野菜畑のひょうたん族

ひょうたん・たん・たん!大きくなあれ♪
野菜作りと日々の生活をやんわく綴ります。

空に消えた約束

2013-05-24 | その他


晴れわたる空に、西から東へ
飛行機がツーと一筋の雲を引いていくのを見つけると、
ちょっと酢っぱい思いがよぎります。


私が高校生の頃のこと、
今日のように青く晴れた日
お弁当を食べて眠気の差した5時間目の授業の前、
ふっと、隣に目をやると、
同じように空を見上げていた男子がいました。


彼はそのころ、
学校でもハバをきかせた集団の1人で、
同じ中学校というだけの
ただのクラスメートでした。

当時から大人しく無害だった私には、
ほとんどの男子は口を利かない中、
彼だけは冗談を言ってくるくらい
よく話しかけてくれていました。

彼は教室の窓から見える
四角い空に右から左へ1本引かれた雲の筋を見つめたまま

ぼそりと


「きみの名前を空に書いてあげるよ。」

と言ったのです。



私は思いがけない言葉にびっくりして振り返り、
空を見上げたままの彼を見ました。

そんなオトメチックな言葉をかけられるなんて
私は心臓を突然ぐるぐる巻きにされたようでした。

私は小さく

「うん。」

とうなづきました。


白い軌跡は、やがて青い空ににじんで消えて行き、
チャイムの音で我に返った2人は、
5時間目の授業を普段通りに受けました。

2人だけの約束は、
その後1度も話題になることはありませんでした。




その彼は高校卒業後、
航空自衛隊に入隊し、
パイロットになったと風の便りで聞きました。


それから6年ほど経ったころでしょうか。
街で人気のパスタ店で、
高校からの親友とランチを楽しんでいた時です。

「ねえ、あれ、同級生じゃない?」
友達がフォークで指した方に顔を向けると、

そこには、
航空自衛隊の真っ白な制服を来た彼がいました。
彼がにこやかに見つめていたのは、
中学生時代、校内美女ランキングで常に1位だった
マドンナでした。

あの頃も中学生ながら、
「美しい」という言葉がピッタリの彼女は、
さらに透き通った肌と、
はっとするくらい黒く密やかな瞳で、
彼を見つめていました。

まるでそこだけ別世界、
パスタ店の1角だけ異次元空間。

私は話しかけられないまま、
パスタを巻きながら、
頭の中に、あの空を見上げた時を思い起こし、
気付いたのです。

空に書きたかったのは、
マドンナの名前、
だったのだろうと。

なぜなら、彼女を見つめる目は、
あの空を見つめていた目と同じだったから。


きっと、
彼女の名前を書いてあげたんだよね。
だからこうして、
彼女と一緒だったんだよね。


私はぐるぐる巻きにして
だんごになったパスタを口いっぱいにして、
やっと気付いた勘違いと一緒に、
一気に飲み込みました。


一人相撲の約束はとうに消えてしまったけれど、
淡い思いだけ胸にしまっています。

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