髭を剃るとT字カミソリに詰まる 「髭人ブログ」

「口の周りに毛が生える」という呪いを受けたオッサンがファミコンレビューやら小説やら好きな事をほざくしょ―――もないブログ

こねこねっこねこ SP (5)

2009-05-29 18:45:07 | 

「ママ、ただいま~」
「お帰り~。どうしたの?それ?」
手にしている粘土について聞いてきた。
「渡君がくれるって言うからもらった」
「そうなの。お別れするからプレゼントしたのね」
「お別れ?」
「渡君のおうち、今日、引っ越すんだってね。ちょっと前に買い物行った時に渡君のお母さんにスーパーで出会ってね・・・知らなかったの?」
「お引越し?どこに?うちの近く?」
「全然遠いよ。遠くの方だからもう会えなくなるって」
「し、知らない!そんな事・・・」
「あ!ちょっと待って!めぐちゃん!」
それを聞いて、家を飛び出した。走っている間に考える。確かにここ最近、思い当たる節はあった。何か言おうとしている所や落ち着きがなかった所など・・・でも何故、そんな大事な事を言ってくれなかったのだろうか。走っては歩き、歩いては走るを繰り返した。まず駐車場に行くが渡君はいなかった。その近くの渡君の家にも行ってみたが渡君の家はオートロックつきのマンションであった為、エントランスより中に入れなかった。
「うう~」
部屋番号も知らないし、このようなマンションでの呼び出し方を知らなかった為に自動ドアの前でぴょんぴょん飛び跳ねるしかなかった。
「どうしたの?」
そこに住んでいると思われる女性がめぐちゃんに尋ねて来た。
「飯倉 渡君のおうちに行きたい・・・」
「ちょっと私には分からないな~。ちょっと待ってて管理人さん呼ぶから・・・」
女性がボタンを操作して管理人室と連絡して、少し待つと管理人さんが現れた。
「この女の子が飯倉 渡って子に会いたいらしいですよ。知ってます?」
「飯倉 渡?子供さんの名前まで知らなかったけど飯倉さんは知っているよ」
「知っているって。良かったね」
「うん!ありがとう。オバサン!」
「お?そ、そう。それじゃ・・・渡君って子に会えるといいね」
部屋の中に入ろうとボタン操作をしていたが手が震えているようで何度か間違えているようであった。そんな事には気が付かず管理人さんに聞く。
「その人の住んでいるところ何階?」
「お嬢ちゃん。飯倉さんは午前中に引越しが終わってちょっと前に挨拶して出て行った所だよ」
「嘘!」
「嘘じゃないんだよ。お嬢ちゃんは知らなかったのかい?それじゃ、その子はどうして教えてくれなかったんだろうね」
めぐちゃんはそのままマンションを飛び出して色々探し回った。公園やらちょっとした茂みなど渡君がいそうな場所である。だけど、見つからなかった。
「あ!めぐちゃん!どこに行っていたの!ママ探したんだからね!」
道端でママとバッタリ出会った。自転車を引いていて本当に探し回っていた事をうかがわせた。
「渡君。いない。いなくなっちゃった。めぐちゃんに何も言わずに・・・」
「めぐちゃん。話は最後まで聞きなさい。一度、家に帰るよ。それから私の知っている事を教えてあげるから・・・」
めぐちゃんを自転車の後ろに乗せて家に帰る。度々振り返るがすっかりめぐちゃんはしょげていた。家に帰ってからまず紅茶を淹れた。めぐちゃんにはミルクと砂糖を多めに入れた。
「私もちょっと前に聞いたんだけどね。渡君のおばあちゃんが病気で倒れて、看病が必要なんだって・・・だから渡君のうちはおばあちゃんの近くに引っ越すんだって・・・良くなったら戻ってくるかって聞いたけど分からないらしいね」
一時的にならば引っ越すことなどする必要はないだろう。
「・・・」
「多分、少ししたら帰ってくるよ。きっと」
「私に何も教えてくれなかった」
「言いにくかったんじゃないかなぁ?引っ越してあえなくなるなんて・・・」
渡君の心境を代弁してみた。それはかつての自分を重ねていたのだろう。状況はまるで違うが言いたい事が言えなかったのは同じである。
ミルクティに口をつけず、座って俯いていて自分の手の甲を見つめているような状態であった。ママも声をかけづらい状態であった。
「・・・あ、粘土」
渡君を思い出したときに、もらった粘土を思い出した。
「粘土なら、めぐちゃんの部屋においておいたよ」
のろのろと立ち上がって部屋に行く。
「大丈夫?無理しなくて良いんだよ。めぐちゃん」
「大丈夫だよ。ママ」
普段なら悲しいことなどがあったら真っ先に泣くのがめぐちゃんであったが今日は泣かない。それが逆にママを心配させた。めぐちゃんの部屋のドアを開けて中を見るとトコちゃんの後ろ姿があった。
「ああ!トコちゃん!」
トコちゃんは急に大きな声を出されたものだから飛びのいた。よく見ると何と、トコちゃんは粘土を前足で軽く触っていたのだ。恐らく始めてみるものだから物珍しかったのだろう。ぐしゃぐしゃになった粘土。確かにトコちゃんは粘土に触っていたがそれはトコちゃんがやったからではない。めぐちゃん自身が落としてしまって既にぐしゃぐしゃになっていたのだから・・・
「・・・」
ピタッ!
粘土をじっと見つめて振り返るとトコちゃんと目が合った。トコちゃんはそのまま身動きを取らずじっとしていた。身動きを取らずというよりは取れなかったのかもしれない。
めぐちゃんはゆっくりと近付いて、トコちゃんを抱き上げて顔を背中にうずめた。
「ううっ・・・うっ・・・ううっ・・・」
いつものように大きな声を出して泣くのではない。静かに震えすすり泣いていた。トコちゃんは涙や鼻水で自分の毛が濡れるのを分かっていたが暴れるような真似はせずその背中を預けているだけであった。

「めぐちゃ~ん」
夕方、ママはそろそろ夕飯と言う事でお皿を出す手伝いをしてもらおうとめぐちゃんを呼んだ。
「は~い」
「どうしたの?お目目が真っ赤じゃない!」
と言ってみて何があったかは想像が付く。
「何でもないよ。何でもないよ」
ママはさっき静かだったのを思い出した。何かしているのなら大体物音がしていたはずだが、だが奇妙なぐらいに家の中は静寂に包まれていた。その時、泣いていたのだろうと思った。
「本当に?じゃぁ、お皿並べるの出来る?出来なければやらなくてもいいよ」
「出来るよ」
「そう。じゃぁ頑張って・・・」
何故、目が赤いのか理由は今、分かったが、あまり追求してはいけない気がした。今、手伝ってもらってかなり無理をしていると分かったらその時に聞いてみようと思った。頑張ろうとしているのにそこで言うのは良くないだろう。
皿を並べ始めためぐちゃんは目こそ赤かったが笑顔を作って皿を並べていた。それを見て少しホッとした。その頃、トコちゃんはめぐちゃんの部屋で背中をぺろぺろと舐めていた。

年明け、冬休みが終わって幼稚園に行くと新年の挨拶をした後に先生が渡君の事を言っていた。
「みんなにお知らせがあります」
「どうしたの?」
「渡君が急に引っ越しましたので今日から来ません。冬休みが入ったばかりの時に連絡があって・・・」
「ええ~!」
幼稚園児たちがそのように言うもののあまり幼稚園で存在感がなかった渡君である。いなくなったからと言ってそれほど影響もない。1日ぐらいその話題が出ただけで次の日からは特に影響もなく毎日は進行していく。
そんな周囲の空気もあってかめぐちゃんは渡君の事は気にしなくなっていた。その証拠にママもトコちゃんが粘土をこねている所を見かけてしまったのだ。トコちゃんに何をするのか分からないと思って焦ったがそれは杞憂だった。
「めぐちゃん。トコちゃんが大事な粘土で遊んでいるけどいいの?」
「うん。めぐちゃんは粘土遊び好きじゃないからトコちゃんが好きならあげるの」
「そう。優しいね。めぐちゃん。良いお姉さんになった感じがする」
後ろで2人が何か言っているがトコちゃんは構わず、粘土をこねていた。めぐちゃんにはそれが渡君の後姿のように映った。あまりにも小さい渡君であるが・・・
それから今まで、めぐちゃんはトコちゃんを毛嫌いしていたのにそうではなくなったようだ。トコちゃんの方もめぐちゃんを避けると言う事もあまりしなくなり、自ら寄り添う所も良く見られるようになった。それでも渡君との別れでめぐちゃんは大きく成長したのだろう。
めぐちゃんとしては、再会したときに新しい粘土でも持って行ったら何かこねてくれるだろうとそのように思っていた。何故なら別れ際に彼は『また今度』って言ったのだからその言葉を信じた。そして、後で描いた渡君の似顔絵を渡さなければならないのだから・・・

ポロッ
「あ・・・」
箸を落としてしまってそれを拾おうとした時であった。
ガツッ!
立ち上がろうとした瞬間にテーブルの角に頭をぶつけた。
「うう・・・ああああぁぁぁぁぁ!」
「ああ~。大丈夫?めぐちゃん」
ただ、泣き虫なのはあまり変わっていない。

こねこねっこねこSP FIN

こねこねっこねこ SP (4)

2009-05-28 21:18:21 | 

「ママ!どうしよう!」
「帰ってきたら『どうしよう』じゃなくて『ただいま』でしょ?』
めぐちゃんは家に帰ると母親は家の掃除をしていた。しかし、そのめぐちゃんの慌てぶりを見て何か大変な事があったんだろうと思った。
「どうしたの?」
「あのね。あのね。うわぁぁぁぁぁぁ!」
「泣いてちゃ分からないでしょ?」
しゃがみ込んでめぐちゃんを抱きしめて、安心して泣き止むのを待つしかない。めぐちゃんは柔らかいママの感触、いつもと同じ匂い、包み込んでくれる温もりを感じ、徐々に涙も引いてきた。
「渡君好きだって言ってくれたのにめぐちゃん逃げてきちゃった!」
「え?ええぇ?」
「公園で遊んでいたら渡君がいて、それでね。渡君粘土で遊んでいて、それでね。」
状況の説明など一切なく、いきなり結論だけ言われても分かる訳はない。それから、何があったかなど1つずつ状況を言ってくれるのであるが、まだ動揺しているようで言葉の整理がされてなく、不必要な説明があったり1つ1つの単語ばかりであったがあったりとそれを1つの文章にして理解するのは少し骨が折れるがじっくりと聞いて少しずつめぐちゃんの言いたい事が分かり始めてきた。
「輝星君が好きなんじゃないかって言ったら渡君が『うん』って言ってそれでめぐちゃん帰ってきちゃったの」
「え?帰って来ちゃった?」
自分の気持ちの表現が足りない為、何故、そこで帰って来てしまったのかママは良く分からなかった。めぐちゃんからすればあの時、どうしたら良いか分からなかったのだ。ただ単に喜べばよかったのか、冗談として笑えばよかったのか、自分の気持ちを渡君に伝えればよかったのか、色々とあるがそれが出来なかったのは友達がいたからだ。おかしな行動を取ればみんなに誤解される恐れがあるし、その上、渡君を傷つけることになってしまう。それらを小さいめぐちゃんが考えていたら頭の中から思考が溢れてしまったのだろう。一種のパニック状態になって涙が出て、そのまま残っているわけにもいかず、半ば逃げるように走り出してしまったのだ。
「うん。うん。何となく分かってきた。分かってきた。急に言われたから良く分からなくなっちゃったのね」
ようやく分かりかけてきた。ここまで来るのに結構な時間がかかった。
「ママ、どうしよう!どうしよう!」
「じゃぁ、どうしようか?」
「どうって?」
「めぐちゃんはどうしたいの?ママに決めて欲しいのなら決めてあげてもいいけど」
「えっと・・・えっと・・・渡君に謝りたい」
「うん。それがママも一番だと思うよ」
「うん!うん!ママありがとう!」
「どういたしまして・・・」
めぐちゃんの顔に笑顔が戻った。結局、めぐちゃんの中でどうしたいのか決まっていたのだろう。
『めぐちゃんが告白されたか~。あ・・・あの人がどんな反応をするかなぁ?』
旦那に言ってみたらどのような反応を示すか少し楽しみにしていた。

