白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

扇興杯決勝

2018年07月15日 21時37分28秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は扇興杯決勝が行われました。
対局の模様は日本棋院ネット対局幽玄の間、Youtube「日本棋院囲碁チャンネル」にて中継されています。
そちらもぜひご覧ください。

それでは、私の印象に残った場面をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
牛栄子二段の黒番です。
上辺白が弱い場面ですが、ここで万波奈穂三段が打った白△は、最も積極的な捌きでした。
これだけ足を伸ばされると、黒としては当然咎めにいきたくなります。
実戦もAから切断にいきましたが・・・。





2図(実戦)
白△までと進んだ場面です。
黒は上辺を地にしましたが、その代わり白は黒×を取りにいくことになりました。
鮮やかな振り替わりですね。
ですが、これで終わりではありませんでした。





3図(実戦)
その後、白が黒×を取り、黒が白×を飲み込む振り替わりに!
一瞬で勢力図が入れ替わってしまいましたね。
形勢も良い勝負に見えます。
見事な分かれでした。





4図(実戦)
白1~7の打ち回しも目を引きました。
いかにものびのびとしていますね。

全体的に見て、万波三段はのびのびと打ち、牛二段は普段よりやや硬くなった印象でした。
そこが勝敗を分けたかもしれません。

蟻の一穴

2018年07月12日 23時40分41秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
最近休みが多くなっていますね。
このままでは「ほぼ毎日更新」と言えなくなりそう・・・。
軽く更新できるネタのストックも作っておきたいところです。

ところで、先日マイナビ出版に行ってインタビューを受けてきました。
こちらの記事にまとめて頂いています。
内容は著書関係はもちろん、AIの活用法など、多岐に渡ります。
ぜひご覧ください。

さて、本日は日本棋院棋士の公式対局日でした。
日本棋院ネット対局幽玄の間でも多くの対局が中継されています。
本日は面白い対局が多かった印象です。
日本棋院若手棋士アカウントでは、小池芳弘三段が色々と紹介していましたね。
その中から1つをご紹介しましょう。
広瀬優一二段(黒)と王銘エン九段の対局です。



1図(テーマ図)
王九段は独特の棋風で知らせていますが、広瀬二段も違うベクトルで独特です。
ここまでの展開は、プロである私が観戦していても驚きの連続でした。

さて、問題は白△と打った場面です。
現状、中央の黒が宙に浮いていることや、左辺の白の構えが手薄であることは比較的見やすいですね。
ですが、それだけでは現状認識としては不十分です。
黒はどこに目を付けたでしょうか?





2図(実戦)
実戦は黒△の割り込みでした!
白の集団はなんとなくつながっているようにも見えますが、僅かな欠陥がありました。
蟻の一穴という言葉がありますが、ここはまさにそんな場所でした。





3図(実戦)
白×は中央の黒を切り離している要石なので、捨てることができません。
ですから白1、3の対応は必然ですが、黒4の切りが後続手段です。





4図(実戦)
その後、黒△まで進んだ場面です。
白×が切り離され、眼形にも乏しい姿です。
そして、白が苦しむ間に黒は着々と右下方面を拡大しています。
白は踏んだり蹴ったりですね。

蟻の一穴が大変な結果を生みました。
プロの対局でもこんなことがあります。
皆様もぜひお気を付けください。

問題解答

2018年06月25日 23時20分03秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は昨日の問題の解答を発表します。
寺山五段に答えを聞いていないので、これは私の解釈です。
大丈夫だとは思いますが、万が一間違っていたらご指摘ください(笑)。



1図(正解1)
初手、白1の放り込み!
正解の第一歩であり、本問の「題意」でもあります。
この手のために作られた問題なのです。

こういう形は、気分的には白Aの方に打ちたくなるのですが、この場合は白1に限ります。



2図(正解2)
黒1と取らせ、それから白2(Aの所)とコウを仕掛けます。
黒3の時、白4という大きなコウ立てができていますね。
黒は受けるか、コウを解消するかの2択ですが・・・。





