日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

河のほとりで (33)

2025年01月30日 03時51分26秒 | Weblog

 大助が、思わぬ歓迎を受けて愉快に遊んだあと、名残り惜しそうに美代子と別れて節子小母さんと帰宅したあと、美代子の家庭では夕食のテーブルを囲んで、老医師と長男の大学医師の正雄が晩酌をしていた。 
 老医師が正雄に諭すように
 「お前にも日本人の血が半分流れておるが、キャサリンは仕方ないとしても、大助君にお土産を渡すのを失礼して、ワシは、恥ずかしい思いをしたよ」
 「もっと、土地の慣習を勉強してくれなければ、こんな田舎では評判が悪くなるよ」
と渋い顔をして話すと、キャサリンはひたすら詫びていたが、正雄は
 「まぁまぁ、そのうちに自然と覚えるよ」
とキャサリンをかばい老医師との仲を取り持っていた。 

 美代子は、自分が母親に無理を言って強引に大助君を連れてきたことが、全ての原因であることに気ずき
 「お爺ちゃん、そんなに、お母さんを攻めないでぇ」
 「わたし、ちゃんとお礼をしたヮ」
と言って母をかばうと、お爺さんは眉間に皺を寄せて
 「ナニッ!お礼をしたと?」「なにも用意してないのに、一体どんなお礼をしたんだい」
と怪訝な顔をして聞いたので、彼女は
 「日本人の心以上に、イングランドの礼儀としての心でョ」
と答えると、お爺さんも絶句したあげく
 「ウ~ン やっぱりか」「ワシは、熱が出たみたいだ、これから寝るゎ」
と言いつつも、尚も気になり話題を変えて、美代子に対し
 「最初は、二人とも元気良く遊んでいたのに、急に静かになったが、ワシも変だなと心配になっていたんだよ」
 「そのあげく、大助君が帰るとき泣きっ面してキャサリンの後ろに隠れ、ワシにはお前の考えていることが、さっぱりわからんわ」
と言うと、美代子は
  「ベツニ~・・。トクベツナコトデハナイヮ」 「それより、お爺さん、わたし達の遊びをみていたの?」
と逆に聞き返すと、キャサリンは困った様に顔を伏せてしまった。 
 正雄が機嫌よさそうに
 「そんなに楽しかったの、良かったネ」
と美代子の肩を叩いて褒めたが、老医師は渋い顔をして
 「元気が良すぎて、わしの大事な尺八を放り投げて、踊っていたわ」
と、うっかり口を滑らせると、美代子が
  「アラッ イヤダヮ」 「ヤッパリ ワタシタチノコトヲ カンシ シテイタノネ」 「ソンナコト ヒキョウダワ」
と、彼女にしてみれば、大助君とのことが全て見られてしまったのかと思い、お爺さんに対して、皆が、これまで見たり聞いたりしたこともない勢いで、食事をやめてヒステリックに文句を言うと、老医師も自分の行動が孫娘に悟られたと思い、一瞬、狼狽したが、そこは老獪に威厳のある表情で
  「美代子ナッ!、武士は心眼で人の心や行動が判るもんじゃ」
  「お前達のことは、何も見ていないし・・」「ワシには、何も判らんよ。でも、当っているんかなぁ。」
と苦しい言い訳を言ってなだめ、その場を何とか凌いだ。
 美代子は、そんなお爺さんの忍者話に似た弁解より、大助君のことが気になり、それっきりお爺さんを追及しなかった。
 
 キャサリンは、このやり取りを終始聞いていて、雰囲気から察して、思春期の二人の間でキッス位までなら許せると思い、美代子も大人に成長しているんだなと、内心頼もしく思った。 
 正雄は、現役の外科医だけに、会話の様子から察して、その日の二人の出来事が、おおよそ想像でき、澄ました顔で晩酌をしながら聞いていたが、キャサリンが何時もの様にお酌をしてくれないことに、妻も相当動揺していると察した。