次の日、幼稚園への通園の途中、いつもよりめぐちゃんはキョロキョロして落ち着かない様子であった。
「1人で言えそう?」
「うん」
そのように答えたが難しい顔をしていた。一応、幼稚園に着いたが渡君はいないようであった。めぐちゃんに声をかける。
「それじゃ、ママ帰るから、頑張ってね」
「うん」
「ダメだったらママも謝ってあげるからそんなに深刻な顔をしないで・・・そんな顔をしていると渡君って子もきっと困ると思うよ」
「うん」
片言になってしまっている時点でかなり緊張しているのが伺えた。
「そうだ。めぐちゃん。手を出して」
めぐちゃんは手を出すとママは小さなお守りを手渡してくれた。
「このお守りは強く願えば願うほど願いが叶うものなんだよ。いつもママは出来るか出来ないか難しい時にはコレを使って成功させてきたの。今日はめぐちゃんに預けるよ」
「本当に願いが叶うの?」
「めぐちゃんの願う気持ちが強ければね」
「ありがとう。ママ!めぐちゃん頑張ってみる」
ようやく今日始めて笑顔になってめぐちゃんと分かれた。
「こんなに効果抜群とはね。けど、本当に大丈夫かな?そこは本当に神頼みしかないかけど」

めぐちゃんが教室にいると、友達がやって来て遊ぶ事になってしまい、そのまま遊んでいると渡君がやってきた。だけど急に今、遊んでいるのに離れる訳にもいかず、そのまま遊び続けた。授業の時間になって字の練習をしたり、歌を歌ったり、歌ってみたり、いつもやっている事をするのだが、渡君のこともあってあまり集中できなかった。
食後の休憩の時や自由時間などに渡君に話しかける時間はあった。いつものように渡君は教室の隅で1人、粘土をこねていたからその時間に近付けばよかったのだが離れたところで見ているだけで一歩を踏み出せないでいた。
「そうだ。ママのお守り」
ママからもらったお守りを強く握り締めて祈ってみる。しかし、何も起きない。アニメやゲームなら何かアイテムを持ったら光ったり、何か妖精のようなものが出てきたりなどの何かしら効果があるものだが、このお守りは何も発さない。
「あれ?おかしいな。お願いが足りないのかな?」
再び、強く握って念じてみたが何の反応もなかった。
「めぐちゃん、何しているの?」
「え?なんでも無いよ」
「だったら向こうで遊ぼうよ」
「うん」
断る理由は言えなかったからそのまま遊ぶ事になってしまう。そうやって謝るタイミングを逸し続けてもうお迎えを待つ時間になってしまった。今日は最後ぐらいにお迎えが来る渡君のママがすぐに来てしまってそのまま帰っていった。
「ねぇねぇ・・・めぐちゃん」
「なぁに?」
「渡君は何か言ってきたの?」
昨日、遊んでいたユカちゃんが聞いてきた。
「言ってこないよ」
「何、それ。めぐちゃんを泣かしておいて何も言ってこないの?それって最低じゃない?」
「そこまで酷くないと思うよ。私が悪いんだし」
「じゃぁ、渡君の事嫌いじゃないの?」
やはりそこの所は女の子と言うか人の好き嫌いに関しては気になって仕方ないようであった。ユカちゃんの目つきが変わった。
「うん。嫌いではないけど・・・好き・・・なのかなぁ?良くわかんない」
「何それ?」
「けど、あの時帰っちゃったのはめぐちゃんだから謝らなくっちゃ」
「好きじゃないのなら別にいいんじゃない?」
「だめだめ~」
「ふぅん。でも帰っちゃったから明日になるね」
「そうだねぇ・・・」
そんな事を話しているとようやくめぐちゃんのママがやってきたので一緒に帰った。
「どうだった?渡君とは?」
「まだ謝ってない」
「そ、そう・・・言いにくいものだからね。ママも友達を傷つけた時に謝るの苦労したから」
「そうなの?」
「そうそう。仲がいい子がいたんだけど、その子とは別の所でその子の事はなしていたのよ。それでちょっと愚痴をそこで言っていたらその子聞かれてしまって、怒っちゃったのよね。それで謝ろうって思ったんだけどその子がどれだけ怒るかって思ったら何か一歩が前に踏み出なくなっちゃってね」
「それで、どうしたの?」
昨日、話してくれなかったのに、とても自分の状況と似ている気がした。
「それでも、謝ったら許してくれたんだよね。その子も謝りたい気持ちがいっぱいだったから」
「そうなんだ。ママ、頑張ってみる」
「うん。頑張って・・・」
力なく応援した。その話は嘘であった。途中までは本当の事であったが、謝ってはいなかった。それですぐに学校の卒業と共に離れ離れになってしまった。電話しようとも思ったがダイヤルを押せなかった。結局、現在もそのままである。
家に着くと、水筒に温かいお茶を入れてめぐちゃんは外に出た。
「行ってきま~す」
「行ってらっしゃい」
見送るめぐちゃんの背中を見てママは思う。小さい我が子には自分とは違うところに行ってもらいたいと願うばかりであった。

めぐちゃんの行き先は当然、駐車場である。そこにいなければ公園などを行ってみようと考えていた。他にいなければどうしようもないだろう。
「あ、いた」
やはり渡君は駐車場で粘土をこねていた。めぐちゃんは壁の陰に隠れた。
『ようし!』
ママの話を思い出した。そう思っていると、渡君の背中も謝りたがっているのではないかと思えてきた。けれども、やはり怒っているのではないかとも思えてくる。頭の中でグルグルと回る。ずっと迷ってその場を往復し始めた。そのとき、手にしていたお守りがポロッと落ちた。それを拾おうと前に出たら駐車場の所に出てしまった。渡君は粘土に集中しているみたいで振り返る事もしなかったがまん前に出てしまって固まってしまったので今更隠れるのも不自然である。ゆっくりと渡君のほうに近付いた。
「渡君。あのね。あの。あの・・・」
声をかけられてビクッと震え、ゆっくりと振り返って、めぐちゃんであると確認し、再び粘土をこね始めた。めぐちゃんは言い出せずにいた。簡単に言えれば苦労はしない。
「ん」
渡君は右手を出した。お茶をくれという合図であった。
「あ、お茶ね。今、淹れるね」
「うん」
いつものように水筒の蓋にお茶を淹れて出す。今は冬の寒い時期であるから麦茶はやめて暖かいお茶にしていた。渡君はそれを飲んでまた沈黙する。いつも通りであるが今日はその沈黙が不気味さを放っていた。渡君は手を止めた。
「あのね・・・えっと・・・」
「どうした?」
「え?えっとね。それは・・・」
「何を作る?」
「何をって?」
「何を作ればいいんだ?」
「粘土で作るって・・・言っていいの?」
「他に何がある?」
いつもの渡君の反応だと思ったがそれが逆に怖くもある。
「怒ってないの?」
「何で怒る?」
「だって、めぐちゃん。昨日、渡君に言われて泣いて帰っちゃったから・・・」
「・・・。なぁ。何を作ればいいんだ?」
「本当に怒ってないの?」
その話には触れて欲しくないようであったがめぐちゃんとしては曖昧にはしたくなかった。
「怒っていたら、追い返している」
「じゃぁ、怒ってないんだ。良かった」
「それで何を作る?」
しつこいぐらいに粘土の事を聞いてきた。
「それじゃぁね」
自分について今はどう思っているのかちょっと気になったが聞かない方がいいと思えたから聞かなかった。今は嫌われてないというだけでめぐちゃんにとっては十分すぎたからだ。それからままごとをして、一緒に帰った。
「また明日な」
「うん。バイバイ」
自宅に帰ってからママに笑顔を見せて報告すると何だかホッとした顔をしていた。

それから暫くいつものような日々が続く。積極的に渡君と遊ぶわけではなく、彼を見掛けた時、特に予定もなければ遊ぶというほどである。幼稚園で相変わらず部屋の中で1人、粘土をこねている渡君に大声をかけて驚かせてみた。
「わ!」
ビクッ!
「ハハハハハ!」
「何だ。お前か・・・」
「あれ?まだそれを作っているんだ」
いつもなら1日ぐらいで物を完成させて次の日には壊している全く別のものだが今作っているのは顔である。虫や動物、乗り物を作るばかりなのに人の顔というのも珍しかった。作り慣れてないから時間がかかっているのだろうと思った。
「上手く行かない・・・」
「お、お前、顔が汚れてるぞ」
「え?」
さっき外の砂場で泥団子を作っていたのだ。手は洗ったがその泥が顔にはねているのかもしれなかった。渡君は持っていたハンカチを広げた。
「拭いてやる」
「別にいいよ」
「すぐに終わる」
少しだけならいいかと渡君に拭いてもらった。渡君は粘土を触った後、幼稚園にいるのなら手を洗ってハンカチを使って手を拭く習慣があったのでハンカチは常時数枚持っていた。
「あれ?」
泥が付いているところをサッとふき取って終わりかと思ったのだが顔全体を拭いているようであった。
「そんなに汚れてる?」
「うん」
時折、ハンカチがない所から覗く渡君の顔は真剣そのものであった。
「終わったぞ」
「ありがと」
「めぐちゃ~ん。こっちに来て遊びなよ~」
「うん。分かった。待って~」
友達が呼んでいたからそっちに戻っていった。遠めで見る渡君の顔。何故、毎日毎日、飽きもせず粘土をこねていられるものだとある意味尊敬に値するものであった。

それから少し経って冬休み前日の事であった。幼稚園で渡君が話しかけてきた。
「おう。きょ、今日、駐車場来るか?」
「え?」
そのように聞いてくるのは初めてのことであった。たまたま気が付いた時、駐車場を覗いてみるだけだったのでちょっと驚いていた。少し、間を空けて答えた。
「今日は遊ぶ約束してないから行けるよ」
「よし。来いよ。必ず来いよ」
念を押してきた。よほど来て欲しいのだろうが何故来て欲しいのかは分からなかった。やはり好きだと言った事を意識しての行動なのだろうか?そう考えると思わず赤面してしまった。幼稚園が終わってから早速、駐車場に行ってみた。すると渡君は粘土をこねている事もなく立ってこちらを見ていた。こちらに声をかけてきた事もあり、何かある事は確実だろう。

「渡君。来たよ~」
ビクッ!
脅かすつもりはなかったのに渡君は大きく震えてから振り返ってきた。
「来たか・・・何か、作ってもらいたいものはあるか?」
「え?何でも?じゃぁ、次は動物園が楽しそうかな?象さんとかキリンさんとか・・・」
「うん。動物園か・・・見ただけなんだよな・・・そんなに作って欲しいか?」
「うん!」
象やライオンやサイなどを一生懸命作るがいつものようなリアルさはなかった。渡君は今、言ったように触ったことがあるものでないと上手には作れないようだ。それでも、そこいらの幼稚園の子よりは遥かに上手い出来であった。
「うう~ん」
本人も納得していないようであった。
「凄いよ。渡君。めぐちゃん、こんな上手に作れないもん。やっぱり粘土を作る事は渡君が一番だね」
「そ、そうか?」
そう言って、他にもキリンや熊、猿など器用に作っていく。まだ冬至の辺りである。暗くなるのはかなり早かった。
「あ・・・あの・・・あの・・・」
急に緊張しだしたので何を言い出すのか気になった。
「なぁに?」
「あ、明日も来られるか?ちょっとだけでいいんだ」
「うん。いいよ。普通の事だから硬くならなくっていいんだよ」
特に予定もないのでそのように言うと渡君は微笑んでいた。次の日も似たようなものだ。何を作って欲しいかめぐちゃんにリクエストして、それを作るというのが何度かあった。その次の日も来られるか聞いてきたので答えたのでOKを出した。

「こんにちは。渡君」
「お、お、おう」
今日は水筒のほかに自由帳を持ってきていた。
「いつも私が行った物を作ってもらってばかりだから今日は渡君が言った物をめぐちゃんが描いてあげるよ」
「いいよ。そんなの」
「めぐちゃんの下手だから見たくない?」
「違う。違う。違う。でも・・・じゃぁ、お前が書きたいの」
「私が描きたいのじゃなくて渡君が描いて欲しいの!」
「じゃ、じゃぁ・・・ううう~ん」
目を瞑りじっくり考えている。パッと思いついたものを言ってくれると描きやすいのだがこのように考えられるとかなりのプレッシャーを受ける。
「動物がいい?お花がいい?」
「うう~ん・・・また今度言う」
「えぇ?」
いつもリクエストしたもので作れないものは後日と言う事だったのでそれと同じようなものだったのかもしれない。ただ、そんな考えたものを描けと言われてもめぐちゃんには困るのだが・・・
その日も暗くなって来て分かれた。明日も来られるかと聞いてうんと答えた。次の日は年末と言う事もあって大掃除を手伝わされた。と言ってもちょっと物を片付けるぐらいの事しかやらせてもらえなかったが・・・

