白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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名局(一力-余戦)

2016年12月08日 23時56分26秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は、第20期女流棋聖戦決勝が行われ、牛栄子初段宮本千春初段を破り、初の挑戦手合出場を決めました!
謝依旻女流棋聖との三番勝負はどんな戦いになるのか、今から楽しみですね!

この対局の幽玄の間解説は、私が担当しました。
1手30秒の早碁なので、図が粗かったり、あちこちに文章のおかしい所が・・・。
ですが、なるべく多くの皆様に楽しんで頂けるよう、心がけたつもりです。
ぜひご覧ください。

さて、本日は木曜日、つまり棋士の手合日なので、多くの対局が幽玄の間で中継されました。
その中でも注目の対局は、何と言っても、余正麒七段一力遼七段
これからの囲碁界を担う2人の対局を、皆様にご紹介しましょう。
普段なら女流棋聖戦の方をご紹介するのですが、私が解説した碁をまたご紹介するというのも、「凝り形」ですからね(笑)。



1図(実戦黒55)
余七段の黒番です。
黒△と押さえた場面ですが、白としては、このまま2子を取られてはいけません。
どうすれば良いでしょうか?
腕に自信のある方は、考えてみてください。





2図(失敗図)
白1や白3のハネを利かしてから、白7、9の出切りというのは、まず目に付く手段でしょうが・・・。





3図(続・失敗図)
黒5まで、白攻め合い負けとなります。





4図(実戦白56~白60)
実戦は一本白1のハネを利かし、白3、5の切り込み!
鮮やかな手筋が飛び出しました!
次に黒はAかBですが・・・。





5図(変化図)
黒1には、白2の切りが成立します。
黒3には白4で、ぴったり両当たりになっています。





6図(実戦黒61~白64)
という訳で黒1と抜きましたが、そこで白2、4と繋ぎました。
次に黒Aと繋ぎたいのですが・・・。





7図(変化図)
黒1は、白2と切られて潰れます。
白10まで、手筋の効果で攻め合い白勝ちです。





8図(実戦黒65~黒75)
黒は仕方なく、黒1~11までと撤退しました。
しかし、黒△を取り込んだ上に、白12の打ち込みに回っては、明らかに白優勢になりました。





9図(実戦白112)
白△と打ったあたりでは、勝負あったかなと思っていました。
地合は大差です。





10図(実戦黒113~黒117)
黒1~5と切断されましたが、一力七段としては想定内でしょう。





11図(実戦白118~白126)
白9まで対応し、白AとBが見合いで生き、というのが一力七段の読み筋です。





12図(実戦黒127~白134)
実戦は黒1を1つ打ってから、黒3と中央の眼を取りました。
それなら白8と打って、ここに1眼作れば生きです。





13図(変化図その1)
黒1、3と打てば欠け目にできますが、白8までと脱出されてしまいます。





14図(変化図その2)
黒1、3と打てば、Aの所のコウ争いになります。
しかし、白にはコウ立てが多く、黒は望み薄です。
白の勝ちが決まったかと思っていました。





15図(実戦黒135)
ところが、黒1と打つ妙手がありました!
これで黒△が助かっています!
余七段、ずっとこの手を狙っていたのでしょうね。
恐らく一力七段も、この手をうっかりしました。




16図(変化図)
黒4まで、黒が助かっている事をご確認ください。
白は2眼できなくなってしまいました。
実戦は白Aから脱出を図りましたが、余七段が正確に仕留めました。

この碁は一力七段の快勝に終わるかと思っていましたが、余七段が妙手一発で逆転しました。
上辺での白の鮮やかな手筋、下辺での黒の妙手が、印象的な1局でした。

名局の定義とは何でしょうか?
私は、観戦者を感動させる碁と定義しています。
この碁は、間違いなく名局ですね。