 節子が、大助を乗せて帰宅すると、真夏の陽は山陰に沈んでいたが周囲は明るく、理恵子と珠子は短パン姿で、誰よりも待ちかねていた愛犬のポチと一緒に、裏庭の人工滝から流れ落ちる白い小砂利がまばらに敷かれた小川に足をいれて、冷たい水に暑さを忘れ、網でマスを救うおうと声を上げて遊んでいた。
 健太郎は、裏庭の人工滝から流れる水を利用した流し素麺用の竹細工をしていた。
 大助も、裏庭に出てそれを手伝うと、珠子が節子小母さんの帰宅に気ずき挨拶をしていたが、節子が
 「理恵子が、貴女にお世話になっていて、私も安心しておりますヮ」
 「この子は内弁慶で家に帰ってくると、この様に明るいのですが、貴女のところでは、借りてきた猫みたいでしょう」
と言うと、珠子は
 「今は、慣れてきて、わたしと何でもお喋りしていますヮ」「わたしも、相談相手が出来て勉強になっております」
と、ニコニコしながら返事をしていた。 
 そして、チラット理恵子の顔を覗きみて
 「最近、彼女一人で、織田君の家にも、お掃除や洗濯に行ってきましたョ」
と付け加えると、節子は
 「そうなの、それは良かったわネ」
と返事をして笑っていた。
 理恵子は母親から様子を聞かれるかと心配していたが、静かな微笑みを浮かべ何も聞かなかったので安心した。

 昼間の酷暑も、丘陵にあるこの村では陽が沈むのも平場より1時間位早く、その頃になると川辺にある山上家では部屋に涼風が流れこみ、ましてや、茅葺で居間の天井が高いので、気持ちの良い涼風が部屋を吹き抜けて行く。
 横長の大きいテーブルに、節子が注文しておいた和食が、村の居酒屋兼小料理屋のマスターが運んできて並べると、節子が
 「明日は、私も休みですので料理を作りますが、今日はこれで我慢して下さいネ」
と声をかけると、珠子が
 「小母さん、こんなお料理は私の家では、めったに食べられませんヮ」
と、お世辞抜きで言いながら、各自がそれぞれに近況を話しながら、普段、健太郎夫婦だけの静かな食事と様変わりして賑やかに食事がすすんだ。

 謹厳実直な健太郎は、皆が顔を揃えておいしそうに食事をしている最中に、大助が裏庭の小さな人工滝について興味深く聞いたのに対し、晩酌の勢いもあり、いつになく饒舌になり
 この集落の小川の水は、飯豊山脈の残雪や樹林にたまった雨水が地下に水脈を作り、その水が川の水面下で湧出して流れ出るので、少し上流の川では低温で真水を好むイワナやヤマメそれに小さなイトヨなどの淡水魚がいて、春や秋に渓流釣りの愛好家が東京からもやって来るんだよ
 料理屋で出るイワナと違って天然のイワナなので、大きいものは刺身にし、20センチ位のものは囲炉裏火で時間をかけて塩焼きにしたものは格別に香りがよく都会では味合えないよ
 今ではこの飯豊山麓や岩手.青森の山奥の渓流は、護岸やダムでコンクリートで塗り固められた川と違い、自然が残されているんだよ
と答えていたが、節子や理恵子と珠子達女性にはあまり興味がないようで、節子が「お父さん、いい加減にして・・」と忠告したので、二人の渓流釣りの会話は途切れてしまい、彼女達が祭礼に着て行く浴衣の話題に移ってしまった。
 
 
 そんな賑やかな食事の途中で、節子が理恵子の顔を見ながら
 「織田君は、一緒に来なかったの?」
と聞くと、理恵子は少し不満そうに
 「お仕事の都合で、明日の夜行で帰ると言っていたヮ」
と呟くように小声でつまらなそうに答えたので、健太郎が
 「東京はお盆ではないので、仕方ないよ」「それでも、帰って来るんだから、いいじゃないか」
と言って慰めていた。

 

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