その日は時間が無く顔を出すぐらいで終わった。お正月の準備等で慌しく時間も過ぎ、その日は12月30日である。昼過ぎまでに来いと前日に次官まで指定されていたので11時半ぐらいに駐車場に行った。するとその日は粘土をこねておらず、立ってウロウロしていた。
「渡君。来たよ~」
「おう!お前にコレやる」
そう言って出したのは、工具板に乗った粘土であった。そこには大きな顔があった。
「これって・・・これ全部?」
「うん」
「でも、この粘土って渡君がずっと使っていたものでしょ?いいの?」
「新しく粘土を買ってもらえるから古いのはいらないからやる」
「それで、コレ誰~?」
「お前」
「めぐちゃん?」
似ていると言うかかなりリアルに作り過ぎている為、少し不気味な気がした。しかも色は単色である。年相応の出来かせめてアニメのキャラみたいに目が大きいとかデフォルメしていると嬉しかったが渡君はいつものように作ってしまったようだ。
「ありがとう・・・」
「それじゃな」
「え?もう終わり?そうだ!昨日言ってたでしょ?めぐちゃんに何を描くかって・・・粘土でめぐちゃんを作ってくれたのなら渡君の絵を描いてあげようか?」
「俺はすぐに粘土を買いに行くから」
「ねぇ!」
「うん!じゃ、また今度な」
「バイバイ」
粘土の工具板を両手で持っている為に手を振る事が出来なかった。渡君と分かれて一人になってしまっためぐちゃん。それにしても道具板と粘土と粘土箱の3つを渡されたのだが持って帰るのが面倒であった。何故、粘土箱に入るサイズに作ってくれなかったのだろうか?このままでいる訳にもいかず家に帰る。
「家に帰ったらどうしよう。ここで壊して箱に入れちゃおうかな?わ!」
色々考えながら歩いていると両手で持っている為、足元が見えない。それが不幸を生んでしまった。足元にあった空き缶に気が付かなかった。思いっきり転倒してしまった。
「うわぁぁああぁぁぁ!」
例の如く大泣きする。と言ってもそこは土であったので痛みはそれほどでもない。ただ、転んでしまって反射的に泣いてしまっているに過ぎない。たまに近くの大人がどうしたのと声をかけてくれるのだが、今日はチラッと数人の大人がこちらを見たがそれだけで向こうに行ってしまった。ひとしきり泣いた後、あまり痛くない事に気付いて立ち上がった。
「あ!」
持っていた粘土をどこかに放り投げてしまった。と言ってもほんの1mぐらい先に落ちていたからすぐに見つかった。粘土板の下敷きになってしまった。すぐにひっくり返すと顔はつぶれて大きな石が粘土にめり込んでいた。それを取り除くともうめぐちゃんどころか人の顔ではなくなってしまっていた。
「ああ~。渡君くれたのに・・・謝ったら許してくれるかなぁ?」
粘土は壊れてもまた直せば良いと何度も言っていたので渡君は直してくれるだろうと思っていた。しかしその願いは叶う事はなかった。

こねこねっこねこ SP (3)

2009-05-27 21:04:59 | 
り、友達と友達の母親達と一緒にファミレスでご飯を食べ、皆と別れ家に歩いていると渡君がいた駐車場を見つけた。夏休みが終わったのだから、もう駐車場にはいないだろうと思いながら駐車場を覗いてみるとそこにはやはり渡君はいた。
「あ、いたんだ」
「・・・」
「めぐちゃん・・・え?こんな所にお友達がいるの?」
「そうだよ。渡君って言うんだよ」
「・・・」
チラッとめぐちゃんの母親と目を合わせるが何も言わずすぐに目を離し粘土をこねていた。
「へぇ~。あなたが渡君ね。めぐちゃんから聞いているよ。粘土を作るのが上手な子ってね」
「・・・」
『人見知りが激しい子なのかな?あんまり一緒にいると話さないみたいだし』
「それじゃ、うちに近いからママ、先に帰っているね。夕方までに帰って来なさいね」
「は~い」
めぐちゃんは返事して、母親は帰った。
『それにしてもめぐちゃんと一緒ねぇ・・・こういう子に惹かれるのかな?』
母親は自分の幼かった時期を少し思い返してみたが彼のようなタイプは思い出せなかった。
「今日は何を作っているの?」
「くも」
「ええ~?くも?でも、足とかないみたいだけど・・・」
「空の・・・」
「ああ!蜘蛛じゃなくて雲ね」
しかし自由な形で浮かんでいる雲など普通作るだろうか?やはり何か感性が違うようである。
「何を作る?」
「ケーキは前作ってもらったからお花かな?」
そう言うと、渡君は滑らかな手つきで花を作っていく。そこにはひまわりが出来ていた。
「わぁ!凄い!凄い!他にも作れる?」
「うん。ちょっと」
「じゃあ、あさがおは?」
「あさがお・・・作れる」
そう言って、作ってみたものの、やはり形に特徴がある花でないと単色の粘土である花はイマイチそのものかどうか分かりにくいがそれでもあさがおだと分かった。
「お花屋さん出来るね」
「?」
「お花屋さん。チューリップくださいな」
「お、おう」
「店員さん『おう』なんていわないよ。『分かりました。少々、お待ち下さい』だよ」
「わ、わかり・・・ま・・・」
「フフッ。『分かりました。少々、お待ち下さい』」
「わ、わ、わか、分かりました」
慣れない口調に戸惑う渡君。普段見せない姿なのでなかなか面白かった。そんな事を言っていると夕方のチャイムが鳴った。
「あ・・・もう5時半だ~。それじゃ、私帰るね。渡君はいつ帰るの?」
「うん」
「じゃ、一緒に帰ろ」
「うん」
渡君が粘土を粘土箱に入れたのを見るとめぐちゃんは手を伸ばした。渡君はその手を無視するかのように歩き始めていた。気が付かなかったのだろうか?その事を口に出すのは渡君に悪い気がしたし、自分から手をつなぐなんて事を言うのも変だと思ったので黙っていた。
「次は何を作る?」
渡君が聞いてきた。粘土に関しては積極的になるようだ。
「ご飯かな?そうすればおままごとが出来るから~」
「ご飯。分かった」
それからめぐちゃんのうちに着いた。
「それじゃ、渡君。また明日」
「うん」
二人は手を振って、分かれた。

次の日に幼稚園で遊ぶ。渡君におはようというぐらいは声をかけたがやはり運動をする事はなかった。外で鬼ごっこなどで走り回る事もめぐちゃんは好きであった。それで転んで大泣きする事はしばしばであった。
先生は粘土遊びをしようと言った。渡君にとっては絶好のタイミングだろうと思った。
「秋は芸術の秋って言いますから今日は、お粘土で好きなものを作りましょうね~」
「は~い」
「ええ~」
べたつく粘土を触る事に抵抗を覚える子達も少なからずいる。汚れる事はよくない事だとか悪い事だと親から徹底されているのだろう。逆に汚す事が大好きな子もいる。
「出来たぁ!先生見て!」
「上手ね~。このキリンさん」
「ええ?これ象だよ」
「え?ああ・・・確かに象だね。この長いのってお鼻なのね」
幼児が作る絵などの創作物というのは、カッ飛んでいる事が多い。まだ子供であるから物を正確に捉えきれないその上、表現すると言う事に不慣れだから他の者が見たら理解不能なものになる可能性が結構高いものだ。
「出来た!カブトムシ!」
クラスで一番元気な子である輝星(きせい)君が高々と言うと、みんなが近くに寄ってきた。角をつけて背中の羽などを書いただけであったが、カブトムシに確かに見える。
「おお~。似ている。似ている~」
「どうだ?どうだぁ?うんうん!」
他の子も自分よりも上手い輝星君の粘土に感心していた。それを見て優越感に浸り、満足げであった。
「凄い。凄い。凄いよ」
「色を塗ったら本物だよ」
「でも、私はあんまり・・・」
「うんうん。何か気持ち悪くない?」
その後、輝星君の近くにいたクラスの子達がどんどん一つの場所に集まってきた。色んな意見が飛び交っている。
「何だ?」
輝星君は何があったのだろうと人だかりの中を覗き込んだ。するとそこにあったのはクワガタであり、しかも足の節や小さな目などしっかり作られたクワガタがいたのだ。爪のように鋭い足やお腹の方も作られており、見ようによってはリアルすぎて気持ち悪いと思えるほどの出来であった。その為、女の子からは不評であった。ただ、それでも、その粘土の上手さに関しては誰もが認めていた。
「・・・」
このクワガタを前にしたら自分のカブトムシなんかイタズラか何かという気がした。
「輝星君も作っていたよね?」
「お、俺のはクワガタじゃないよ!カブトムシだよ!」
しかし、クワガタとカブトムシは頭部だけの違いと思っている子が大半だろう。だから、比較する事も出来なくはない。チラチラと見比べるとその差は更に歴然としてくる。立場がなくなってきた輝星君はこういった。
「こ、コイツは変な道具を使っているから俺より上手いんだ!そうに決まっている!」
輝星君が言うとおり渡君は粘土用の道具を使っていた。だから輝星君はそれを取り上げて自分で使おうとしていた。へらを使ったり、糸を使ったり、細い棒を使ったりそこにある様々な道具を使うものの、すぐに使いこなせるわけがなかった。
「俺はコレを使うのが初めてだから下手なのは仕方ないだろ!」
「おお~。凄い。凄い」
輝星君が道具を使うのに悪戦苦闘しているときに渡君は素手で粘土をこねて蟻を作っていた。道具などなくても粘土を伸ばしたり、薄く広げたり、ねじったり、爪で跡をつけたり、道具を使わなくても出来る事は山ほどある。
「・・・」
みんなチラッと輝星君の粘土を一瞥するが特に何も言わず、振り返り渡君が作る粘土を見ていた。ストレートにそれを言うものであるが、そう言う事さえ憚るほどの違いだったのだろう。今まで無口で地味で人から仲間はずれにされるような存在であった渡君が粘土で一躍、クラスで注目されている。
今まで、活発でクラスで一番の人気者だと思っていた輝星君にとってはそんな渡君が自分よりも優れているところを見るのは耐え難い屈辱であった。全てにおいて渡君よりも上回っていなければ気がすまない。幼い子供が十人以上集まれば1人ぐらい抱く発想かもしれない。
「何だよ!何だよ!こんなのぉぉ!」
グシャッ!
何と輝星君はクラスの子達を掻き分けて、渡君の粘土を潰した。不愉快なものを目にする事がなくなったという事で一瞬、味わう優越感。
だが、その直後に周囲からあふれ出る冷たい非難の視線が輝星君に降り注ぐ。
「あ~あ~」
「ひど~い」
「どうしたの?みんな」
教室内を見回っていた先生が声を聞いて近付いてきた。輝星君は声を出した子達に対してにらみを利かせていた。
「何だよ。何だよ!文句があるならかかってこいよ!」
それに対して誰も輝星君に目を合わせるものはいなかった。輝星君は他の子供達より一回り大きく今まで幼稚園で何度か起こった喧嘩で輝星君は負けたことを誰も見たことがないので幼稚園で一番強いのではないかと話が幼稚園で出回っていた。
「ふん」
「あのね・・・先生」
逆らうものがいなくなって満足げな輝星君。他の子達が状況を説明した。先生がここまでの経緯を知って何もしないわけはなかった。
「輝星君。ちょっとさ。渡君が作ったものを壊しちゃダメだよ。一生懸命作ったんだから・・・輝星君だって自分が作ったものを壊された悲しいでしょ?」
「うるさいな!俺は粘土なんて嫌いなんだよ!」
「あ!待って!輝星君、話は途中だよ!」
輝星君は、飛び出して行って先生も輝星君を追いかけて外に出て行った。残された園児達は粘土も壊されてしまって、話題になるようなものもなくなり、自分の席に戻っていく。渡君とは距離を置いている子達ばかりだったので特に励ますような子もいなかった。

「壊されちゃったね。ひどいよね」
めぐちゃんだけは渡君を励ましていた。粘土を壊された渡君は驚く事もなく、悲しむ事もなく、再び粘土をこね始めた。
「大丈夫?」
「別に」
「本当に?」
「うん。粘土はすぐにまた作れる」
めぐちゃん自身は気にしていたが本人は至ってケロッとしていた。やはり毎日粘土に触れていると感覚が違うのかもしれない。限られた粘土の量では気に入った作品が出来ても壊さなければ次の作品は生まれない。だから、渡君は慣れっこなのだろう。
その後、輝星君は先生に連れられて渡君に頭を下げているのを遠くで見た。と言っても本人は納得していないようで渡君に目を合わせる事をしていなかった。渡君自身も気にしていないようであった。

