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「使用者」とは

2021-12-20 21:00:00 | 労働法

先週の月曜日は労働法における「労働者」のお話をしました。今日は「使用者」についてお話しさせていただきます。

定義は、ご多分に漏れず、法律によって異なります。

労働契約法(労契法)では「使用する労働者に対して賃金を支払う者」としています。個人企業の場合は企業主個人、法人組織の場合は法人そのものとなります。

一方、労働基準法(労基法)では「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」としています。労契法の使用者は労基法の事業主に該当し、労基法の使用者は労契法のものより概念が広いことになります(実際は労契法のほうがあとに施行されていますので、「労契法の使用者は労基法のものより概念が狭い」と言った方が正解です)。

行政通達では、「労基法各条で定められた義務を履行する責任者が使用者であり、部長や課長などの名称にとらわれることなく、実質的に一定の権限を与えられているかどうかによる」としています。〇〇課長という肩書があっても、単に上司の命令の伝達者にすぎなければ使用者とはみなされないわけです。

また、多くの企業の使用者は労働者の性質も有します。例えば課長は部下である一般社員に対する使用者となりますが、上司である部長に対しては労働者となります。上司がいる役職者である限り、使用者でもあり労働者でもあるわけです。

使用者と労働者が同一の事業主に雇われているとき、問題になることは少ないでしょう。元請と下請、親会社と子会社のように事業主が異なるときに使用者性の有無が争われることがあります。

例えば、親会社が子会社の組合つぶしのために子会社を解散させたことにより子会社の労働者が解雇されたとき、実質的に親会社が当該労働者の使用者としての責任を負う、とされた判例があります。使用者責任があるということは労基法上の義務が課せられる、逆に言えば子会社の労働者だった者は労基法上の権利を親会社に請求できる、というわけです。

いろいろな会社の労働者が混在している職場では、この点にも注意しましょう。

 


「労働者」とは

2021-12-13 21:00:00 | 労働法

先週の月曜日は「社員」の定義についてお話ししました。今日はもっと広い概念である「労働者」についてお話しさせていただきます。

労働基準法(労基法)上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」のことです。雇用契約を結び、会社から直接賃金が支払われていれば、労働者になるのは明白です。

問題なのは、そうでない場合でも労働者とされることがあることです。

労基法の労働者にあたるかどうかを判断するにあたっては、まず、指揮監督のもとに働いているかどうかを考慮します。

仕事の依頼や業務内容の指示に対して諾否の自由度が少なければ少ないほど、労働者性は高くなります。業務遂行をする際に指揮監督下にあるかどうか、働く場所を拘束されているかどうかなども考慮されます。

得られている報酬が、労務の対償といえるかどうかも問われます。

そのほか、使っている道具などは会社と働いている人のどちらが負担しているのか、報酬の額がどの程度なのか、ほかの会社で業務に従事する時間がどの程度あるか、なども判断材料となります。

例えば、ある者に対して業務委託(民法上の準委任)契約を結び、ある作業を依頼したとします。委任ですから雇用関係にはない、つまり少なくとも形の上では依頼者の労働者ではありません。

しかし、その者に対して依頼者が指定する仕事の進め方に対して拒否権がなく、監督者に細かく指されし、働く場所も指定されると、労働者性は高くなります。最近では、フードデリバリー配達員が事業主なのか、それとも労働者なのかが話題になっています。

労働者性が問題になるのは、労働者でなければ守られないことが多くなるからです。

労働者であれば労基法が適用されますので、依頼者はその決まりに沿った対応をしなけなりません。また、労働者災害補償法も適用されますので、業務上のけがや病気に対して補償が給付されます。

労働者でなければ1日に何時間でも、また1日の休みもなく働かされる可能性があります。業務上のけがをしても補償はありません。国民健康保険に入っていたとしても、通院や入院代の3割は負担しなければなりませんし、休んだ日の報酬はどこからも補われません。

会社にとっても、働く者にとっても、労働者性は重要な問題なのです。


「社員」ってどういう人?

2021-12-06 21:10:00 | 労働法

勤務先では複数のグループ会社と労働法に関するコンサルタント契約を締結しています。月額〇〇円とし、相談があってもなくても固定額をいただく契約です。企業によっては10年以上おつき合いいただいているところもあります。

コロナ前は電話での問い合わせもありましたが、今ではほとんどがメールできます。

内容は先方の制度や労働者に関することです。「労働者」は従業員、社員、正社員、契約社員、嘱託(社員)、アルバイト、パート等々、複数の区分があります。困るのは、ここにあげたものでは労働者以外、労働法上の定義がないことです。

例えば「社員」は「会社業務についている人」なので正社員や有期雇用者、アルバイトなどを含めると思われますが、会社によっては「正社員」を意味しています。親会社から出向していた部長職は、「みなさんは社員ではないので、この情報は知らないと思いますが、~」とメールをしてきたこがもありました。この方にとって社員とは「親会社に所属する正社員」のことだったわけです。

「契約社員」は一般的に有期雇用者と思われます。しかし、正社員も無期雇用という契約を会社と結んでいるので契約社員ともいえます。したがって、「有期雇用契約社員」としたほうがはっきりします。

そのほか、嘱託やアルバイト、パートは企業によってさまざまです。

先方が自社の定義を理解したうえで質問してくれれば助かります。しかし、そうでないときもあるので必ず意味を確かめるようにしています。そうしないと認識が双方で違い、話がかみ合わなくなってくるのです。

もう一つ気をつけなければならないのは、同じ言葉でも法律や規程によって定義が違うことがあることです。例えば労働基準法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事業所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」と規定しています。一方、労働組合法での「労働者」は「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」です。「収入によって生活している者」ではありません。失業者も含まれるのです。

