前が見えない、そんな状態だった。
勿論、状況が読めてないのだ。
そうなるのも、仕方無い。
しかし、ことこの件に関しては……。
仕方無いでは、済まされない個別な事情を孕んでいる事だけは感じ取れた。
ぽっかり出来た、コミュニケーションの穴。
僕はそれを塞ぐのに、精一杯だった。
言葉を、紡げなくなる。
そんな恐怖に、打ち勝つ為には……。
僕に言葉の安全確認は、必要無かった。
むしろ、この時ばかりは無駄にすら思えた。
そうなると、人間は何を言っているのか……。
自分でも、分からなくなってくる。
決して、感情的になっている訳では無かった。
ただ、言葉ばかりが先走り……。
僕の人格や意思が、それを後から追いかける状態が発生していた。
どれだけ、僕は喋り続けていたのだろう。
ふと彼女の瞳が、僕の視線の先に入った。
僕が、その瞳を覗き入ってしまったのが良くなかった。
もう、僕は話す気力をそこで全て殺(そ)がれてしまった。
(あぁ、何て僕は無力なんだろう……)
途方も無い脱力感が、僕を包囲した。
彼女の目に、感情らしい感情の色は宿ってなかったのだ。
いっそ、言葉で全否定された方が……。
この時の僕には、幾分かの救いもあったろう。
生まれて初めてと言って良い程に、言語中枢を全力で働かせてみた訳であった。
だが、僕のそういった背伸び……。
そんなものは、この女性には毛虫程にも関心を寄せる事は無かったのだ。
その事が、僕の全てを否定された様に想像されたのである。
(そんな目をした奴があるか?)
(……そんな目で僕を見るな!)
心から叫び出したい衝動は、抑えきれなかった。
しかし、その反発と同時に……。
僕の心は虚無感へと、一気に押しやられた。
ふと、周りの視線が僕に注がれている事を強く認識したのである。
ハンバーガー屋の空気が、一変しているのが分かった。
(……、何でこっちをみんな見ているんだろう)
(僕とこの女性の組み合わせが、全員のガン見を注がせる程に珍しいのか?)
(嫌、どちらかと言えば僕を見ていやしないか……)
状況に、完全に飲まれた。
そんな中でも、寸刻でそれらの思いを張り巡らせた。
この時の僕は、どんなに間抜けな面をしていた事だろうか……。
目の前に鏡が無かった事は、幸いであった筈だ。
そして、どうにも認めたくない……。
一つの結論が、浮上したのである。
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