友達のうちの帰りには大体、駐車場を覗いてみると渡君がいて10分ぐらいお店屋さんごっこをする。既に夕方である為、あまり長く遊んでいるわけにはいかなかった。渡君にお店の店員になってもらって、品物を粘土で作ってもらう。そんなにこだわらなくても良いとめぐちゃんは言ったが渡君はかなりの凝り性のようで中途半端が許せないらしく、イメージがぼんやりとしたものを作らなかった。けれども、そういう場合は近いうちに作れるようにすると約束してそれを必ず果たした。10分遊ぶと、二人一緒に帰った。
「バイバイ。それじゃ、また明日ね」
「うん。また明日な」
そんな日が続いた。秋はどんどん深まり、それにつれて日の時間も短くなっていった。気温もグッと下がった。子供は風の子と言って半袖半ズボンの子は幼稚園でも少しいたが、渡君は寒がりなのか逆にこの時期、不自然なぐらいジャンパーを羽織り、ニット帽をかぶって完全防備していた。それでも手袋だけはしなかった。
「手、冷たくないの?」
「粘土こねていると温かくなる」
「本当?」
渡君が本当に暖かいのか手に触れようとすると渡君は瞬間的に、手を引っ込めた。普段はおっとりしているのにその反射的とも言える素早い動作にちょっと悲しくなってくる。
「本当だよ。嘘はつかない」
「ふぅん」
何故か、手を触らせてくれなかった。帰りに手をつなごうとすると手を引っ込めた。何故、手を引っ込めるのかと聞くと「粘土で汚れるぞ」とか「手を洗ってないからばい菌だらけだぞ」などと言われて、手をつなぐ事はなかった。夏に水筒を渡そうとした時の事を根に持っているのかもしれないとめぐちゃんは思っていた。

それから数日後、女の子友達とバドミントンしようという事になって公園に行くと渡君がいた。粘土をこねているわけではなく、ブランコや滑り台を見ていた。近くに近寄ってみた。
「何してるの?」
「見ているの」
そう言いながら滑り台を触っていた。恐らくじっくり観察して粘土で公園の遊具を作るのだろうと思った。
「一緒に遊ぼうよ」
「やだ」
「体を動かして遊ぶのって楽しいよ。ねぇ!」
「うう~ん」
めぐちゃんの強引さに押し切られる形となった。一緒に遊ぶと言う事で他の女の子達は表情が曇った。周囲の女にとって渡君はいつも教室の隅で粘土をこねていて何を考えているのか分からない一人ぼっちの暗い男の子という印象しかないからだろう。
「めぐちゃん。一緒に遊ぶのぉ?」
「人数は多い方が楽しいよ」
めぐちゃん達は3人で、ラケットも4本あったので渡君を入れると丁度良い。そういう理由もあって渡君を断るのは悪い気がした。
「渡君、バドミントンやった事、ある?」
めぐちゃん以外の子が渡君に話しかけている所は見たことがなかった。
「ない」
ラケットを握り、クルクルと回転させたりガットに触れてみたりしてラケットが一体何かを確認していた。
「羽根をラケットで打って下に落とさないゲームだよ」
「ふ~ん」
「ちょっとやってみようか?」
軽く、シャトルを投げてみて渡君はラケットを振るうが遅すぎて当たらなかった。
「ハハハハハ!」
その空振り具合があまりにも滑稽に見えたので3人とも笑った。これぐらいの年頃の運動の経験がない子供達にはバドミントンや野球のバッティング等の飛んでいる物に道具を当てるという事は結構難しい。
第一にまずボールを良く見ていない。近付いてきたら振るという事しか考えてないからバットやラケットが当たらないのだ。
第二に手に持っているものがどのような動きをしているかを見ていない。だからボールを見ていても飛んでくるものが当たらないのだ。
例えば、道具ですらなく自分の足を使うサッカーでさえ空振りする事があるのは自分の体の動きも把握していないからだろう。
第三に道具に振り回されるケースだ。子供用がないものがあるのもあるが、背伸びして大人用などを使ってみたはいいものの持て余してしまって上手く使いこなせない場合は多い。
飛んでくるものを良く見て、自分の打つ動きを考え、自分に合った道具を使う事でようやく、その飛んでくるものを打ち返せるのである。
「うう~・・・」
そんな事、幼稚園児が意識しているわけもないからただ、投げてみてただラケットを振るという事が続く。何度かやってみるが3回中1回ぐらいしか返せなかった。これではゲームとして成立しない。最初は笑ってみていた女の子達であったがこんな調子が続いては笑みも消えてくる。しかも上達している様子も殆ど見られなかった。
「これじゃ、ダブルス出来ないね」
「どうしよっか?」
「そうだ!渡君はめぐちゃんと練習しよう」
「・・・」
シャトルも2つあったので2つに分かれて遊ぶ事にした。めぐちゃんのナイスフォローと言ったところであった。だが、幼い渡君と言えど自分がどのような扱いを受けているかは分かる。面白く無さそうな顔をしていた。
「つまんない」
「え?」
小さい声で言ったから思わず聞き返した。
「つまんない」
「もうちょっと続けようよ」
「つまんない。このバトミンドンって奴」
トとドが逆であったがそんな事はこの際どうでもいい。
「・・・めぐちゃんも最初は渡君と同じだったんだよ」
「?」
「でも、練習して羽根が当たるようになったらとってもバドミントン、楽しくなってきたんだよ」
「・・・」
「もうちょっとやってみようよ。きっと渡君も楽しくなってくると思うよ」
「うん」
ここで嫌だと言ってはめぐちゃんに出来て自分には出来ないと認めることになる。そんな簡単に諦めると言うのは出来なかった。体は小さくても渡君は男である。だが、プライドだけで上達はする訳はない。続けてみるがあまり当たらない。でも決して当たらないわけではないので当たるたびにその調子と言って励まし、感覚を忘れないように繰り返した。といっても、殆どがまぐれ当たりだろうが・・・
今日はダブルスをやるのは無理だろうなと友達が思い始めた時であった。
「よぉ~。お?バドミントンやってんだ。俺らにもやらせて。やらせて。あ・・・」
「あ、輝星君」
輝星君たち、2人がやってきた。渡君の事に気が付いてあからさまに嫌な顔をした。
「いいよ」
友達も快く輝星君を受け入れた。
「じゃぁ、ラケットが足りない。おぅ。お前のラケットを貸してくれよ」
輝星君は当たり前のように渡君の所に言って聞いた。
「ええ?渡君は今、練習しているんだよ。私のを貸してあげるよ」
「めぐちゃんのを借りたって後1本足りないぞ。ソイツのもう1本が欲しいんだよ」
輝星君には作戦があったのだ。もしここで渡すのを断ってもそれなら、対決をして決めようと思っていたのだ。粘土ばかり触って、体を動かす事が不得意な渡君は勝てないだろうと思ったのだろう。その上、粘土の時に被った敗北感を植えつけられる。一石二鳥という所だ。
「だったら順番で使おう。そうしたら」
「いいよ。コレいらない」
渡君はラケットを差し出すようにした。その時、めぐちゃんがとめようとしていた。
「ダメだよ。渡君。たまには粘土とは別のことをして遊ぼうよ」
「俺、粘土で遊ぶからいい」
「だから、それじゃいつもと変わらないよ。今日は」
輝星君は奪い取るようにラケットを取った。
「やったぁ!それじゃ遊ぼうぜ!お前は大好きな粘土で遊んでな。ようし!バドミントンやろうぜ!」
渡君は特に悔しそうにはしていなくてスッキリとした顔をしていた。その点は輝星君にとっては当てが外れたといった感じであった。4人はダブルスを始めていた。積極的に動く子達なので先ほどの渡君とは違ってゲームとしてちゃんと成立していた。
「渡君。どうして?」
「お前、あっちで遊べ。そっちの方が楽しいんだろ?」
「でも・・・」
「俺は一人でいい」
「じゃぁ、私も一緒に遊ぶ」
「いいって」
「私も一緒に遊ぶ!」
「いいって」
「遊ぶったら遊ぶの~!」
それからいい合いをしているとバドミントンを始めていた輝星君がバドミントンをやめてこっちにやってきた。
「どうしたんだよ?」
「渡君が一緒に遊ぼうって言ったらバドミントンやれって言うの」
「そう言ってるならめぐちゃんもあっちでバドミントンやろうぜ。こいつは粘土の方が楽しいんだろ?」
「そうしたら渡君1人になっちゃうよ」
「そいつは1人で粘土をやっているからいいんだろ?だったらいいじゃん」
輝星君は少し目を細めてまずめぐちゃんを見て、それから渡君を見る。
「せっかく一緒なんだから別の事をして分かれるなんて変だよ」
「ふ~ん。でも、何でそんなに渡の事を気にするんだ?」
「だって友達だからだよ」
「もしかしてお前、渡の事好きなんじゃないの?」
「な、何を言ってるの?私は渡君に一人で粘土をやっているよりもみんなで一緒に遊んだ方が楽しいよって・・・」
みるみるうちにめぐちゃんの顔が赤くなってくる。そんな事は意識した事もなかった。しかし初めてそんな事を言われたものだから急に恥ずかしさやら照れなどで火照ってくるのが自分でも分かった。
「ダブルスやっているんだから早く戻ってよ。輝星君~」
「どうしたんだぁ?」
みんなが何か面白そうとでも思ったのが全員バドミントンをやめてこちらに集まってきていた。それが更に、めぐちゃんの照れに拍車をかける。
「めぐちゃんはそいつの事好きなんじゃないかってさ」
「だから~」
「じゃぁ、お前の方はどうなんだよ。めぐちゃんをどう思っているんだ?当然、好きだよな~。そういえば一緒にいる事多いもんな。そう考えるとやっぱり・・・」
男の子特有の心理を突いてくる。好きな子について聞かれると他人に知られたくないから否定する。その否定する事がその好きな子に対して酷い行動をしてしまうというケースである。輝星君はそこまで考えていないだろうが何か面白い事になるに違いないと思っていた。
「うん」
「あ?今、何て言った?」
「うんって言った」
「な、何が『うん』なんだよ」
言われた輝星君の方が動揺してしまった。一体、コイツは何を言っているのか。こっちはからかうつもりで言っているのに何故すんなり認めているのか。信じられなかった。
「好きだ」
「ふ、ふざけているんだろ?お、お、お前!俺はちゃんと聞いているんだぞ」
何度も確認しようと思うほど驚くべき事態であった。他の3人は絶句しているような状態が続いた。ただ、渡君の言い方は恋愛としての好きではなく、ハンバーグが好きか嫌いといった自分の好みを言っただけという聞こえなくもなかった。そんな小さな事よりも好きだといった事実の方が大きい。ゆっくりとめぐちゃんの方に視線を向けると・・・
「え?あ?あの?あぁ・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
めぐちゃんは突然泣き出して、走り出してしまった。
「あ!めぐちゃん!おい!」
めぐちゃんは公園からいなくなってしまった。その行動も良く分からずただ見送るしかない全員。
「お前、泣~かした!泣~かした!」
「お、お前が変な事言うからめぐちゃん泣いたんだぞ!」
男の子達が囃し立てる。
「全然、変な事じゃないよ」
「そうだよ」
女の子が意外にも渡君のフォローに回った。
「じゃぁどうして帰ったんだよ。アイツが言ったからめぐちゃん帰ったんじゃないか!嫌われていたんだよ!気持ち悪くなって逃げたんだよ」
「それはそうかもしれないけど・・・」
「全く、めぐちゃんも大変だよ。嫌いな奴から好かれてさ。だからもう一緒にいるのやめとけよな。めぐちゃん可哀想だから・・・」
めぐちゃんから逃げられた渡君は静かに目を落とし、粘土を粘土箱に入れて無言で立ち上がって歩き出した。
「何だよ。めぐちゃんのうちに謝りに行くのか?やめとけ!やめとけ!もっと嫌われるだけだぞ~ハハハハ!」
「うるさいから帰る」
渡君の家は途中までめぐちゃんのうちの方向であるからそのように言われるのは仕方ないのかもしれない。
「ハッハッハ~。それじゃバドミントンやるかぁ?」
「何か面白く無くなったから帰る。行こ。ユカちゃん」
「うん。行こ。ナミちゃん」
バドミントンをそそくさと仕舞って歩き出した。輝星君に冷たい視線を向けて
「お、おい。待てよ。何だよ。何で帰るんだよ。面白かったのに・・・」
「そうだよね~。アイツら何、変な顔していたんだよね~」
残された男の子2人はもうバドミントンはできないという事でブツブツと言いながら持ってきたリュックを開けて携帯ゲーム機を取り出してプレイし始めた。


こねこねっこねこ SP (2)