ビジネスを進めていく上では、定義が大事です。多くの法律で最初に定義を規定しているように、日常の業務でも最初にはっきりさせることが必要ですね。


労災保険の豆知識

2021-11-29 21:00:00 | 労働法

みなさん、こんばんは。hkです。

先日、各紙で「コロナ労災による事業者の負担方法を見直す」旨の記事が掲載されていました。

労働者災害補償保険(労災保険)の保険料は、事業者が全額負担します。業種ごとに保険率が決められていますが、過去3年間の業務上の事故に対する保険給付額により、翌年の保険率を±40%増減させるのです。

業務上の事故が全くなかったら保険給付もなかったことになりますので、このような事業者には保険料を安くしてあげます。逆に、業務上の事故があったら保険給付もあった、場合によっては支払っていた保険料より保険給付額の方が多かったこともありますので、こちらは保険料を多くとることにします。

もし、コロナ労災を理由に保険料を高くしたら、医療や介護などの関係者にとっては「泣きっ面に蜂」状態となってしまいます。そこで、コロナ労災は保険料の増減の対象から外すことが検討されるようになったわけです。

ところで、そもそも労災保険とはどのようなものでしょうか。知っている方も多いと思いますが、労働者の業務上または通勤によるけがや病気、障害、死亡などに対して必要な補償がされるものです。

ときどき問題になるのは、けがや病気、障害、死亡などが業務上や通勤によるものなのかどうか、という点です。

業務上の場合、専門用語では「業務遂行性と業務起因性」、簡単にいえば「仕事中に、仕事が原因でけがや病気などになったのか」が問われます。通勤によるものの場合は「通勤途上に、通勤が原因」かどうかですね。

いくつか例をあげます。

休憩時間は一般的に労働時間とはされません。しかし、作業時間中に労働者が水を飲んだりトイレに行ったりしたときなどの作業中断中にけがをしたときは、業務上とされています。

仕事中でも天変地異によるけがは、一般的に労災保険の対象とはされません。業務とは関係ないからです。しかし、ときどき爆発が起きる火山上に設置されているロープウエイの補強工事中に突然火山が爆発し、隕石が落下して作業員が死亡したケースでは業務上とされました。「ときどき爆発」する、つまり通常よりは災害を被りやすい状況で働いていたからですね。

「通勤途上」の要件の一つは「住居と就業場所との間の往復」かどうかです。例えば、アパートの共同階段上でけがをした場合は通勤途上になります。アパートの玄関を出たら就業場所との間になるからです。一方、一戸建ての玄関から門扉の間でけがをしても通勤途上にはありません。門扉までは住居と就業場所との間にはならないからです。

犯罪による被害も、一般的には労災保険の対象とはなりません。しかし、大都市周辺の寂しいところに居住している女性労働者が、夜間の帰宅中にひったくりにあってけがをしたときは、通勤災害とされました。暗い道で女性がひったくりにあうことは一般にあり得ることであり、通勤に通常伴う危険が具体化したと認められたからです。

「労務行刑研究所編『労働法全書』労務行政発行」には、保険給付の対象になるかどうかに関するいろいろな行政通達や判例が掲載されています。興味がある方はご覧になってみてはいかがでしょうか。

 


そもそも労働時間とは

2021-11-22 18:01:00 | 労働法

みなさん、こんばんは。hkです。

昨日、6時間かけてライティングデスクを組み立てた結果、今日は予想どおり筋肉痛になりました。年休にしておいてよかったと改めて実感しています。出社していたら、まともには働けなかったでしょう。

ところで、過去4回の月曜日のブログでは、休日や休暇、時間外労働、休日労働などのお話をさせていただきましたが、そもそも「労働」とはなんでしょうか。

労働基準法に「労働」の定義は明示されていません。厚生労働省のパンフレットには、
・労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のこと。
・使用者の明示または黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間。
と書かれています。

たとえば、出勤を命じられて一定の場所に拘束されている手待ち時間は労働時間となります。

ビル管理会社の従業員が24時間勤務することがあり、その間に合計2時間の休憩と連続8時間の仮眠が与えられていたケースがありました。仮眠中はビルの仮眠室で待機をし、警報が鳴ったときは所定の作業をしなければなりませんでした。

仮眠中になにもなければ1回につき2300円の手当が支給されるだけで、時間外労働や深夜労働の対象とはしていませんでした。それに対し、労働者が労働時間にあたるとして提訴したわけです。

最終的に最高裁では、仮眠時間中の対応が皆無に等しいなど実質的に義務づけがないと認められる事情がないので、会社の指揮命令下におかれていて労基法上の労働時間にあたる、と判決されました。

この「実質的に義務づけがあるかどうか」がポイントです。別の裁判例では、東京高裁ですが、「警備員の仮眠時間が、実質的に警備員としての相当な対応をすべき義務付けがなされていない状況にある場合は、仮眠時間は労働時間ではない」としました。

また、工場における更衣所での作業服や保護具などの装着や準備体操場までの移動、いわゆる準備行為が労働時間にあたるかどうか、争われたこともありました。

最高裁では、本来の業務の準備は、事業所内で行うことが使用者によって義務づけられている場合や現実に不可欠である場合には、原則として使用者の指揮命令下に置かれたものと評価され、労基法上の労働時間に当たるとしました。

直接上司が指示していなくても、会社として義務づけている行為があれば、労働時間とされる可能性があるわけです。したがって、会社側の立場になれば、始業時刻前や終業時刻後に会社の決まりとして何らかの行為を要求することは、労働時間に該当するかもしれないので慎重に検討したほうが良いでしょう。処理を誤ったら、賃金不払いで訴えられる可能性もありますから。