3図(変化図)
黒1と受けるのは、白2と取られてコウ立てに困ります。
黒3、5の連打では小さく、大差で白勝ちとなります。





4図(正解3)
そこで、2図の後は黒1とコウを解消する一手です。
白2の連打に対しては黒3のつなぎが必要で、そして白4のコウ取り・・・。
このコウ争いが、白が勝つための第2の関門です。
そして、これを突破できるかどうかは、実はスタート地点で決まっていたのです。

本図は黒から1つもコウ立てが無いので、白4に対しては黒はパスをするぐらいしかありません。
そこで白Aとつなげば、見事白1目勝ちとなりました。
これが本問の結論です。





5図(変化図)
前図白4の後、黒1と切る手はコウ立てになりません。
白△の位置が絶妙です。

1図の時点で、白△ではなく2線に放り込んでも途中までは同じになります。
ですが・・・。





6図(変化図)
その場合、黒1のコウ立てができてしまいます。
黒3と取られると今度は白のコウ立てが無く、白Aとつなぐしかありません。
黒Bとつながれると、結果は黒1目勝ちとなってしまいました。

いかがですか?
放り込む位置の違いが最後の明暗を分ける、面白い問題だと思います。
ただ、この知識が実戦で役立つ可能性は極めて低いですね(笑)。
囲碁の手筋というより、一種のパズルかもしれません。

ところで、パズルと言えば、張栩九段の「よんろのご」、一力遼八段の「終盤アナライズ」(9路盤問題)もパズル的な要素が強いですね。
そして、両者共に問題作成へのこだわりが凄いと聞きます。
寺山五段から話を聞いた限りでは、両者はさらにレベルの高い囲碁マニアのようです(笑)。
勝負を抜きにしても、囲碁には深い世界があるのです。

黄竜士杯第12戦

2018年06月07日 23時59分13秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
木曜日は日本棋院棋士の公式対局日です。
幽玄の間でも多くの対局が中継されました。
ぜひご覧ください。

さて、本日は黄竜士杯第12戦の感想を述べたいと思います。
黒はゼイ廼偉九段(中国)、白は崔精九段(韓国)です。
ゼイ九段はかつて世界最強の女流棋士でした。
一方の崔九段は、現在世界最強と呼ばれる棋士の1人です。



1図(実戦)
実戦の白△、またはAと下がるような手は、アマが打つと怒られてきました(笑)。
ただ、AIの影響か、最近はプロがこういった手を打つようになってきましたね。

これはAIの打った手に限らない話ですが、アマの皆様が真似すべきでないと感じる手は色々あります。
そういう手がプロの間で流行り出した時、決まって我々の間で交わされる言葉は「指導の時に困る」です(笑)。
基本が大切だと考えていますから、実際にはさほど指導法には影響を与えるわけではありませんが。





2図(実戦)
さて、本局のハイライトシーンは、なんと言ってもこの場面ですね。
右上白3子が弱いので、白Aとでも逃げる手が真っ先に思い浮かびますが・・・。





3図(実戦)
実戦は白△のツケ!
これにはビックリです。
白AとBを見合いにした手であり、捌きの手筋の1つではあります。
ただ、近くに黒△という敵の援軍がいるだけに、なかなか気が付きません。
強気の発想と言えますし、読みも入っているのでしょう。





4図(実戦)
その後、白が黒△を取り込むことになりました。
白△と伸びきった姿も美しく、白の捌きが成功したように見えます。

ゼイ九段は攻撃的な棋風として知られていますが、崔九段は捌きや凌ぎが力強い印象です。
本局は崔九段の特徴がよく表れた1局だったと思います。

これで中国は残り2人、韓国は1人となり、優勝の行方は最終日に持ち越されました。

6月の情報会員向け解説

2018年06月04日 21時55分42秒 | 日本棋院情報会員のススメ
皆様こんばんは。
本日は毎月恒例、日本棋院情報会員のPRを行います。

なお、過去の記事はこちらです。↓
第1回 第2回 第3回 第4回 第5回 第6回 第7回 第8回 第9回 第10回
第11回 第12回 第13回 第14回 第15回 第16回 第17回 第18回 第19回 第20回
第21回 第22回 第23回 第24回 第25回