2009-05-26 20:46:55 | 
その日は珍しくめぐちゃんが友達を家に呼んだ。母親はちょっと不安であった。トコちゃんはめぐちゃん以外の子供と接した事はない。無理に可愛がろうとして嫌がったトコちゃんが引っかいて怪我をさせてしまうなんて事は十分に考えられる。それに複数の子供が集まるというのは何が起こるか予測しづらいものだ。
「お邪魔しま~す」
「お邪魔します」
「・・・」
3人の女の子が入ってきたが一番後ろの子は何も言わずに入って行った。親に人のうちへの入り方を聞いてないのかそれとも恥ずかしくて声が出なかったのだろうかそんな事を考えているとめぐちゃんがトコちゃんの場所を聞いてきた。
「私のベッドの上で寝ていた気がするけど・・・」
「うん。分かった」
奥の方で子供達の声がする。
「これがトコちゃんだよ」
「わー!小さいカワイイ!!」
「撫でていい?」
「いいよ。でも、あんまり強く撫でると嫌がるよ」
キャッキャとはしゃいでいた。幼い女の子達にとっては当たり前の反応だろう。そして、これも当然の反応のようにトコちゃんが母親の前を横切って行った。
「ママ!外出しちゃだめだよ!」
「え?でも、窓が開いているから~」
窓を開けていたのでトコちゃんはそこから飛び出していった。
「もう!どうして、窓を閉めといてくれなかったの?」
めぐちゃんは小さな頬をぷぅっと膨らませて怒っている。
「ここ、最近暑いからね」
こうなる事は大体予想できたから、わざと窓を開けておいた。閉じ込められて追いかけっこをさせるのも可哀想だと思ったからだった。
「な~んだ。外に行っちゃったんだ」
「ちょっと待ってて~捕まえてくるから~」
外に出て動いている猫を捕まえるのは結構、難しい。
「走ってばかりいると危ないよ!めぐちゃん!」
そして、猫ばかりに気を取られているから空き缶を踏んづけてしまって転倒してしまった。
「あああぁぁぁぁ!」
大泣きする。走り回って道路に出てしまってコレが車だったらと考えるとゾッとする話であるが多少コブを作ったぐらいで済んでよかった。
「めぐちゃん大丈夫?」
友達が心配してくれるのが嬉しかった。
「ちょっと頭を打ったぐらいだから大丈夫よ」
主役のトコちゃんがいなくなってしまったので家の中で人形遊びに興ずるしかないのだが、めぐちゃんはずっと膨れっ面のままだった。
友達を見送るとめぐちゃんは母親に噛み付いた。
「ママが窓をしめておけばこんな事にならなかったのにぃ!」
「悪かったね。ごめんね。めぐちゃん」
トコちゃんを捕まえようとする執着して頑張った所は誉めてあげたい所であった。
「その事は謝るけど、トコちゃんは見世物じゃないんだからみんなで集まったらびっくりしちゃうよ」
「動物園では動物を見るもん!だからトコちゃんだって同じだもん!」
めぐちゃんが始めて口答えをした。それに、間違ってはいない。
「トコちゃんは私達の家族でしょ?動物園にいる動物とは違うよ」
「家族だけど、動物だもん!猫だもん!」
「うん。でも、トコちゃんの気持ちも考えてあげよう?」
子供の理屈であるから、正論を言って分からせる事も出来るが、そこまで強硬に教え込む事もないだろう。
「ふんだ!トコちゃんなんて嫌いだもん!気持ちなんて分からなくたっていいもん!」
「そう。きっとトコちゃん悲しむと思うけどな~」
「知らないもん!」
こうなったら後はめぐちゃん次第だろう。

さてここからは、母親からではなくめぐちゃんの視点に話を移す。
トコちゃんの事を避けるようになってしまっためぐちゃんであるが、それはトコちゃんを飼う前に戻っただけという気になろうとしていた。次の日、幼稚園に行き、友達とトコちゃんの話になる。
「トコちゃん可愛かったね~」
「そうそう!こんなにちっちゃくてお目目は大きくて、しっぽがクルッとしてて~」
「めぐちゃん。今度はトコちゃん触らせてね」
今のめぐちゃんにとってトコちゃんの話は禁句であった。あからさまに不機嫌になった。
「トコちゃん。どこか行っちゃったよ」
「ええ~!!」
「あれから帰ってこないの」
「探さないと!」
「いいの。勝手に出て行ったんだから~」
「でも、あんなにちっちゃくて可愛いから誰かにもらわれちゃうかもよ」
「もういなくなったから知らない!」
昨日までは、可愛いから見に来てと自慢げに言っていたのに今日は一転してどうでもいいかのように言うめぐちゃん。友達もトコちゃんの話題を挙げるとめぐちゃんがいい顔をしないので次第に猫の話もしないようにしていった。

幼稚園で遊ぶ。外にある遊具で遊んだり、ままごとをしてみたり、室内でごっこ遊びをしてみたり、おもちゃで遊んでみたり幼い子供達には何もかも新鮮であるから時間を忘れて遊んでいた。暫く遊んでいれば大体、仲のいいグループが出来てくる。この時期は男女問わずして仲がいいものだ。時には喧嘩する事もあるが仲直りして、また遊ぶ。そうする事で子供達は育っていく。
「ねぇ。めぐちゃん」
「なぁに?先生」
教室で遊んでいると先生に呼ばれたので先生の所に近付いた。
「あのさ。渡(わたる)君と遊んであげてくれない?」
「ええ~」
あからさまに嫌そうな声を上げた。本人がすぐ近くにいるのにお構いなしである。こういう言われた相手がどう思うか考えない無配慮な言動は社会生活にまだ馴染んでいない子供達には仕方ないのかもしれない。
「・・・」
先生の言葉は聞いてないためか周囲の声には耳を傾けず、こちらを見ることもなく渡と呼ばれた彼は教室の隅の方で黙々と粘土をこねていた。
自分以外の人との交流は家族だけだったと言う事から急に幼稚園という子供が集まる場所に連れてこられてもどうしたらいいか分からず集団生活に馴染めず1人でずっといてしまう子供というのも生まれてしまうものである。そういう子は大抵自分も楽しく遊んでいる集団の輪に入りたいといじいじしているものだが、彼の場合は違った。他人を避けているようで入園してから何人かの子が彼と遊ぼうと誘ったのだが彼は何も答えることなく無視して粘土をこね続けていたという話だ。だから、他の子も次第に彼を避けるようになっていくのはごく自然な流れだろう。
だからこそ、めぐちゃんも非難めいた声を上げたのだろう。そんな彼は先生にとっても悩みの種で、幼児期というのは1人の人間の成長にとって非常に重大な時期であり、集団生活にもまれないといつまでも経っても社会に馴染めず世間からの爪弾き者になってしまう可能性が高い。そのため、多少強引であっても積極的に先生も彼に話しかけていたが彼は何も答えなかった。無視されていてもずっと構っていても良いのだがそうすると他の子達が先生は贔屓していると子供達が非難するだろうから、彼の立場は更に危うくなるだろう。やはり最良は、同世代の子達と遊ばせる事なのだ。
「じゃぁ、渡君、私、用があるから行くね」
「・・・」
「じゃ、めぐちゃん、お願いね。本当に彼と遊びたくないのなら見ているだけでもいいからそれじゃ・・・」
先生はそう言い残して教室から出て行った。彼は相変わらず粘土に集中しているようでこちらを見る素振りすらなかった。
「先生に言われちゃったけどどうするぅ?」
「いいよ。アイツは・・・何がしたいか分からないし」
「だって一緒に遊んでいたら何か私達まで暗くなっちゃうよ~」
「それに何をして遊ぶの?私は粘土なんかで遊びたくないよ。触った後、手がベトベトするんだもん」
めぐちゃんはみんなに聞いたが既に拒絶されているのは明らかであった。
「先生も見ているだけでいいって先生も言っていたじゃない」
「そうだね。一緒に遊んでも楽しくなさそうだもんね」
めぐちゃんも結構、キツイ事を言うものだ。彼は聞いているのかいないのか粘土をこね続けていた。暫くして先生が戻って来た時には見ただけですぐに状況を察したようで一瞬だけとても残念そうな顔をした。
「先生、私達ちゃんと渡君の事見ていたよ~」
「うん。ありがとうね」
いつものように優しく微笑みかけてくれた。そして、帰りの時間。珍しく母親は遅かった。バス通いの子がいれば歩きや自転車で迎えに来てくれる子もいる。めぐちゃんは後者で既に陽も暮れてきてどんどん友達も迎えが来て減っていき、遂に友達は誰もいなくなってしまった。他に数人まだ残っていたが、あまり仲のいい子ではない。声をかけてみて話があるようなら友達になろうかなとも思ったが残っていた子達の中に渡君もいた。
1日中こねている彼が気になったからちょっと声をかけてみることにした。
「何、作っているの?」
彼は色んなものを作っていたが一体何を作っているのかはわからなかった。手のひらに載るサイズで3つぐらいあって形は平べったいものや四角いものや丸いもの。まるで統一性がないし、動物ではないようであった。
「石」
無視せず話してきた。今、先生もおらず教室に二人しかいないからだろうか?
「え?何て言ったの?」
「石」
「石ぃ?」
「うん」
彼は粘土で石を作ろうとしていた。普通なら動物や乗り物や建物を作るものである。にもかかわらず地面に落ちている石を作ろうなどとは思わなかった。彼は明らかに他の子供とは発想が違っていた。だからこそ、輪に入れなかったのだろう。めぐちゃんは粘土の事を聞いても支離滅裂な答えが返ってくると思って質問を変えた。
「楽しい?」
「うん」
「明日は外でみんなと遊ぼうよ」
「やだ」
「どうして?」
「やだからやだ」
彼は何事にも片言しか言わないが嫌がっている様子を見て前に何かあったのだろう。仕方ないので別のことを聞いてみた。
「ふ~ん。じゃ、私にも粘土やらせて?」
「やだ」
「ええ?どうして?ケチ~」
断られると思わなかったが仕方ないので自分の道具箱からクレヨンを取ってきて彼の横で絵を描いていた。粘土は持っているもののあまり好きではない。手は汚れるし、色が同じだから面白みがないのだ。それだったらクレヨンで絵を描いていたほうが楽しい。少し経つと赤いチューリップが出来た。
「出来た!チューリップ!ねぇ。お絵かきはしないの?お絵かきの方が楽しくない?」
「つまんない」
「ええ~。じゃぁ良いですよ~だ。折角、誘ったのに」
横でチューリップをいくつも描いてお花畑という所だ。大小、色が違うチューリップを描いてちょうちょも描く。とても賑やかな絵になってきた。
「ほらほら~。絵ならこんなにいっぱい。何、これ?」
彼は何も答えなかったが彼はさっきのものとは違う何かを作ってみた。なにやらワイングラスのように見えたが下の方にちょっと出っ張っている。角度を変えて横から見ると分かった。
「あ!コレ、チューリップだ!凄い凄い!」
粘土が絵と違うのは物を立体的に創作出来ると言う事だ。勿論、絵で立体的に描く事は可能であるが幼稚園ぐらいの子にそれを求めるのは少々、難しいだろう。めぐちゃんは粘土をこねていても絵のように平べったく二次元的にしか作れなかった。一色で手も汚れる。そう言う事もあってめぐちゃんは粘土はあまり好きではないのかもしれない。だから彼のように粘土で三次元的に作れるのはうらやましかった。
「・・・」
彼は何も答えず無表情でまた何か作っているがほんの少し、頬が赤いような気がした。
「先生!渡君の粘土がすごいよ!」
外で子供達が遊んで放置したおもちゃを片付けたり掃除をしていたり先生を呼び出した。
「何が凄いの?」
「渡君が凄いのを作ったんだよ」
先生の手を引っ張ってくるとめぐちゃんは止まった。
「あれ?さっきの粘土はどうしたの?」
「壊した」
「どうして?」
「他のを作るからもう壊した」
先生を呼ぶ声は教室からでも聞こえたはずである。なのに、粘土を壊していたと言う。空気が読めないというか自己流が強すぎると言うか・・・
「先生!さっき渡君、粘土でチューリップを作ったんだよ!とっても上手でね~。でも、今はないけど・・・本当に上手だったんだよ!本当に!」
何故、自分が彼の弁解をしなければならないのかイライラしてきた。先生はにこやかに一生懸命話しかけてくるめぐちゃんを見て、頷いていた。
「めぐちゃん。遅れてごめーん!」
ママがようやく迎えに来た。
「ママ、遅いよ~」
「ちょっと買い物に行ったらバッタリ友達に会っちゃったもんだから・・・じゃぁ、帰ろう」
「うん。じゃぁね。渡君。また明日」
その時、彼は振り返ってこちらを一瞥したが特に何も言わず、粘土をこねていた。

「あれが渡君?」
「うん」
「粘土が友達って言われている子ね」
「知っているの?」
「うん。他の子のママもあの子は粘土をこねているところしか見たことがなくて彼のお母さんが来るのも遅いって話で、今日も私より来るのが遅いみたいだし・・・色々、話題に上がる子ね。何を考えているのか分からないって」
「ふ~ん」
主婦達にとって変わった子や親は格好の話題になる。ただの話の種にでもしていればいいものだがそれを変に憶測など立てるから噂が噂を呼び、証拠も無いのに相手を貶める事になる。それを子供が聞いていたら最悪、いじめにつながるケースもあるというのに殆ど木にしてないようだ。

