懐かしい空気

　チビ共のダンスの発表会が近い。普段は週一回のレッスンが、あと一月となった今は日曜日も入っているので週二回となっている。ただでさえ忙しいのに日曜日まで潰れるので、正直クラクラしているが、まあ、仕方あるまい。
　本番は私とあと二人のお母さんの計三人で六人の子供の面倒を見ることになる。それぞれの子供が多い子で四回、少ない子でも三回はステージに上がるのでその度に衣装を変える手伝いをしなくてはならない。通し稽古では私達の手順のチェックもあるので、のんびりお茶をすすりながら子供のダンスを見ている訳にもいかないのである。
　今日などはあとの二人がオヤスミだったので、一人で五人の衣装替えをするハメになった。もう、てんやわんやである。
「はい！　すぐ脱いで！」
「おばちゃ～ん、私のどれ～？」
「はい、これ！　ここまで着てな！　Aちゃん！　着物やで！　レオタード脱いで！」
「お母さ～ん、これ着られへん～」
「あんたの出番はまだやから、ちょっと待って！　先にAちゃんとBちゃんや」
「おばちゃ～ん、脱いだ衣装、どこ置くの～？」
「そこに置いといて。後でするから。今はそれ着て！」
「お母さ～ん、カチューシャどこ～？」
「だから、出番まだやから（怒）！」
　……とまあ、こんな調子で（笑）。子供も汗ダクだけど、私も汗まみれになってしまった。

　でもこんな戦争のような状況に陥ると、子供の頃、自分も楽屋で先生にどやされながら一生懸命衣装を着替えていた事を思い出す。

　汗と松脂とドウランの匂い。抑えた声で叱咤されながら暗い通路を駆け抜ける。舞台の袖から見るスポットライト。幾つも重なって踊る影、影、影。舞台袖で振り付けをおさらいする踊り子達。ドキドキする心臓と、妙に冷静な頭の中。大きなスピーカーから響いてくる聞きなれた音楽と空気の震える感じ……。

　ああ、なんだかものすごく遠い昔のような気もするし、ほんの昨日のような気もする。
　踊っているチビ子とチビ太郎の姿に、三十年近く前の自分が残像のようにかぶって見える。身体のどこかにまだあの頃の自分が生きているのかもしれない。踊る事が何よりも好きだったあの頃の自分が……。
　帰りの車の中でチビ子に駄目ダシをしながら、当時の自分に駄目ダシをしているような気分になった（笑）。



＊＊＊＊＊　　告知　　　＊＊＊＊＊

　十一月二十三日、十三時半より
　柏原リビエールホールにて
　北口ダンススタジオ発表会「舞る」

　只今サクラ（笑）受付中です。
　ご連絡くださった方には招待状をお送り致します。
　サクラの仕込みも親の仕事なもんで（笑）。