追悼

　ついに順番が回ってきましたなぁ……。ずっと言ってたもんね、「早く私の順番がこないかしら。長く生きすぎたわ……」って。あなたには言わなかったけど、実はね、前の訪問の時、ちょっと予感はあったんだ。ああ、だいぶ心臓が弱って来てるな……って。で、ヘルパーさんには一応報告してたのよ。「急変する事もあるかもしれないから、気をつけててね」って。……最近、よく当たっちゃうのだわ、私の予感。

　そう言えば去年の秋ごろだったか、夢の話してたよね。「親戚が集まって何か会議してた。でも私には何を話してるのかちっとも聞こえないの。もしかしたら、そろそろ迎えに行こうかっていう相談かなぁ」って。その時は、「そうかもしれないよ～。でも案外、『こっちに空き部屋がないから、もう少し頑張ってもらうか』って話かもよ～」なんて笑って聞いていたけど、本当にお迎え会議だったのかもね。

　日頃、あえて利用者さんにはあまり感情移入しないようにしてる。だって、行きつく先がわかっているし、私達は所詮週に一回の、それも三十分程度のお付き合いだからね。家族の代わりにはもちろんならないし、なれない。なってもいけない。割り切らなくっちゃ客観的に診る事もできない。表向きはものすご～くフレンドリーで入り込んでるけど、その実、精神的には距離を置いてるもんなのよね。

　でもね、あなたはちょっと違ったなぁ。なんか、自分のおばあちゃんみたいに思っているところがあった。見た目が少し曾祖母に似てたからかな（笑）。しっかりしているところもすごく似てた。歳の割にはハイカラなところがよく似てる。配給の小麦粉で、子供のためにパンを焼いた話をしてくれたでしょ？　そういうところがすごく素敵だと思ったなぁ。おかげで、精神的に入り込まないようにするのに結構苦労した（笑）。

　あなたの車いすを押しながら散歩するのが楽しかった。近所ばっかりだけど、桜も観に行ったし、アジサイも観に行ったね。ざくろの実やつるし柿を探しながら歩くのも楽しかった。そう言えば、今年の初詣は三日だったせいもあって、すごく初詣らしかったよね。来年も行けるかなぁ……って二人で笑ってたけど、来年は無しだねぇ。残念。

　昨日、あなたが逝ったとケアマネさんから聞いて、実は少々勤労意欲が減退してる。仕事に行く楽しみが一つ減っちゃったよ。悲しい……というのあまりないけど、寂しいな。うん。とっても寂しい。


　今頃痛みからもふらつきからも解放されて、月夜の散歩を楽しんでる？　車いすも手押し車もいらないね。あっちではきっと会いたかった人達が皆首を長くして待ってる。「ようやく来たか！」って。長くて苦労の多い人生、ようやく一区切りだわね。

　　　

　利用者さんのお葬式にはいつも行かない事にしてるから、あなたのお葬式にも行かないよ。


　そのかわり、いつもの挨拶で送ります。

「お疲れさまでした。じゃ、また、来週……はないから、またそのうち！　　さいなら～～！！」