さて、それから暫く渡君を意識しない日々が続く。彼は相変わらず粘土をこねていて、めぐちゃんの方は仲が良い友達と遊び、遊ぼうと誘うといった事はしなかった。彼もそこにいても殆ど存在感がないというのも忘れさせる一因となっていた。
夏休みに入り、ある暑い日、友達のうちに行くと暑さで調子が悪いと言う事で遊ぶ事を断られて帰り道であった。母親に夏の太陽は怖いと強く言われ、麦藁帽子と水筒を持って行動している。水筒の中には氷が入って頭が痛くなるぐらいに冷たい麦茶が入っている。
「・・・」
水風呂で遊ぼうと言う事で水着も持ってきたがただ邪魔になっていた。
周囲に目をやるとコンクリートで固められた駐車場内の奥で誰か動いているように見えた。
気になってみてみると薄暗い駐車場内で子供が粘土をこねているようであった。駐車場に入ると少しひんやりする。
「あ、渡君だ」
「ん?」
「何してるの?」
「粘土をこねてる」
それは見れば分かる話である。めぐちゃんの質問の仕方が悪かったのがあるが、何故こんな所で粘土をこねているのか気になった。
「今日も粘土をこねているの?」
「うん」
「私はね~」
そう言って、今日起きた出来事やどうしてここに来たかを話し始めた。渡君は聞いているのかいないのか手を止めることなく粘土をこねていた。
「家に帰っても誰もいないから見ていていい?」
母親は買い物に行くと言っていたから1時間は帰ってこないだろう。友達のうちへの往復時間から考えて最低、後30分は帰ってこない。
「うん」
黙って粘土をこねるのを見ていたが1分も経たない内にめぐちゃんが話し始めた。
「いつもここに来ているの?」
「うん」
「たまにはどこか行かないの?」
「うん」
「本当に粘土好きなんだね」
「うん」
「ちょっと公園に行こうよ」
「うん。え?」
「今!うんって言った!公園にもベンチも水道もあるし、滑り台や砂場もあるよ。行こう!」
「う・・・うん」
渡君はずっと話しかけてくるめぐちゃんを鬱陶しそうしていたが、自分でうんと言ってしまった以上行くしかなかった。太陽は雲に隠れていたがすぐに雲から抜けて厳しい日差しがあたりに降り注ぐ。アスファルトは陽炎で歪み、丁度日陰になっている公園のベンチに座った。
「ふぅ・・・麦茶飲む?」
「うん」
蓋に麦茶を注ぎ渡君に手渡そうとした瞬間であった。
ペトッ・・・
「わっ!」
めぐちゃんは驚いて麦茶を注いだ水筒の蓋を手離してしまった。麦茶が周囲にぶちまけられた。渡君はキョトンとしていた。渡君の手が触れてしまった。それに驚いた訳ではない。その渡君の手は粘土を触っていた手であり、ヌルッとしたのだ。その感触が気持ち悪くて驚いたのだ。特にこの時期は汗をかきやすいというのも手を滑りやすくする要因だろう。
「あ、ごめんね」
「うん」
蓋を慌てて拾い、ちょっと付いた砂を汗拭きタオルで拭いて麦茶を注いだ。その間、じっと右手を見つめている渡君。次に手渡そうとすると今度は渡君の手は触れなかった。めぐちゃんが蓋の側面を持っているのに対し、渡君は飲み口と底の分で持ったからだ。
「つめたっ!」
「え?ハハハハハハハ!」
「・・・?何だよ。ふん」
普段、驚くような事はしない渡君が冷たさにびっくりした事が面白かった。渡君は笑われてちょっとすねているようであった。それもまた面白い。めぐちゃんも麦茶を飲み、これからどうするか考える。
「また粘土するの?たまには他の事してみない?えっとね・・・」
「お」
渡君は草むらの方に動いていってしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
「虫、虫」
そこにはバッタがいて、渡君が手を出すと勢い良く跳ねた。
「キャ!」
めぐちゃんは虫が大の苦手であった。蝶やてんとう虫などの見た目が可愛らしいものは好きなのであるが触覚が長いもの、緑系のもの、節が露骨に動くような虫は全てダメであった。特に急に物凄い速さで跳ぶなど予期せぬ動きをするバッタなどの生き物は特に嫌いである。
「あ・・・肩に止まった」
「取って!取って!わぁぁぁぁぁ!」
バッタがめぐちゃんの肩に止まって手で払いのけたくもないのでどうしたらいいかわからず泣き出してしまった。
「ホイ」
渡君はパッとめぐちゃんの肩に手をやってバッタを取った。
「取って!取って!取って!」
既に取ったというのに、めぐちゃんはまだ騒いでいた。
「おい。取った!」
「え?」
渡君が手を開くとバッタがいた。そのバッタは勢い良く飛び出していった。
「え?う、うぅ~。ありが・・・」
「あ!この木にいるのクワガタだ!」
ありがとうと言う前に、渡君は木の方を見ていた。かなり高い所にいたのだが、木を蹴っても落ちてこなかった。周囲に長い物はない。木を上ろうにも枝も伸びていない木なのでどうする事も出来なかった。
「うわぁ~気持ち悪い~」
めぐちゃんは男の子が挙ってカブトムシやクワガタを好きなのか理解に出来なかった。黒光りし、6本の足を動かすその姿は動きがゆっくりになっただけの大きいゴキブリではないかという認識をしていたからだ。
クワガタを暫く見ていて、それからまた草むらを見ている。
「他の事しようよ~。砂場遊びしよう」
滑り台などの遊具は夏の強烈な日差しに照らされ触ると火傷するほどなので遊びたくなかった。
「やだ」
「どうして?」
「砂は崩れやすいから・・・」
「今日は砂場で遊ぶの~」
強引に砂遊びを誘って遊んでいた。山を作ったり、お団子を作ったり、遊べる事は多い。まず、水を使ってサラサラの砂を固めようと思ったが今、バケツなどの水を運ぶ容器がない。砂場は水道の真横にある。蛇口を指で押さえて勢い良く水を出し、それを砂場に流し込む事にしたのだがそれが渡君にかかった。
「おおぅ!」
「はははは・・・ごめんね~」
今度は調節して砂場に水を流し込み、一緒に砂場で遊んだ。やはり崩れる砂に対して渡君は苛立っているようであった。それでも、真剣な顔をして砂で遊んでいた。やがて日は傾き、夕方になって来たので水道で手を洗って帰ることにした。
「それじゃ、渡君。バイバ~イ」
「お、おう・・・」

夏休みも終わりに差し掛かる頃、友達のうちにいく途中でにわか雨が降ってきた。
雨宿りしようと思ったときに、駐車場の事を思い出して、そこまで少し濡れながらもパタパタと走っていった。
「あ、今日もいたの。渡君。こんにちは」
相変わらず粘土をこねていた。同じ事ばかりで良くも飽きないねと言った事があり渡君はそのまま粘土をこね続けていた。
「おぅ」
渡君は、小さく挨拶する。雨は降っているが遠くの方は晴れているのですぐに止むだろうと思っていたのでその間、話でもしようと思った。
「今日は何を作っているの?」
「なめくじ」
前の『石』という変わったものではないが何故、なめくじをチョイスしたのかその渡君のセンスに少し引いていた。
「なめくじだったら殻を作ってでんでんむしにしたら?」
「殻?うん」
普通ならここで粘土を細長く伸ばし、それをロールケーキのようにまいて殻にしてしまうものだろうが渡君は殻を平べったくして棒などで削って殻を作っていた。ロールケーキ状の殻よりもより殻らしくなってきた。
「凄い似ているね~」
「・・・」
渡君は特に何とも言わないが、頬が少し赤らみ、目がキョロキョロと動き落ち着かない様子であった。
「そんなに似ているのなら虫以外にも作れない?」
「どんな?」
「そうだね~。ケーキとか・・・後はチューリップ以外にお花は作れる?そうしたらおままごとでも使えるから」
「う~ん・・・」
粘土に触ろうと両手を構えたがそのまま目を瞑ったまま動かなくなってしまった。
「な~んだ。出来ないんだ」
それだけ粘土が好きならアッという間に作ってしまうと思ったのに少しガッカリしてしまった。
「次。それ作る」
「本当?」
「うん!」
そんな約束をした頃には雨は上がった。それからさよならを言って分かれようとしたら途中まで一緒に行くと言い出した。それから近くの原っぱに差し掛かると渡君はそこで立ち止まった。小さな花を見つけたようだ。それを手に取ってじっくりと観察していた。




こねこねっこねこ SP (1)

2009-05-25 21:42:39 | 
この物語は「こねこねっこねこ」が始まる数ヶ月前のトコちゃんが家に来て粘土との出会いについてまとめられたものである。

「この猫ちゃん、可愛いね~」
小さな女の子がペットショップの猫のケージの前で母親に問いかけていた。
「そうだね」
「欲しい!欲しい!この猫ちゃん欲しい!」
値札には7万円と書かれていた。他の猫に比べれば比較的安い部類である。だが、即断して買えるような価格ではない。ましてや生き物である。今後どうなるか考えていた。
「めぐちゃん。今、お金ないの。だからまた今度ね」
「欲しいったら欲しい!」
「だから、今、お金ないの。また今度来た時にね」
「うう~ああぁぁぁぁ!」
お店の前で泣き出してしまった。母親はまるで動じていなかった。『またか』という程度の認識である。めぐちゃんはかなりの泣き虫だった。転んで泣くのは当たり前。叱られて泣く。お願いを聞き入れてもらえないと泣く。箸の持ち方など教えられた事が上手く行かないと泣く。美味しくないものを食べると泣く。泣き虫と言うよりは泣き癖がついているんじゃないかというぐらい良く泣く女の子であった。
ねだられて泣くのもいつもの調子だから、母親も慣れたもので、対処法も分かっている。
最初のうちはいくらあやしても聞き入れてくれないからほんの少しだけ放置し、それから1分ぐらい泣いていると泣く声音が若干、変化してくるのでその時を見計らって撫でると大抵、泣き止んでくれた。母親曰く、最初の1分ぐらいはそのことについて嫌だから泣いているだけ。その時に何かやってもダメ。特に何か物を欲しがっている時に近付いたり撫でたりしたら本人が買ってくれると勘違いするから絶対にあやしてはいけない。1分を超えて声音が変わった辺りからは『私がこんなに泣いているのに無視するの?』と、不安になってくるからこの時はすぐに駆け寄ってあげないと拗ねてしまうらしい。
その微妙な声音の変化は母親本人にしか分からず、父親は
「やはり母親は違うな。俺には全然分からん」
と、感心していた。
「でも、昔、自分がそうだったから分かるんじゃないか?」
などとも言っていた。そんな事はない。実に利口な子供だったと母親は言う。
「ああああ!!」
泣いているめぐちゃんを見て完全に放置していると周囲から眉をひそめられるから、一応申し訳なさそうな顔はしておく。
「欲しい!欲しい!猫ちゃん欲しい!
もう1分経ったのに、泣き方が変わらない。いつもと違うめぐちゃんの様子に母親も焦ってくる。
「どうしたの?めぐちゃん」
あまり長時間泣いているわが子を放置している訳にもいかないので近付いてしゃがんでめぐちゃんに話しかける。
「本当に今日はお金がないの。ね。今日は帰ろう」
「やだ!やだ!やだぁ!」
「そ。じゃぁそうやって泣いてなさい。ママ帰って今日買ったアイス食べるから~」
めぐちゃんの好物はアイスだった。勝手に食べてしまうと泣いて怒るほどだった。
「アイスいらないもん。だから・・・」
「アイス食べなくてもお金ないからあの猫は買えないの。今度、お金を持ってくるから」
「本当?」
「本当。本当」
「良かったね~。今度、会ったらうちに来られるよ」
ケージの中の猫はパッチリとした目をしばたかせていた。めぐちゃんはようやく納得して帰るときはずっとその猫を見て手を振っていた。
『当分、めぐちゃんと一緒ではこの店には来られないなぁ・・・お肉安いのに・・・』
このペットショップはデパートの一区画なので他にも食料品や衣料品、家具や電化製品等多くの種類があり、お客も多い。特に肉の週1回に特売日があるこの店にここに来られないのは経済的に少々痛くなるだろう。
『でも、1ヶ月もすれば売れているだろうし・・・めぐちゃんも忘れてくれるかな?』
子猫や子犬は入れ替わりが激しい。人間とは比べ物にならないぐらい成長がまるで違うからである。それに、飼い主になつくかどうかも生まれて早いほうがいい。だから、ほんの1ヶ月程度で同じ種類でもまるで違うほどだ。当然、価格も下がってくる。母親は事情を知っているわけではないが、大体そういうものだろうと想像した。

