(引用文)
気象学者が cirrus と名づける雲がある。 白い羽毛のようなのや、刷毛(はけ)で引いたようなのがある。 通例(巻雲(けんうん)と訳されている。 私の子供はそんなことは無視してしまって、勝手にスウスウ雲と命名してしまった。 (大正九年十二月、渋柿)
(大正九年十二月号掲載分を読んで)
巻雲は絹雲とも呼ばれ、日本では、春か秋、ジェット気流に伴って生じることが多い。
中緯度に位置する日本では 5~13kmの高さに発生し上層雲の中で最も高い高度にある。
太陽がカッと照りつける暑い夏の空に現れる入道雲は誰しも身近に感じるだろうけど、
わたしなどは、刷毛で描いたような淡い巻雲に名前がついていたのさえ知らずにいた。
そんな私だが、俳句に親しみ、歳時記に親しむ中に、知らずに関心を持って見ている。
なに気なしに眺めていた雲を、人は何かを切っ掛けとして研究することになるらしい。
寺田寅彦の子供が巻雲に「スウスウ雲」と命名した切っ掛けも、そんなところだろう。