このお宅は築3年の建売住宅で屋根はカラーベスト、外壁はサイディングの仕様でした。
症状としては2Fバルコニーに面する子供部屋勾配天井部の壁伝いに染みが出てきたとのことで調査を開始致しました。
まず勾配天井部に穴を開け、内部の状況を確認します。
天井に施工してあったグラスウール断熱材が水で染みており、汚れています。
断熱材をはずしてみると屋根の野地板裏にカビが繁殖しており、水分を含んでいます。
当初、雨漏れがすると連絡が入りましたが調べてみると漏水した形跡はなく、小屋裏の熱で溜まった湿気で発生したものと原因を絞り込みました。
原因は上の写真のように勾配天井の状態でグラスウール状の断熱材を入れた場合はふわふわとしている為、野地板裏側とグラスウールの間に隙間がなく安定した通風経路が取れない状態になり、屋根頂上部に換気棟もない状態では小屋裏の暖まった空気が行き場を失い結露を起すことになります。
下の写真が断熱材を撤去をしたもので断熱材は桟木の上に乗せてある状態です。
Q
この物件は外壁材がサイディングで壁の中に通気層を作る通気工法を用いてます。
しかし何故?結露が発生してしまったのか?
A
建物に風が当たる場合、建物の下から上へ風が吹き動いてます。土台部から外部の空気を受け入れてサイディングの裏側の通気層に空気が通り軒天有孔板、ダンパー、屋根換気棟などの掃気部の空気の動きによって外部へ排気されています。(風力、温度差による発生圧力)
これはよくご家庭で窓を開けて換気するのに窓を開けた反対側、又は上の部屋の窓を開けるとよく換気する 原理に似ています。この物件にはせっかくサイディング材での通気工法を取っていたにも関わらず屋根頂上部の換気棟はなく、軒天のダンパーなどが施工してありましたが施工位置が効果の期待出来ない部分に付いていた為、湿気が排出されずに結露となり、グラスウール断熱材に染み込み2F天井の壁面からクロスの接着剤と混じり症状として出てきたと判断します。
さあ!換気棟を付けて湿気を飛ばしましょう!!
上の写真は既存の屋根棟板金をはがし、換気棟取付け部のヌキ板などを撤去したところです。
次に上の写真のように野地のてっぺんに穴を開けます。
屋根の表面温度は夏場で70℃超と言われ小屋裏の温度はおよそ60℃前後になると言われています。部屋の中ではエアコンで冷やす状態になり、冬場では屋根表面は冷たい空気にさらされ部屋は暖めて過ごす為に小屋裏結露が発生します。この穴を開けた時は夏場で熱風と同時に陽炎が立つ程に暖まっており、施工する際も突風が目に当たるので注意が必要な程でした。
次に換気棟を取り付けます。
上の写真のようにまず換気棟取り付け部にコーキングを付けます。これは換気棟と屋根材の間から水が入らないよう防水の意味と換気棟を真っ直ぐに調整するのにコーキングの方が調整しやすい為です。
当社では上の下段に写っているジェイベック㈱てっぺん換気棟を採用しています。黒い板状のものが換気棟本体になります。この換気棟は1本あたりの有効換気面積524?で風速50mの風にも雨水の浸水を許さない優れ物です。
換気棟てっぺんにヌキ板を固定します。
上の写真のように換気棟てっぺんの上にヌキ板を固定し、他の棟部にも板金の釘打ちしろを取る為、ヌキ板を固定します。
水返し加工
次に換気棟てっぺんを取り付ける両端部取り合いに板金加工して立ち上げを折り水返しを作ります。
板金取り合い防水処理
立ち上げした水返し板金と換気棟の間に隙間なくコーキングを充填します。
棟板金取り付け
先程の防水処理した上から加工した棟板金を取り付けます。下の水返し加工の立ち上げにかぶるように下に加工します。
棟板金固定
棟板金側面から下地に入れたヌキ板端部を狙って釘を打ち固定します。
換気棟てっぺん取り付け完了!!
最後に板金の重なりあった外側もコーキングで防水処理して完成!換気棟側面の換気孔から掃気します。
補足
Q
この物件は建売で何棟かある中でこの家だけが今回の結露による漏水を起しました。何故?
A
これは現在の建築事情と深く関係しています。今回、お客様の希望で勾配天井で広く見せたい!その上で予算がないので追加を安く納めたいように建築業者に申し入れたそうです。それを聞いた建築担当者がお客様のニーズに応えるのと同時に自社の利益を当然求めなければならない為、設計の計算上ではこれで大丈夫だからとローコストな材料とローコストの職人を手配してしまった経験不足に原因があるようでした。本来であればこのようなことが起こり得るので最低でもあとこのぐらいの予算がかかりますと説明があるべきですがそういう説明はなかったそうで結果的に建築担当者のこれで良しとする水準が低かった為に起きた現象と言えます。
まとめ
今回の家は勾配天井部の漏水でした。換気棟がついてなかったことと断熱材と野地板の間の空気層が狭まっていた為に水分を含んだ空気が密集している状態が結露発生の原因ですが換気棟がついていたとしても十分に空気が抜けるとは言えません。勾配天井の場合、通常の小屋裏のように空気が動くスペースが少ない為に綿密な空気層への配慮を行わなければ今回のようなケースが発生する可能性が極めて高まります。
この物件では室内天井部の断熱材が乗っていた桟木の下にボード状の発泡断熱材を下から打ちつけることで桟木分の厚さの空気層を多く稼ぎバルコニー外部軒天部に換気ダンパーを取り付け、換気棟てっぺんの掃気部に空気の動きを誘発させる考えで施工し問題解決しました。
感想
昔の家は寒くて風通しが良すぎるくらいでした。しかし、家の築年数は50年を超えてもなお家族を守る家として立派に役目を果たしてくれています。もっと風通しの良い仏閣や社寺は100~200年経っても腐ることなく未だに現役です。それは今のように部屋が暖かくなく、部屋と小屋裏などの温度差が殆どない状態の建物だったからです。技術や材料の進化で現代建築は住みやすい環境を求める一方で日本には四季があり、風土を理解する建築は住みづらく全てを叶えようとすればコストが上がり、建築が難しくなっていく現実を受け止めなければいけない建築関係者の経験不足が今回のような漏水などの原因を生み出していると感じます。
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