帰ってきてから買ってきたアイスを開けるととめぐちゃんは上の空といった様子であった。めぐちゃんのお気に入りは抹茶のカップアイスであった。前にスティックタイプを大事に食べていて、溶けてボトッと床に落としてしまい大泣きした事があって、それ以降あまり、食べたくないようだ。
「どうしたの?」
めぐちゃんはアイスを買ったときにもらった木のへらでアイスをつついていた。
「あの猫ちゃんどうしているかな~」
「きっと寝ているんじゃないかしらね?アイス食べないと溶けちゃうよ」
「うん。いらない」
「え?アイスいらないの?じゃぁ、ママ食べちゃうよ」
「うん。ママにあげる」
そう言って、アイスを差し出してきた。そういわれて安易に食べてしまうと、後で怒るかも知れないと蓋を閉めて冷凍庫に入れるのだが、こんな事初めてであった。
『そんなに猫が欲しいんだ。でも、一時的なものでしょ』
自宅は一軒家であり猫アレルギーとかペットを飼えない事情がある訳ではない。母親だって猫のような小さな動物は好きである。だが、結構な額を出してまで飼って、めぐちゃんがちゃんと面倒を見るのか不安だったのだ。
母親はそのままにしておけば良いと思っていたが思わぬ出来事が起きた。

5日後の土曜日、車で山にハイキングに行った。小さな山の頂上に神社があるのでそこにお参りをかねてであった。山から下山しての帰り道、めぐちゃんは疲れで眠ってしまった。山道は、めぐちゃんが歩けるほどだから大したことはなかったが、朝早起きしてお弁当を作ったのが祟って睡魔に襲われ、眠ってしまった。
「着いたよ」
「あ・・・寝ちゃった。ごめんごめん。あなたも疲れてるのに。あれ?ここはうちじゃない」
気がついて良く周辺を見ると見覚えのある駐車場であった。
「そうだよ。疲れているのに帰ってから料理を作るのも大変だろ?だから、夕食はここで食べようと思ってね」
「だからって何でここなの?他にお店は沢山あるでしょ?ここは!」
ハッと気付いて、その後は耳元で囁く。
「めぐちゃんが欲しいって言った猫がいるペットショップがあるんだよ。また駄々をこねるに決まっているじゃないの?その時言い聞かせられるの?」
父親は気を遣う事なく、普通のトーンで話した。何も悪い事など話していないと思っているのだろう。
「別にいいだろ。俺だってめぐちゃんが好きな猫がどんな奴なのか見てみたいんだからさ」
『ねだられたら絶対、折れる。この人』
その予感は見事に的中してしまうのだが、どうにか回避したいところであった。
「でも、今ならまだ間に合うよ。お店替えよう。他に美味しいお店が・・・」
「猫ちゃん!猫ちゃん!早く行こう!」
起きていためぐちゃんは車外に出て、両親を待っているような態勢であって、店を出るタイミングを逸していた。
「まず、ご飯を食べてからだよ。めぐちゃん。パパ、ずっと運転していからお腹ペコペコだよ」
デパート内のレストランは充実しており、和洋中など一通り揃っており、後はパスタの専門店とラーメン屋などがある、商品の店には寄らずご飯だけ食べに来るお客さんもいるぐらいである。
そこで洋風レストランでハンバーグを食べる事にしたのだが、めぐちゃんは猫が気になるようで料理が来るまで近くをウロウロして落ち着きがなかった。料理が来ると普段は食べるのが遅いめぐちゃんが一番最初に食べて、両親が食べ終えるのを急かした。
そうしてようやく、ご飯も食べ終えてペットショップに向かって歩き始めた。
「まぁだぁ~?パパもママも早くしてよ~」
「そんなに急ぐと転ぶよ。めぐちゃん」
短い足をパタパタと動かし、両親の周りを行ったり来たりを繰り返した。普段見せないはしゃぎぶりで思ったとおり転倒した。
「あらら~。だから言ったのに・・・めぐちゃん、大丈夫?」
「ううう~」
珍しく痛いのを我慢しているようであった。だが、目から涙がこぼれていた。父親はそんなめぐちゃんを抱きかかえた。
「よく我慢したね。少しお姉ちゃんになったからかな?」
エレベータでペットショップがある1階に下りて向かう。ペットショップ手前まで行くと下ろしてというのでめぐちゃんを下ろすと一目散で前のケージに行った。
『売れちゃっているいいけどな。諦めもつくんだろうけど・・・』
母親の小さな期待はめぐちゃんの笑顔によってかき消された。残念であるがその笑顔を見ると必ずしも残念とは言えなかった。
「こんにちは猫ちゃん!」
「へぇ~。これがめぐちゃんが欲しいって言っている猫か・・・確かに可愛いな」
始めから反対するような事はせず好意的に受け入れている夫に少々ムッとする。
「でしょ?でしょ?だから飼っていいでしょ?ね?パパ?」
「俺は良いと思うけど、ママが良いって言わないとパパは買ってあげられないなぁ?」
「ちょっとパパ・・・いいかな?」
夫を小さく手招きして小声で話す。
「何で説得してくれないの?」
「別にいいじゃないか?それとも何か飼っちゃいけない事でもあるのか?」
「生き物を飼うって大変なんだよ。幼いめぐちゃんに出来ると思っているの?それに、結構な値じゃない?だったらみんなで旅行に行った方が良いよ。そうだ!猫なんて飼っちゃったら旅行にだっていけなくなるし、今じゃなくてもいいんじゃない?」
さすがお母さん。一家の財布の紐を握っているだけあって現実的に物事を考えている。
「ダメなの?ママ?」
「ダメなの?ママ?」
娘が言ったのに合わせて夫も同じように上目遣いで訴えかけて来た。
『何で私が悪者になるわけ?』
特に母親は猫が嫌いという訳ではない。ただ、動物を飼った経験がない母親はペットを飼うという事が未知である事でイマイチ分からず、いざ飼うとなったらどうなるのかと漠然とした不安にとらわれていたから快く許可を出せなかった。
「何で、そんな猫に・・・」
ジ~ッ
しゃがんで猫を見てみると目が合った。小さくつぶらな瞳がキラキラと輝いていた。まるで水晶玉ぐらい澄んでいて自分の姿が見えた気がした。その瞬間、ハートを打ち抜かれた。
「はぁ・・・分かった。飼いましょう」
「やったぁ!やったぁ!」
「やったな~めぐちゃん!」
ようやく許可が出て、二人の親子は飛び跳ねて喜んだ。
「お客様?その猫ちゃんご購入なさいますか?」
店員はそのタイミングを見計らっていたようで横からスッと現れて、購入の事を聞いてきた。勿論、飼う事にするのだが、ただの電化製品を買うのとは訳が違う。猫の飼い方や何かあったときの対処法等、長々と説明を受けた後、飼育法が書かれた分厚い本を受け取り、それに合わせて猫の餌、その餌を食べる皿、猫用遊具、猫が好きなクッション、猫用トイレ等、猫を飼う時に必要なものを一通り買う事にした。
父親もペットを飼った経験がなかったので、店員の言われるままであった。

「結局、10万円以上もかかった上に何、この荷物?」
2人の大人が荷物を抱えて持っていかなければならないぐらいの量があった。ハイキング帰りの疲れも相俟って生き物を飼うのってこんなに大変なのかと気が滅入りそうになった。
「良かったね~。うちに来られて~」
猫が入った籠を持つめぐちゃんはずっと猫に微笑みかけていた。一方の猫は、急に外に出されて不安そうな目をして震えていた。慣れた土地から無理矢理出され、自分の身に何が起こるか分からないのだから

家に帰ってから猫に餌と水をあげる事にした。
「どれだけ、あげれば良かったんだっけ?」
「え?えっと・・・」
説明を受けたがどれだけあげれば良かったのか忘れていた。マニュアルを開いて、餌と水の適量を調べて皿に盛った。
「めぐちゃんがあげる!めぐちゃんがあげる!」
駄々をこねるから仕方なく手渡した。めぐちゃんは満足げに取って猫の前に置いた。猫は見向きもせず、キョロキョロと周囲を見回しながら部屋の隅っこの方に歩いていき、じっとこちらを見ている。
「猫ちゃん!どうしたの?ご飯だよ~」
めぐちゃんの呼びかけにはまるで応じず、こちらを見ている。
「猫ちゃん!どうしたの?お腹減ってないの?ねぇ?」
お皿を持って猫に近付くと、猫はめぐちゃんから離れていく。
「めぐちゃん。急にうちに釣れて来られて戸惑っているのかもしれないな。暫く様子を見たほうがいいみたいだね」
「ええ~」
「お腹が減ったらこっちに来てくれるさ」
「うん」
猫が食べに来るまでめぐちゃんは隠れてみていたが猫は動く様子を見せず、10分ぐらい経つとめぐちゃんはこくりこくりとし始めた。それに父親はめぐちゃんを抱きかかえ、布団で寝かせた。
「歩き回った後だからしょうがないよね~。良く頑張った。頑張った。偉い偉い。」
「あなた!食べてるよ!」
「お?本当か?」
結局、めぐちゃんは猫が始めてうちでご飯を食べているところは見られなかった。そんな事で、猫とこの一家の共同生活がスタートした。

次の日のお昼頃、めぐちゃんはずっと猫を眺めていた。母親が声をかけた。
「めぐちゃん」
「なぁに?」
「猫ちゃんに名前つけたほうがいいんじゃない?いつまでも猫ちゃんじゃ可哀想じゃない?」
「あ!名前!名前・・・名前・・・」
渋い顔をして考えるめぐちゃん。母親は生まれて始めて悩んでいるのではないかと思った。何故かとても微笑ましかった。1時間も経った夕食前にもそんな調子であるから心配になってきた。
「まだ考えているんだ・・・どんな名前を考えたか教えてくれない?思い浮かんだ名前だけでもいいから~」
「まだ決まってな~いの!」
1時間も経って候補も出来てないというのは遅すぎるだろうと思った。
「じゃぁ、ママが考えた名前はね~。ハナちゃんなんかどう?」
「ダメ!」
「どうして?可愛らしい良い名前じゃない?お花よ。お花」
「由佳ちゃんちのハムスターとおんなじ名前~」
ハムスターの名前は知らなかったが他のうちのペットと考えた名前がかぶったのは少々ショックであった。それから父親が帰ってきて、考え込むめぐちゃんを見て何かあったのかと不安になった。
「猫の名前を考えているの」
「名前ねぇ・・・シロちゃんなんてどうだ?」
「ダメ!そんな見たまんまの名前なんて!」
父親は見た目どおりのシンプルで分かりやすい名前でいいと思ったのだが、すぐに否定されたのがショックだった。確かに安直であるというのは分かっていたが・・・そんな事を言っているとその猫が現れた。おなかが減ったのだろう。猫を見た瞬間に名前を考える事を忘れたようで同じように歩いている。
「猫ちゃん歩く~。トコトコ歩く~。トコトコ?トコちゃん?パパ、ママ!トコちゃんって名前いいよね?」
猫の名前よりもめぐちゃんが考え込む姿からパッと表情が明るくなりとても可愛らしい瞬間であった。
「うんうん。良い名前だね」
「これから名前はトコちゃんだよ。よろしくね!」
「にぁ」
「ホラ!トコちゃんも良い名前だって言ってくれたよ!」
ただ、お腹が減ったからこっちに来たのだろうと思ったけど、喜んでいるところに水を差すみたいだったからやめた。

母親はトコちゃんがあくびしたり、伸びをしたり、顔を洗ったりとそういう仕草は可愛いと思ったが積極的に撫でたり、抱きしめたりという事はしなかった。昔、近所の飼い猫に手を出して引っかかれたという事があったからだ。
それにめぐちゃんだけでも手がかかるというのに、猫の飼い方も知らなければならないというのは精神的にちょっとした負担であった。
だが、それからすぐにその考えは改められる事になる。めぐちゃんを幼稚園に出して、洗濯や掃除を済ませて一段落して、ソファに座って紅茶でも飲んで買って来た雑誌を読んでいたときの事だ。何か足にもぞもぞと動く感触がしたのでバッと雑誌をどけてみるとトコちゃんが小さく丸まっていた。
「ヤバイ・・・可愛い」
犬みたいにご主人を見たらすぐに駆け寄ってくれる方が良いと思っていた。だが猫のように普段は愛想を振り撒く事などしないのに不意に近くに寄ってこられるとグッと来る。撫でる事はせず、暫くトコちゃんを眺めていたら気がついた。
「お昼食べたいけど動けない・・・」
この寝顔を見ていたらお昼抜きでもいいかなと思ったがすぐにトイレに行きたくなったのでさすがにそのままという訳にもいかなかった。
「トコちゃんごめんね」
トコちゃんをソファに寝かせた。猫を飼う事にして良かったかなと実感するようになった。

