパズルが完成したかのように感じる瞬間だった。