日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (41)

2023年02月10日 06時32分46秒 | Weblog

 健太は、思いがけないハプニングから、珠子と昭二の出会いに失敗したことで気落ちして、大助を伴い顔見知りの居酒屋でママを相手に半ばヤケザケを飲んで雑談をしていた。
 健ちゃんの図太い声を聞きつけ、暖簾の隙間から顔を覗かせた、大助と同級生である奈緒が、カウンター席にソット近ずき大助の脇に座り、二人でジュースを呑みながら普段学校では話せない同級生達の噂話しを熱心に話込んでいた。
 奈緒は、同級生でクラス委員をしている葉山和子に遠慮して、普段、近くで話せない大助に対し、この時とばかり、胸に秘めていたクラス内の大助に対する噂話を喋り出し、大助も予想もしない自分に対する評価を聞いてビックリし心を曇らせた。
 
 奈緒が語るところによれば
 和子は、自分から進んで担任教師に申告して大助と席を隣合わせたことを非常に喜んでおり、彼の額の絆創膏に付いても、体操部に部活を変更させた教師や先輩達を凄く恨んでおり、若し彼が大怪我をしたら大変だと気にかけ、退部して元の野球部に戻るように盛んに説得しても、彼が言うことを聞かず悩んでいること。 それと、授業中に<今度、多摩川園に遊びに行こう>と書いたメモを渡しても、返事も書かずにそのままソット返してよこすので、彼の気持ちが掴めないといった愚痴を、親しい女生徒にこぼしている。と、和子の心境を細かく話してくれた。
 
 そんな話をした後、奈緒は大助の耳元に顔を寄せて、小さい声で
 「ネエ~ 大ちゃんは和子さんをどう思っているの?」
 「和子さんは、君の事を大分好きみたいよ」「大ちゃんも、ホントウハ  カズコサンヲ スキナンデショウ!」
と、瞳を輝かせ肘で彼の腕を突っきながら、半ば嫉妬交じりに執拗に聞くので、彼はコップをいじりながら
 「和子さんは、綺麗だし頭も良いので僕なんて眼中にないよ。ヨワッチャウナー~」
 「僕は、隣席だし普通に接しているだけだよ。口五月蠅い連中の噂話だろう」
 「機会があったら、僕が、彼女に特別な感情を抱いていないことを、皆に話しておいてくれよ」
と返事をしたら、奈緒は声を殺して
 「ダメダメッ! そんなことを、わたしが話したら和子さんに苛められてしまうは。ほかの人に頼みなさいヨ」
と、全く聞き入れず、大助も困ってしまった。

 奈緒が熱ぽく話すのを部分的に聞いていた、健ちゃんが
 「おいッ!大助。 お前も学校でヤキモチを焼かれ大変だな」「まぁ~ 男もヤキモチを焼かれるうちが花だよ」
 「昭ちゃんも、せめて、お前の半分位色男なら、今日あたり俺も苦労せずにすんだんだがなぁ~」
と、からかっていた。 
 大助は、思いもかけぬ奈緒の裏話に、遂に、とばっちりが自分のところにきたかと嫌な気分になったが、そんな雰囲気を大助の顔から察した奈緒は
 「大ちゃん、やっぱり和子さんの言うことを素直に聞いたほうが良いと思うゎ」
 「彼女は、先生にも大胆に自分の意見を言うし、先生も彼女に大しては一目置いているので、彼女に頼んで大怪我をしないうちに体操部をやめるべきょ」
と、絆創膏をみながらしみじみと話をしていた。
 奈緒も、普段の暮らしの中で互いに行き来している彼に親しみを感じているが、中学生になってからは、和子の手前遠慮しているのである。