「うわぁぁぁぁ!」
夕食を作っている最中に隣の部屋からめぐちゃんの鳴き声がしたので、ガスの火を弱めて駆け寄った。
「めぐちゃん。どうしたの?」
トコちゃんに引っかかれたのかと思って手や顔を見たりするがどこも引っかかれた様子は見られなかった。
「トコちゃん。私から逃げちゃう!トコちゃん私の事嫌いなのかなぁ?こんなに大好きなのに~」
思いは目には見えない物だから気持ちを分かってくれないのは仕方ない事であるが、まだ幼いめぐちゃんには分からないのだろう。
「めぐちゃん、トコちゃんを引っ張ってきたり、抱きしめたりしているんじゃない?だから怒るんじゃないかな?」
「どうして?好きだからやっているんだよ」
「トコちゃんはそれが好きかどうか分からないじゃない」
「そうなの?」
その猫の本に書かれていたのは
『抱きしめられる事を嫌がる猫は多い。だが、その人の事を必ずしも嫌いという事はない』
『寧ろ何もしないでじっとしている方が猫自身から寄ってくる事もある』
などと書かれていた。確かに、何もしてない方がいいのかもしれない。
「トコちゃんは、何もしないで動かない方が近くに来てくれるんじゃない?私も本を読んでいるとトコちゃん膝の上に乗ってきてくれるんだよ」
「本当に?」
「試してみたら?」
「でも私、字読めない」
「本を読まなくたっていいでしょ。テレビを見ているのだって、絵を描いているのだって動かないって事じゃない?」
「うん。やってみる・・・」
何でそんな事でトコちゃんが寄ってくるのか分からず半信半疑という様子であった。
「こればっかりはトコちゃんに気を遣ってなんて言っても仕方ないよねぇ・・・」
母親はトコちゃんがめぐちゃんの膝に行く事を願うしかなかった。2日間やっても効果が見られずめぐちゃんはイライラして泣いた事があったがそれは、異様なほどにトコちゃんを意識しすぎているのだ。わざとトコちゃんの横に行って絵を描くというあからさまな事をやるからトコちゃんはすぐに部屋から出て行ってしまった。
だが、それからすぐの事であった。夕方、めぐちゃんの大きな声がした。
「ママ!ママ!トコちゃんが!トコちゃんが!あ!待って!トコちゃん!わぁぁぁぁ!」
自分を呼ぶ声がしたので向かったがその呼ぶ声はすぐに泣き声に変わった。
「どうしたの?」
「ううう~。トコちゃん!そこにいたのに、私が起きたらいなくなっちゃった」
「え?」
幼い子の説明だから理解するのに時間がかかる。しかも、泣いている時である。少し感情が高ぶっているのだろう。少ししてから再び説明をさせてみてようやく状況が見えてきた。
どうやら、めぐちゃんは絵を描いているときに眠ってしまったらしい。起きた時にトコちゃんが自分のお腹の上にいたというのだ。それで喜んでママに見てもらおうと呼んだら、トコちゃんは逃げて行ったという話なのだ。
「どうして逃げちゃうのかなぁ?」
その本にはこうも書かれていた。
『猫は子供、特に幼児を好まない事が多い。落ち着きがなく動きが読めないから何をされるか分からず警戒してしまうようだ』
確かに、人間の大人からすれば小さく可愛い子供のように見えても猫からすれば自分の体格の数倍もある巨人である。それが急に走ったり、跳ねたり、騒いだりすれば何をするか分からないものだと見えてしまうことだろう。
ただ、犬の場合はそういった危機を意識した感情よりも自分のご主人と言った感情が強いからでかかろうが近付いてくるのだと思われる。
「ホラ、近くに来てくれたのなら嫌いじゃないんだよ。でも、あんまり大声を出したからトコちゃんびっくりしたんじゃないかな?」
「本当?」
「私には分からないけど、きっとそうだと思うな」
「うう~ん・・・」
相手の事を慮る心。それは相手が人間に限らず動物であってもである。身に着けて欲しい優しさだけど、まだ幼いめぐちゃんには難しいのかもしれない。頑張れと母親は心の中で応援した。

それから1週間ぐらいの時間が過ぎた。トコちゃんはすっかり家に馴染み、用を足す時は外でする事もあったが家の中で必ずトイレを使うようになっていた。そして『ねるこども』略して『ねこ』というぐらい1日の半分以上を寝ているようであった。それでも可愛いのであるが、趣味は特に決まってなく、ペットショップで買った玉っころや猫じゃらしのようなものやぜんまい式で跳ねるおもちゃなどで遊んでいた。しかし、すぐに飽きてしまうようでいくつかを順番で使うというのがトコちゃんとの遊び方となっていた。それでやりすぎてトコちゃんに引っかかれて大泣きするなんて事件も発生するのであるが・・・それでもトコちゃんを避けたり嫌ったりしないのは本当に好きだからなのだろうという事が伺えた。そしてトコちゃんもめぐちゃんをさほど嫌いではないだろうという事も分かった。


「こねこねっこねこ」を楽しんでくれた方全てに捧ぐ

2009-03-31 20:36:34 | 
昨日で一応「こねこねっこねこ」は週刊では終わりました。
コレ以降についてはあまり考えていません。
月一になるのか年一になるのかそれともこれで完全に終わりなのか・・・

で、今日はそんな「こねこねっこねこ」を読み楽しんでくれた世界中で恐らく片手の指の本数に収まるであろう人たちにちょっとね・・・


さて、昨日の「最終回」についての補足を・・・

「え?あれでおしまい?いつもと一緒じゃん」

って思う方がいると思いますが、勿論、あれこれ考えたんですよ。
例えば

・急に10年後
・バッドエンド

とかね。
(ま、バッドエンドは半年前に休止中の「こねこねっこねこーず」が続かなくなるから没だろうけど)

でも、「こねこねっこねこ」って緩さを全面に出したものですからあまりドタバタして終わるのもなんだなと・・・

トコちゃんにとっては好きな時に外を出歩き、好きなところに行き、好きな粘土をこねて、好きな物を作る。
それで、疲れたりお腹が減ったら大好きなめぐちゃんやお母さんやお父さんのいるうちに帰ると・・・

そんな毎日、何の変哲の無い日常こそが幸せでありハッピーエンドなんじゃないかなって思ってからこそあのような最終回に至ったわけです。

こう解説しちゃうと何か魅力が激減って気がしないでもないですが(笑)

後、昨日の最終回にちょろっと来週からの次回作要素をサラッと入れてみたりしたんですが・・・
今、目を凝らして読んだところで分かりっこないです。
来週出たのを見比べると分かるかもしれません。

さて、最後に髭人が書いていて「こねこねっこねこ」の感想。
緩くしてある物の時々考えるのは大変だった事もありました。
それでも続けて1年ちょっと。
自分で書いていてたまにイマイチだと思ったり、良いと思ったり、何か癒されたり・・・
それでも、楽しかった。
ありがたやありがたや・・・
今日は粘土をどんな形にこねているんでしょうかねぇ?

きっと読んでくれた全ての皆さんに感謝の気持ちをこねていると思いますよ。

魚かな?

魚じゃあんまり伝わらないですけどね(笑)

こねこねっこねこ #57(最終回)

2009-03-30 22:11:22 | 
ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

お!桜が満開だ~

今日は、離れた所に行こうっと

去年、花びらが散って粘土こねられなかったから~

今まで色んな物を見てきたな~

今日は、それをこねてみようかな?

どんなの見たっけ?

空を泳ぐ魚に~。竹につけられた飾りに~。空飛ぶ赤いおじいさんに~。

いっぱいあるな・・・今日はいいや・・・

ヒュゥ

風が気持ち良いな~。春なんだな~

お腹が減ったからおうちに帰ろっと

今日も特に何にもなかったな~。うんうん。

ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

こねこねっこねこ #56

2009-03-23 18:09:16 | 
ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

「良かったね~。卒園式」
「本当に良かった。これを見ずして死ねる訳がない」
「そんな事言っているけどお父さんもお母さんもカメラを撮るのに夢中で卒園式なんか殆ど見てなかったんじゃない?」
「そんな事はないぞ。ちゃんと見たしちゃんと撮れてる」

「それにしてももうめぐちゃんの幼稚園の制服を見られないなんて残念、極まりない」
「でも、そうすると小学生のめぐちゃんも見られないんですよ。あなた」
「それも困る」

「そうだ!めぐちゃんがランドセルを背負った所をカメラに撮らないとな。めぐちゃ~ん!」

スタスタ・・・

「なぁに。おじいちゃん」
「写真を撮りたいからランドセルを持って来てくれないか?おじいちゃん。おばあちゃんも見たいんだよ」
「うん。いいよ」

スタスタ・・・

「おじいちゃん。ごめんなさい。今、ランドセル。友達のうちに置いて来ちゃったからない」
「ええぇ!?友達のうちに置いてきたぁ?嬉しくて背負っていて忘れたのかぁ?」
「そんな訳ないでしょ?めぐちゃん。朝、部屋に行った時あったんだから・・・今日は友達のうちなんて行ってないんだし」
「そうなのかぁ?何だ。カメラで撮られるのかちょっと恥ずかしいからってそんな嘘ついて~。そんなに固くなる事はないんだよ。ランドセルをちょっと持って来てくれれば~。じゃぁ行こうか?」
「ダメダメダメ!」
「そんなに嫌がることでもないだろう?」

トットットッ

Zzz・・・

「あ・・・猫が寝ている。ホラ、ちょっとどいてくれ。写真を撮るから・・・」
「だからダメって言ったのにぃ!ママのバカ~」

スタスタ・・・

「あ・・・ランドセルの中で寝ているトコちゃんを起こさないために嘘をついたのね」
「気持ちは分かるが猫にはどいてもらって・・・」
「お父さん」
「何だ?」
「いいじゃない。入学式の日には来るんでしょ?その日に撮れば」
「それはそうだが、今、こうして来たんだからいいだろう?」
「そうするときっとめぐちゃんの写真は怒っている事になるけどいいの?」
「それは困る」
「じゃぁ、入学式の日まで待つの?その方がいいと思うけどね~制服姿でランドセル背負っている所を始めて見られるなんて感動がより大きくなるよ。きっと・・・」
「言われて見ればそうだなぁ・・・分かった。今日は諦めよう」

「やったね。めぐちゃん。トコちゃんそのままでいいって!」
「やった!トコちゃん寝ていられるね~」
「折角遠い所から来たんだから、猫に気を遣わず私らに遣ってもらいたいもんだなぁ・・・」
「いいじゃない。あなた。めぐちゃんがあんなに嬉しそうにしているじゃない」
「そうだな・・・」

パシャ・・・

ん?
何か騒々しいけど、いいや。この中、温かいから起きずに寝ていようっと

ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

こねこねっこねこ #55

2009-03-16 18:49:55 | 
ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

暖かくなってきたからお散歩。お散歩~♪
学校に来たら何か人が大勢、集まっているな。
めぐちゃんより大きいな。
大人のなりかけ?大人のなりたて?

何か筒を持って歩いているけど
泣いている人や笑っている人がいる。
変なの。

さてと・・・帰ろう。

お!うちにも似たような筒があるぞ!

「エヘヘヘ~」

めぐちゃんは照れているみたいだな。
何か面白い物でも入っているのかな?
あの筒に・・・
気になるな~

ぼくは「こねこねっこねこ」

こねこね
こねこね
今日も粘土をこねこねしてる

冷静に考えてみよう

2009-03-12 22:36:10 | 
東京のここが変だと思うことランキング - gooランキング



「変」って思えないことが含まれているよな~
だって、首都で人が集まるからって事で説明が付くのが多い。
殆どだから逆に説明が付かないものを集めてみよう。

12位、14位、15位、17位ぐらいかなぁ?

自分は東京在住だけど都内(東京都の中心という意味)から見ればうちは田舎。緑が多いし、畑も山もある。

この中で自分が「変」だと思わないけど対応できないのは
「5位」と「8位」かな?
出口が多くて迷う。迷う。

「最深部に魔王でもいるんじゃね?」

って思うぐらいだから(笑)


にしても東京以外に住んでいる人って

「東京=ビル郡」

って思いこんでいる人多いよなぁ~
後、異様なほど東京に対して憧れを抱いている。
うちは田舎だって言っても

「でも、『東京』でしょ?」

と言われる。
何故にそこまで「東京」に固執するのか分からない。
せいぜい県庁付近と同じぐらいだと思うんだけどな・・・

1位、人が多すぎる
2位、電車の運行本数が多い
3位、満員電車
4位、高層ビルが多い
5位、駅の出口が多い
6位、家賃が高い
7位、駅の間隔が短い
8位、駅のホームが多すぎる
9位、空気が汚い
10位、水道水がおいしくない
11位、駐車料金が高い
12位、すごい格好の人が歩いている
13位、スクランブル交差点が大きい
14位、飲食代が高い
15位、歩くのが早い
16位、終電でも電車がラッシュ
17位、そばつゆが黒い
18位、どこまで行っても都会
19位、夜なのに明るい
20位、終電が遅い

つまらなければ押すんじゃない。

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