日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (32)

2025年01月25日 04時19分35秒 | Weblog

 美代子は、大助の話に束の間でも心が救われたのか、彼の指をいじりながら悪戯っぽく
 「わたし、この指の何番目かなぁ~」
と、彼の表情をチラット見ながら呟やいて聞いた。 
 大助は、彼女の真意を図りかねて黙っていたら、彼女は彼の小指を強く引っ張りながら
  「ネェ~ 大助君」 「君、同級生か先輩の中に、心をときめかせるほどの好きなオンナノコがいるの?」
  「大助君なら、いても不思議ではないと思うけれども、わたし、時々、フッと気になることがあるので、教えてくれない?」
と、大助は予期しないことを突然聞かれて返事に困ってしまい、咄嗟の思いつきで笑いながら
  「同級生や先輩にはいないよ」「しいて言えば、遊び相手の近所に住む小学校4年生のオンナノコかな」
と、靴屋のタマコちゃんのことを思い出して答えると、彼女は
  「そのオンナノコ、大助君の恋人なの?」「一寸、わたしが聞いている、意味の人とは違う様な気がするが、どうなの?」
  「この指の様な人ョ」 「わたし、素直で陽気な君なら、きっと、いると思うんだけどナァ~」  
  「わたしが握っている、この指、何を意味するかわかるでしょう」
と、小指を握ったまま聞くので、彼は漸く彼女の真意がわかり
  「正直、イナイ イナイッ!」 「僕、そんな面倒なこと嫌いなんだぁ~・・」
と言うと、彼女は半信半疑な顔をして
  「ネェ~ わたしが、今日、君を駅に迎えに行ったこと、おかしいと思わない?」
と続けて聞いてくるので、彼は
  「僕、本当のところ、ビックリ してしまったよ」「だから、失礼してしまったが、済まないと思っているよ」
  「それに、僕には何かと五月蝿い姉の目も光っているし・・」
と弁解がましく言うと、美代子は
  「わたしの方こそ、君に迷惑をかけてしまったと、今は反省しているヮ」「でも、わたし、どうしても一刻も早く逢いたかったの」
と言いつつ、そのいきさつを話しはじめた。 彼女が説明するには

 美代子は、夏休みになってから、今年もお盆ころには、大助君が昨年の様に家族で田舎に遊びに来るのか気になり、手紙を出して予定を聞こうと思い母親に相談したら、母親は
 「たった一度お逢いして河で遊んただけなのに、手紙を出すなんて相手の人に迷惑なのでよしなさい」
とあっさりと断られてしまった。 けれども、わたしの気持ちが納得できないので、節子小母さんに直接聞こうとも考えたが、なんだか恥ずかしくて、それも出来なかったの。 そこで、非常手段として、お爺ちゃんに、わたしの胸のうちを正直に話して、なんとか聞いて欲しいと頼んだら、お爺ちゃんは
 「ヨシヨシッ。 ワシが聞いてやるから、そんなことでメソメソしているな」「若いうちは、考え抜いたら勇気を持って前に進むんだ」
 「それが、青春だョ」「但し、歳相応な節度は守るんだゾッ!」
と、やっぱり元軍人さんらしく即断で引き受けてくれたの。 
 昨日、節子小母さんから、来ますよ。と、聞いたときは、昨晩は眠れないくらい嬉しくて、今朝は母親に無理を言って運転して貰い駅に行ったの。 お母さんは、お爺ちゃんには絶対服従だからネ。上手くいったヮ。
 そうしたら、君は、わたしから隠れている様だったので、チョッピリ 寂しくなったが、今度は母さんが逆にわたしの背中を押して、ほら、早くご挨拶をしなさい。と、言ってくれたので、わたし君の傍に行き勇気を出して君のシャツを引張ったのョ。 君を家に無理に連れてきたのも、わたしの、その場の独断でしたことなのよ。 こんな勝手なわたしの行動を判ってくれるかしら・・・。

