丘を越えて~高遠響と申します~

ようおこし!まあ、あがんなはれ。仕事、趣味、子供、短編小説、なんでもありまっせ。好きなモン読んどくなはれ。

啓示 ~小学3年の理科(笑)~

2009年05月16日 | 作り話
 それは突然やって来た。それも唐突に。彼は食事の最中だったが、はたと手を止めると、遥か天空へと目を凝らした。

 お前の番が来た。行かなければならない。

 何処へ?

 高みへと、高みへと、行き付く処まで。

 その声が何処から聞こえてくるのかすらわからなかった。自分の中から聞こえてくるようでもあり、遥か天上界から降り注いでくるようでもある。いや、もはやその声の主の所在など、彼にとって問題ではないのだ。その啓示とも言うべき声が響いたことで、彼の身体は今まで感じたことのない至福感と高揚感が満ち溢れ、それは彼の理性の全てを封じ込めた。

 そうだ、行かなくては……。その時が来たのだ。

 彼は食べきれないまでの糧と安息を提供してくれた安住の地を捨て、声に従って歩き始めてた。一心不乱に、ただひたすらに自分を導く声に従って……。
 やがて彼は疲れ果ててその場にうずくまった。どこまでこの旅は続くのか。彼にはわからない。しばしの休息をここで取るとしよう。そして眠りから覚めたら、また旅を続けなければならない。声が導く、高みへと……。
 彼は身体を丸め、眠りにつく。深い深い眠りに……。彼は知らない。この眠りが覚める時、彼の身に起こるであろう奇蹟を……。



 虫かごを覗いていたチビ子が大声で呼ぶ。
「お母さ~ん! 青虫が、虫かごの天井にくっついてさなぎになってる~」
「どれどれ」
 私は虫かごを覗き込んだ。なるほど、五日ほど前に玄関先の葉牡丹から引っ越してきた十匹ほどの青虫の何匹かが虫かごの壁をよじ登り、蓋の隙間にしがみついて眠り込んでいる。
「あ、ほんまや。これなんかもう、さなぎの形になって来てるわ。いやあ、楽しみやね。去年は羽化に気付かんで、死なせてしもたもんな。今年は蝶にして空に飛ばしたろな」
「楽しみやな~」
 チビ子はそっと虫かごの蓋を元に戻した。
 


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