今月は
2018年3月21日 第12回春蘭杯世界囲碁選手権 本戦1回戦 本木克弥八段-李世ドル九段
2018年3月31日 2017年グランドチャンピオン戦 決勝 井山裕太棋聖-河野臨九段
の2局を解説しました。
今回は井山-河野戦の解説の一部をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
Kiin Editor」キャプチャー画面です。
この局面から・・・。





2図(実戦進行)
このように進行しました。
ツケたりハネたりと忙しいですが、井山棋聖は何故このような打ち方をしたのでしょうか?

プロの対局を楽しむためには、対局者が何を考えて打っているかを理解したいところです。
そのためのお手伝いをするのが、解説者の最も大きな役割と言えるでしょう。
情報会員向け解説では、その点に力を入れて丁寧に解説しています。
それでは、実際の解説を見ていきましょう。





3図(実戦)
黒1「また、白には別の狙いもありました。
それを防ぐためのツケです。」


この手を打たないと、白からどんな狙いがあったのでしょうか?
それを次の参考図で示しています。





4図(参考図)
「白はシチョウ当たりを狙っています。
白3を利かされると、白5の逃げ出しが成立してしまいます。」


白はシチョウの逃げ出しを狙っていました。
逃げられては黒がバラバラになってしまいます。
そこで、シチョウ当たりを打たれる前に左上黒を補強しておこうというわけです。





5図(実戦)
白1「白はハネる一手ですが・・・。」
黒2「さらにハネ返しました。
プロの捌き筋です。」


プロの対局には、このような飛躍した打ち方が時々現れます。
このような打ち方は、なかなか真似することは難しいでしょう。
それでも、何を目的にして打っているのかを理解できれば、プロの対局を楽しむことはできます。





6図(参考図)
参考図その1です。

「黒1などは鈍重です。
白2と伸びられて形が悪く、白Aのノゾキも狙われます。」


左上黒を補強しようとしたはずなのに、弱点が残っては本末転倒ですね。





7図(参考図)
参考図その2です。

「また、黒1の押さえは1つの形ですが、白2がシチョウ当たりになってしまいます。」

こちらも、厳しいシチョウ当たりを打たせないという目的が達成できていませんね。
左上黒の補強と、白からのシチョウ当たり封じ、両方を防ごうというのが実戦の黒の狙いでした。





8図(実戦)
実戦に戻ります。

白1「ここまで利かしておけば、シチョウ当たりの厳しさを緩和しています。」
黒2「そして、ツケに回りました。
黒模様を大きく広げる作戦です。
ツケの連発は、いかにも井山七冠らしいですね。」


こちらのツケも飛躍した発想でしょう。
普通に打つとどうなるでしょうか?





9図(参考図)
「黒はシチョウを早めに抜いておくのが本手ですが、足が遅いとみたようです。
実戦はこの手を省略しようとしています。」


この図は無難ですが、井山棋聖はより積極的な打ち方を求めました。
実戦の進行と比べてみましょう。





10図(実戦)
黒2「目一杯の打ち回しですね。」
白3「白はつなぎが本手です。」
黒4「黒模様が大きく盛り上がりました。」


白3のところで参考図が入りますが、省略します。
9図と比べてみると、こちらの方が黒に勢いを感じませんか?
こういった場面で、棋士の個性が表れます。


いかがでしたか?
このような形で、序盤から終盤まで丁寧に解説しています。
なお、鶴山淳志七段も2局を解説しており、毎月の棋譜解説は計4局となっています。
ご興味をお持ちになった方は、ぜひ日本棋院情報会員にご入会ください!

ちなみに、今月の本木-李戦は先月鶴山七段が解説していたのですが・・・。
うっかり同じ棋譜を選んでしまいました。
次回からは、より慎重に確認したいと思います。
申し訳ありませんが、今月に関しては解説者によってどれだけ内容が変わるか、というところに注目して頂ければ幸いです。