日々の便り

男女を問わず中高年者で、暇つぶしに、居住地の四季の移り変わりや、趣味等を語りあえたら・・と。

蒼い影(30)

2024年06月26日 04時36分08秒 | Weblog

 理恵子は、母の胸元をかきむしる様に散々泣き明かした後、節子から
 「あなたも、高校生でしょう。もう、泣くのはいい加減にして、理由をきちんと話してごらんなさい」
と諭されるや、泣くのを止めて嗚咽混じりにボソボソと断片的に、同級生の奈津子と江梨子からクラス会のの模様について、同級生が忠告の意味で自分に対し、織田君と葉子さんの二人が、來春から東京の同じ大学に進学すれば必然的に親密になる。と、話あっていたことを知らされてショックを受けた。と、しどろもどろに話した。
 節子は少し考えこんだあと、理恵子に対し厳しい顔つきで、自分が経験したことを頭に描きながら
 「あのねぇ。 もう20年くらい前のことだけど、当時、自宅に下宿して教師をしていた、お父さんといずれ近いうちに結婚することになるのかなぁ。と、勝手に思い込み、そうなったときの楽しい夢を見て、その様になれば嬉しいなぁ。と秘かに思っていたわ。
 ところがお父さんが転勤するとゆうことで、その夢もあっけなく砕けてしまい、それからは付近の山や川を見るのも嫌になり、その思いを断ち切ることを心に誓い、東京の看護師学校に行くことにしたのよ。
 それから10数年を過ぎて、偶然にも貴女の亡くなられたお母さんの紹介で、お父さんさんと一緒になることができたが、女の一生には男の人とは別に、嬉しいことよりも悲しい出来事のほうが沢山あるのものなのよ」
と、自分自身の歩んできた人生を簡潔に話しをして
 
 「理恵ちゃんにも、これから思いもつかない悲しく辛いことが起きると思うけれど、それを乗り越えることで、大人の知恵がつき精神的に成長するものなのよ」
と、勇気ずけて、更に

 「母さんは、織田君は女性に対して、そんなにフラフラと気持ちを変える人とは思えないわ」
 「やはり、野球で鍛えた精神的な逞しさと、母親の仕事を助けているためか、自分の生活を見つめる厳しさがあると思うわ」 
 「だからこそ、家に来たときは大事にしてあげているのよ。 母さんの気持ちを判ってくれるはね」
と話すと、理恵子は納得したのか、少し元気を取り戻し「母さん 有難う」と泣きはらした顔をタオルで拭いて、鏡台を覗き込んだあと、再び節子さんの側に座り手を強く握りしめたので、節子は諭すように
 「勝手な思い込みで悩んだり、急いで無理な交際は禁物よ」
 「その道理をきちんとわきまえておくことね」
 「そのためにも、自分の心も身体も大切にする様に普段から心がけるのよ」 
と話し終えると、看護師らしくバックから安定剤のリーゼを1錠渡した。 
 節子は自室に入ると、先に床に横たわっていた健太郎の側に添い寝して、理恵子との会話を簡単に話すと、彼は
 「いや~ 大変だったね。 御苦労さん。 年頃の娘は心理的に難しいね。学校教育の範囲を超えているからなぁ」
と呟き、その労をねぎらうや、節子は彼の腕を軽く抓り
 「実の親子でなくても、理恵ちゃんの気持ちは痛いように判るわ」
 「私も、あの年代の頃、貴方に散々泣かされたので・・」
 「ねぇ~ あなた、そのときのことを覚えていらっしゃる」
 「あのとき、わたし、自分で勝手に夢を見ていたのかも知れないが、それまでのことを全て忘れるために、親の反対を押し切り東京に出る決心をしたのよ」
 
と、これまでに何度か話したことをむし返して話を続けると、彼は
 「もう その話はやめてくれ給え」「君もわかる通り、今とは時代も違い、それにお互いに若すぎて意思の疎通が欠けていたのが、ことの始まりで、今、こうして身体を接していられることに感謝しているよ」
と言うと、節子も
 「そうねぇ~、幸いに悪い夢でなくてよかったわ。貴方の心をくすぐる思いでいたずらを言ったまでよ」
と苦笑して話をやめてしまった。
 こんな他愛ない話を交すなかにも、彼等中年夫婦は互いに愛を確かめているのである。 

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