
WWF50周年号より
3絶滅寸前の動物を増やし、野生復帰させる
野生生物が減ってきた場合には、まずは生息環境を確保し、自然の中で増えるよう、仕向けることが原則です。
しかし、時には、それでは間に合わない場合もあります。アラビアオリックスは、まさにそのケースでした。
すらりと伸びる二本の角を持つアラビアオリックスは、ハンティングの格好の獲物とされ、
1961年には50頭以下にまで減っていました。
そこでWWFは、アラビアオリックスを捕獲して安全な場所に移すため、野生から3頭を捕獲。
動物園で飼育さていたものを加えた9頭を手厚い保護下に置きました。
その間も狩猟は止まず、1972年、ついに野生のものは絶滅。
しかし8年後、保護下でふえたオリックスを再びオマーンの地に放すことができたのです。
その後、サウジアラビア、イスラエルなどでも野生復帰が行われ、1996年には450頭まで回復しました。
ところが1999年、WWFは苦い思いをかみしめることとなります。
アラビアオリックスが、わずか3年で100頭に減っていることが判明したのです。
主な原因は私設動物園へ売るための密猟。さらに保護を強化しなければならないこの時に、オマーン政府は保護区の縮小を発表。
せっかく登録されたいた世界自然遺産からも削除されてしまいました。
現在、飼育下にいるアラビアオリックスを、再び野生復帰させるめどは立っていません。
それでも、この一連の経験は、その後のシロサイ、シフゾウ、モウコノウマなどの野生復帰に活かされ、成果を生んでいます。
保護活動が功を奏して個体数が増えてくると、次なる課題も出てきます。新たな生息地を確保し、そこへ移入する必要性です。
野生生物にはそれぞれ、適度な生息密度があり、それより増えると、生態系のバランスが崩れるおそれがあるからです。
ただし、移入先は、原則、かつてその動物が生息していた地域である必要がありますし、移入による周囲の環境への影響も慎重に検討しなければなりません。
2011年、WWFはネパールのチトワン国立公園に、野生のトラを移送する試みを支援しました。
ジャワ島のウジュン・クーロン国立公園でも、個体数が増えてきたジャワサイの移送の可能性を検討しています。


4野生動物や自然環境を調べる
WWFは設立以来「科学的な根拠に基づいて行動する」ことを基本姿勢としてきました。
まず調査を行い、それに基づいて発言してはじめて、説得力を持つことができるからです。
調査は、保護計画を立てるための土台でもあります。1966年に南米で実施したアンデスグマの調査は、
WWFが最初に手がけた野生生物調査の一つです。個体群のサイズ、分布、生態、生息状況、絶滅の危険度など多くの情報が得られ、
その後の保護計画のベースとなりました。
また、開発などの危機が迫ったとき、計画の見直しを求めるためにも調査は重要です。
日本の石垣島にある白保海域で、サンゴ礁を埋め立てて空港を建設する計画が持ち上がった時も、
WWFは石垣島全域と、白保海域のサンゴ礁を緊急に調査。世界的にも貴重なサンゴ礁の存在を明らかにしました。
この結果は、計画の疑問視する声の高まりを後押しし、空港建設予定地の変更につながりました。
現在は陸上部で新空港建設が進んでいますが、この工事がサンゴ礁に影響を与えないか、WWFはモニタリング調査を続けています。