と、青く澄んだ瞳に意思の強さを滲ませ、彼の指をいじりながらも、笑顔交じりに時系列に従い、その時々の心境を判りやすく話してくれ、続いて、崩している長い足を持て余すかの様に反対側に移すと、大助に持たれかかる様に身を寄せ、握り締めた手に力を込めて、彼の顔に自分の顔を少し近ずけ、彼の目を見ながら、青い瞳を輝かせて
  「ネェ~ 大助君、こんな我侭な私のこと好き、それとも嫌い?」「わたしは、君のこと、大好きだヮ」
と言ってフフッと笑ったあと俯いて、蚊の鳴くような小さい声で
  「モシ キライデナカッタラ、フアースト キッス ヲ シテェ~」
  「これ以上無理な我侭は決して言わないことを約束するヮ」
  「勿論、誰にも言わないし、二人だけの秘密にして、大事にわたしの胸にしまっておきたいの」
  「スマートで背丈が、わたしとつり合い、それに、わたしに対してスッゴク優しく接してくれるし、君の顔を見ているだけで、普段、男子生徒に肌と目の色が違うとゆうだけで、何のいわれもなく面白半分にからかわれて虐められている、わたしの心が癒されるヮ」
  「もう、わたしの前に二度と君みたいなオトコノコは現れない気がするの」
  「君と逢えた偶然は、きっと、わたしが信仰するマリア様のお導きとしか思えないヮ」
と、一方的に自己の考えを感情を込めて話終えると、両手で彼の顔を軽く挟んで、途中から目を閉じ、彼の唇に触れるように近ずけて来たので、彼も自然の成り行きで要領を得ないまま、そっと彼女の唇に触れた。
 
 美代子は、大助から顔を離すと、想いを遂げた安心感からかニコットして、小声で
  「ゴメンナサイ わたしの気持ちを素直に理解してくれて、トッテモ ウレシカッタヮ」
  「私達の一生の思い出になるヮ」
と感激した様に言い、小指で彼の唇の周りを軽くなぞらえて微笑んでいた。
 彼女の積極的に意思を行動にあらわすが、それでいてあくまでも冷静な彼女の態度に反し、大助は瞬間的に起こったことに興奮して、気持ちが整理出来ないまま、反射的に指先で彼女の笑窪を軽くつっつき
  「林檎ジュースの甘い香りがしたょ」 「それにしても、君は勇気があるなぁ~」
と苦笑いをして答えると、彼女は
  「アッ! 林檎ジュースを飲んだあとからだゎ」 「わたし、勇気があってキッスをしたのでなく、君が好きで溜まらないから、夢中でしちゃったのょ」 「わたしの気持ちを判ってネ」
と、素直に告げたので、大助は
  「僕も、君が好きで時々想いだしているよ」「それにしてもなぁ・・」
と、返事をするのが精一杯だった。
 二人は、初秋の風にそよぐススキの穂に群れ飛ぶ赤トンボの様に、無邪気な穢れの無い戯れの時を過ごした。

 彼等二人にとって、夏の日に訪れた、飯豊山脈の峰にかかる淡い白雲の様に、いつかは消え行くかも知れない、蒼い恋の芽生えらしき夢の様な時を過ごしたあと、明日からの大助の予定を話込んでいたところ、母親のキャサリンが、部屋の入り口のところで、遠慮して顔を見せずに
 「美代子、 節子小母さんが、そろそろお帰りになる時間ョ」
と教えてくれたので、彼女は元気良く
 「ハーイ 今、下に降ります」
と返事をして二人で玄関に降りて行くと、何時帰宅したのか、父の正雄医師と母親のキャサリンそれに老医師の家族三人と節子小母さんが揃って笑いながら待っていてくれ、大助は居並んでいる家族に
 「いやぁ~ 愉快で楽しかった」
と丁寧に挨拶をして、美代子にバイバイと手を振って節子さんの車に乗り込むと、美代子は母親の背後に隠れ、涙で潤んだ顔を隠くして、母親の後ろから右腕だけを伸ばして手を振っていた。
 
 
 

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