 家に帰ると、一足遅れて田舎から帰っていた理恵子が
 「大ちゃん、ハイ これ美代子さんから預かってきたヮ」
と言って、珠子の前で白い封筒を差し出したので、大助はニコット笑いながらも少し照れて「なんだろうなぁ~」と受け取ると、珠子が冷たい視線で彼の表情を見つめて
 「きまってるじゃない、ラブレターだわョ」
 「今からこんなことでは、相手がお金持ちの娘さんだけに先が思いやられるゎ」
と少し溜め息混じりに話すと、理恵子が
「大ちゃん いいのょ。お友達に好かれるてゆうことは、あなたがそれだけ魅力的だとゆうことなので、その長所を伸ばすことネ」
「あとで差し支えなかったら、お手紙に書いてあることを教えてネ」
と言って、彼を庇って笑っていた。
 理恵子も、織田君と久し振りにゆっくりと逢えたことで機嫌がよく、大助の目にも理恵子が、ひと夏を越したとゆうだけで、いやに落ち着きを増し大人っぽくなり眩しく見えた。

 大助が、自分の部屋で早速手紙を開いて読んだところ、その内容は
 
 『青空の下で君と河で水泳をしたことが、今でも頭にこびりついていて懐かしく思いだされる。
 そして、二人で仰向けに並んで手を繋ぎ、河に浮かんで流れに身を任せて、青空を眺めていたとき、白い小さな雲がちぎれて離れてゆくのをみていて、私の胸の中で、あの雲の様に君と離れるなんて絶対に嫌だと思ったこと。
 また、盆踊りの最中、君がお年寄りや子供達に引きずりこまれて、わたしから時々離れてしまってヤキモキさせられて少し寂しい思いをしたこと。
 それに、お爺ちゃんが、今でも、<我が家にオトコノコがいればなぁ~>と君の事を思い出して呟くと、母のキャサリンが悲しい顔をして目を伏せるが、父が<一層のこと、大助君を養子に貰うか>と冗談を言い返し、一瞬、私も、そうなればと胸をトキメカセて数秒間の夢にしたるが、そんなこと実現できる筈もなく、今でも君のことが我が家の話題になっている家庭内の様子など。
 最後に、冬休みに約束通り必ずスキーをしに来てくれることを楽しみにしていること。
 裏山の草原には小さい野菊が咲き乱れ、白樺の幹も白さを増して、アケビも実を結び始め、白いススキの穂につがいで群れ飛ぶ赤トンボを眺めていると、君を懸命に追い駆ける、自分の姿を映しだしている様に思えること。
 リンドウの咲く初秋は、誰しも人恋しくなるらしく、自分の心境を判って貰えるかしら・・。』

 等々と、誰に見られても恥ずかしくない様に大分気を使って書いていることが容易に判り、彼も安心した。
 
 夕食後、大助が皆から請われてあっけらかんと平気な顔をして美代子からの手紙を出すと、皆が順番に手紙を読んだあと黙っていたが、ただ、母親の孝子が
 「家とは大分開きがあり、将来、どうなるんだろうかね」
と一人で気をもんでいると、珠子が
 「母さん、心配ないわよ」「つかみどころの無い大助なんて、いずれは愛想を尽かされて相手も本気になれず、別れることになるんだから・・」
と口添えすると、大助は
 「チエッ これでも姉ちゃんのために健ちゃん達と随分神経を使っているんだぜ」
と口答えすると、珠子は、すかさず
 「アッ 判った。お昼の出来事、ヤッパリお前が仕組んだことだわね」
と言って、彼の頬を軽く抓っていたが、昼間の出来事を知らない理恵子が
 「小母さん、若いうちは相手の家の資産や職業それに国籍なんて全然関係なく、お互いに気心が通じれば楽しいものょ」
 「私が見るところ、大助君は、おっとりしており診療所の家族にも好かれ、美代子さんは情熱的で明るい性格でお似合いのコンビと思うゎ」
と、母親の孝子に心配することはないと、美代子の立場を細かく説明して安心させていた。

 大助にとっては、この夏は美代子対しほのかに抱いた”蒼い恋”を除けば、遊び友達のタマコちゃんに文句を言われるや、鉄棒に失敗して額に怪我をするは、同級生の間で予期もしない噂話をされるは、おまけに、珠子姉ちゃんと昭ちゃんのことで、健ちゃん達の騒ぎに巻き込まれるといった、酷暑以上の熱い思いをさせられ、忙しく過ごした夏休みの終わりであった

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