
WWF50周年号より
1自然保護の資金を集める
IUCN(国際自然保護連合)には世界中の科学者などから専門的な知識が集まっていましたし、
野生生物の調査の経験も豊富でした。
しかし、どんな優れた保護計画が立てられても、それを実行する「資金」がなければどうしょうもありません。
WWF(IUCNの資金援助のために設立された姉妹組織として設立された)は、
設立から3年の間に約190万ドル(当時の相場換算で6億8400万)を集め、IUCNの支援を開始しました。
ひとくちに「自然保護}といっても、起きている問題や危機の瀕している生態系、それをとりまく社会の事情は、
地域ごとに異なっています。
そのため、それぞれの場所に詳しい知識を持つ人や、地域の関係者が中心になって保護活動を行うのが最も効果的だとWWFでは考えています。
地元の団体や研究者、時には途上国の政府にも活動資金を助成するほか、実際に現場へも生き、調査をし、
必要な保護策を考え、軌道に乗るまで一緒に活動して、各地に自然保護を根付かせていく、というWWFの活動スタイルは、
発足当初から始まり、そして現在にも受け継がれています。
2保護区を作り、機能させる
活動資金の調達に加え、WWFが活動初期から取り組んだのは「保護区」の新設・拡大・管理強化でした。
まだ野生生物を守る法規制がほとんどなく、持続可能な利用という考え方も普及していなかった当時、保護区の整備は急務でした。
1964年。多くの渡り鳥の飛来地で、絶滅のおそれの高いスペインカタシロワシやイベリアオオヤマネコの生息地でもある
イベリア半島の大湿原ラス・マリスマスに、埋め立て計画が持ち上がりました。
WWFは各地から募金を募り、約6500ヘクタールを購入(3分の1はスペイン政府が出資)。
この保護区は現在、規模を拡大してドニャーナ国立公園となり、世界自然遺産にも登録されています。
ただ、土地を買うほどまとまった資金を確保するには簡単なことではありません。
また、保護区というのは、設立するだけではだめで、密猟や無謀な開発が行われないよう、設立後にしっかり管理することこそが重要です。
そのため、WWFは多くに場合、科学的な調査に基づいて保護区を設立するように政府に求めると同時に、
保護の担い手となるレンジャーの教育や、パトロールに必要な機材の調達、保護区のネットワーク化などに資金を振り向けています。
これまでWWFが設立を支援した保護区は、エリオピアのシミエン国立公園(1969年)、ペルーのマヌー国立公園(1973年)、
ネパールのシェイ・ポクスンド国立公園(1985年)、スマトラ島のテッソニロ国立公園(2004年)など、大小100カ所以上にのぼります。
現在では、自然を手つかずで守るより、持続可能な形で利用し、共存を図るという考え方が主流になっており、
WWFも、その必要性を認めています。しかし、保護区が不要になったわけではありません。
今後ますます人間の勢力が拡大すると予測されるだけ、保護が優先される場所も確保していかなければ、環境を保っていくことは難しいでしょう。
